なぜ揺れ続ける? 江戸時代の電気実験「自然と鐘を鳴らす術」の仕組みを徹底解説!(静電気ベル)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
江戸時代の電気実験を再現!
「え、江戸時代に電気?」と驚かれたかもしれませんね。侍や町人が行き交うあの時代に、実は電気の研究をしていた人物がいたのです! 忍者もびっくり? まるで忍術か魔法のように、自然と鐘を鳴らす不思議な実験。 今回は、江戸時代の科学者・橋本宗吉(はしもとそうきち)先生が記した、このロマンあふれる実験の再現に挑戦します。
「自然と鐘を鳴らす術」とは?
橋本宗吉先生は、オランダを通じて西洋の科学(蘭学)を学び、当時は「エレキテル」と呼ばれた電気の技術に夢中になった科学者の一人です。彼の著書『阿蘭陀始制エレキテル究理原(おらんだしせいえれきてるきゅうりげん)』には、静電気を使った驚くような実験がいくつも記されています。
その一つが「自然と鐘を鳴らす術」。 これは、静電気の力を使って金属の球を振り子のように動かし、左右の鐘を自動でカチカチと鳴らし続ける装置です。今でいう「静電気ベル」や「静電気振り子」と呼ばれるもので、実はこれ、アメリカの有名な科学者フランクリンが雷の電気を研究するために発明した「フランクリンの鐘」ととてもよく似た原理なんです。
当時の人々にとっては、誰も触れていないのに物が勝手に動いて音を出すなんて、本当に不思議な光景だったでしょうね。 今回は、静電気発生装置(バンデグラフ)という現代の道具を使って、宗吉先生の実験を再現してみました。

図は橋本宗吉著の『阿蘭陀始制エレキテル究理原』 『大人の科学マガジンvol22』(学研)P24,25より引用
実際に同じものを作ってみると、金属球が右にいったり、左に行ったりとゆれます。

動画では、たまにパチッと火花(放電)が飛んでしまっていますが、金属球がうまく左右に揺れて鐘を鳴らしているのがわかります。
どんな原理なの?
なぜ金属球は自動で揺れ続けるのでしょうか? その秘密は「静電気の力」にあります。まずは、静電気の性質を比べるために、電気を通しにくい「発泡スチロール」と、電気を通しやすい「アルミ箔を巻いたピンポン玉」を、静電気発生装置(バンデグラフ)に近づけてみましょう。

こちらの動画で、その様子をご覧ください。
発泡スチロールは、バンデグラフに引き寄せられたまま、くっついてしまいます。 これは「誘電分極(ゆうでんぶんきょく)」といって、発泡スチロールのような電気を通しにくい物質(絶縁体)の中で、電気がプラスとマイナスに少しだけズレて(分極して)、引き寄せられる現象です。電気そのものが移動するわけではありません。

対して、アルミ箔でまいたピンポン玉はどうでしょう? (アルミ箔は電気を通しやすい物質=導体です) バンデグラフに近づけると、最初は引き寄せられますが…

バンデグラフに触れた瞬間、今度は強く反発して離れていきます!

これこそが、今回の実験の鍵を握る「静電誘導(せいでんゆうどう)」と「電気の移動」です。 このピンポン玉の動きが、そのまま静電気ベルの原理になっているのです。
静電気ベルが鳴り続ける仕組み
では、電子(マイナスの電気)の動きに注目しながら、ステップバイステップで詳しく見ていきましょう!

ステップ1:静電誘導で引き寄せられる まず、バンデグラフの大きな球にマイナスの電気がたくさん溜まります。すると、吊るされた金属球(振り子)の中で「静電誘導」が起こります。金属球の中にある電子(マイナス)がバンデグラフのマイナスと反発し、できるだけ遠い左側へ移動します。その結果、バンデグラフに近い右側がプラスの電気を帯びた状態になります。マイナスとプラスは引き合いますから、金属球は右側のバンデグラフに向かって引き寄せられていきます。

ステップ2:接触して電気をもらう 続いて、金属球が大きな球にカチン!とぶつかると、バンデグラフに溜まっていたたくさんの電子(マイナス)が一気に金属球へ流れ込んできます。

ステップ3:反発して離れる 電子(マイナス)をもらった金属球は、全体がマイナスに帯電します。すると、バンデグラフの球(マイナス)と金属球(マイナス)は、同じ電気どうしで反発しあいます(斥力)。金属球は勢いよく左側へ弾き飛ばされます。

ステップ4:アースで電気を逃がす そして左側の球にカチン!とぶつかります。こちらの球はアース(地面)につながっており、電子(マイナス)の逃げ道になっています。金属球に溜まっていた電子は、アースを通って地面へと逃げていきます。

ステップ5:再びステップ1へ… 電気を失って元の中性(プラスマイナスゼロ)の状態に戻った金属球は、再びバンデグラフのマイナスによって「静電誘導」を起こし(ステップ1)、右側へ引き寄せられていきます。

これの繰り返しで、金属球は「引き寄せられる → 電気をもらう → 反発する → 電気を逃がす → また引き寄せられる…」という動きを自動で続け、右に行ったり、左にいったりとゆらゆら揺れながら鐘を鳴らすのです。
電子の目には見えない動きが、こんな面白い現象を生み出しているんですね。江戸時代の橋本宗吉先生も、きっとワクワクしながらこの現象を観察していたのではないでしょうか。手作りの静電気ベルはこちらです。
静電気発生マシーン(バンデグラフ)を使うと、こんな面白い実験が!!
このほかにもバンデグラフを使った面白実験も公開しています。この実験は、広瀬すずさん・鈴木亮平さん・やす子さん・チョコレートプラネッツの長田さん・松尾さん等とテレビ番組にて行った実験も含まれます。詳しくはこちらをどうぞ。

※ なお、静電気発生装置(バンデグラフ)を用いた実験については、必ず専門家の方の立ち合いのもと行ってください。お気をつけてお試しください。また静電気実験に関するご依頼(実験教室やTV監修・出演等)についてはこちらからお願いします。
【特集】やめられなくなる!静電気実験
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