ドアノブは悪くない!「静電気」の科学と、江戸時代に「妖術」と呼ばれた実験の話

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

冬の乾燥した日、金属のドアノブに手を伸ばした瞬間…「バチッ!」⚡ 思わず声が出る、あの嫌な衝撃。誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。あの小さな火花は、一体全体なんなのでしょうか? そして、その正体がまったく知られていなかった江戸時代、人々はそれをどう捉え、どんなスリリングな「実験」をしていたのでしょう?

この記事では、そんな身近だけど奥深い「静電気」の不思議な世界にご招待します。なぜ「バチッ!」とくるのかという基礎知識から、かの有名な平賀源内も関わった衝撃の実験「百人おどし」の歴史まで、一緒に楽しく学んでいきましょう!

この記事はPodcastにて配信中です。】

ここでは #静電気 をもった皆さんに、静電気についての基礎知識や、 #ライデン瓶 ・ #エレキテル ・ #百人おどし の歴史について紹介します。

静電気はなぜ起こるの?

すべての物質は「原子」からできていて、その原子は中心にあるプラス(+)の電気を持つ「陽子」と、その周りを回るマイナス(-)の電気を持つ「電子」などで構成されています。普段はプラスとマイナスの量が釣り合っていて、電気的に中性(電気ゼロ)です。ところが、物質同士がこすれ合うなどしてエネルギーが与えられると、物質から電子が飛び出すことがあります。

この「電子の飛び出しやすさ」は、物質によって違います。科学の世界では、電子1つを飛び出させるために必要な最小エネルギーを「仕事関数(しごとかんすう)W[J]」という言葉で表します。

図 仕事関数

物質によって仕事関数Wは様々に異なります。

図 物質と仕事関数

難しく聞こえますが、要は「仕事関数が小さい物質」ほど、電子が飛び出しやすい(電子を手放しやすい)ということです。逆に「仕事関数が大きい物質」は、電子が飛び出しにくい(電子をガッチリ持っている)性質があります。

図 同じエネルギーを与えられた場合の物質と仕事関数

この「電子を手放しやすい物質(仕事関数が小さい)」と「電子を受け取りやすい物質(仕事関数が大きい)」をお互いにこすり合わせると、電子が小さい方から大きい方へ移動します。(厳密には接触するだけでも移動は起こりますが(接触帯電)、こすることで接触面が広くなり、より多くの電子が移動するのです)。

図 物質から物質への電子の移動

 すると、もともとプラスとマイナスが釣り合っていたバランスが崩れます。電子(マイナス)を失った物質はプラスに、電子(マイナス)を受け取った物質はマイナスに偏ります。この、電気が偏った状態を「帯電(たいでん)」といい、この偏った電気が「静電気」の正体です。

図 物質と帯電

※1 なお摩擦による帯電現象は複雑で、接触帯電の他にも、圧力や熱などの効果による帯電などもある複雑な現象であることが知られています。より詳しくはこちらを御覧ください

この物質によってプラスに帯電しやすいもの、マイナスに帯電しやすいものを順番に並べた一覧表を #帯電列 といいます。

この表で、お互いに離れた位置にあるもの同士をこすり合わせると、より強く帯電します。例えば、左側にある「ナイロン」と右側にある「ポリエステル」をこすると、ナイロンはプラスに、ポリエステルはマイナスに帯電しやすいことがわかります。

そして、電気には大切な性質があります。それは、「同じ種類の電気(プラスとプラス、マイナスとマイナス)は反発し、違う種類の電気(プラスとマイナス)は引き合う」という性質です。

図 静電気の種類

 普段何気なく生活していても、ウールとアクリルの服の組み合わせによる服と服のこすれ、絨毯と足の間の摩擦などで、私たちは知らず知らずのうちに帯電していきます。夏のように湿度が高いと、空気中の水分(水蒸気)を通じて、体にたまった電気は自然と外に逃げていきます。しかし、空気が乾燥した冬は電気が逃げにくいため、体にどんどん静電気がたまってしまうのです。また、現代人はゴム底の靴をはくことが多いですが、ゴムは電気を通しにくい「絶縁体」なので、地面に電気が逃げるのを防いでしまい、余計に体に電気がたまりやすくなっています。

なぜ「バチッ!」と痛いのか?

そうやって体に静電気、例えばマイナスの電気が大量にたまってしまったとしましょう。その手で金属のドアノブを触ろうとすると…

図 ドアノブを触ろうとする

 まず、ドアノブ(金属)の中にある電子(マイナス)が、手のマイナスの電気に反発して、手の届かない遠い方へ逃げていきます。その結果、手に近いドアノブの表面は、一時的にプラスの電気が多くなります(これを静電誘導といいます)。

すると今度は、ドアノブのプラスの電気に引き寄せられて、指先に体中の電子(マイナス)が集まってきます。

図 指先にたまる電気

 手を近づけていき、ドアノブと手の間にたまった電気が限界(専門的には「電場」といいます)を超えると…具体的には1mあたり300万ボルト(1cmあたりなら3万ボルト!)を超えると、指先から電子が空気中に飛び出し、ドアノブに向かって一気に移動します。

図 電子の移動

 このとき、電子は空気の分子にも激しく衝突し、分子からも電子を弾き飛ばします。これによって、まるで雪崩(なだれ)が起こるように、一瞬で大量の電子が指から放出されます。これが「放電」現象です。

図 放電現象

 この放電の際に「パチッ」と音が鳴り、電気が体に流れて筋肉がピクッと収縮し、痛みを感じるのです。

これは体に静電気を蓄えて、スイッチにさわろうとしたときの放電の様子
この距離の放電であれば10万ボルトくらいであると考えられます。

 ちなみに、「パチッ」という音は、電流(電子の流れ)が空気を一瞬で猛烈に熱し、空気が急膨張するため、その衝撃波が音(圧力の波)となって聞こえます。雷のゴロゴロという音と同じ原理ですね。また、火花が見えるのは、弾き飛ばされた空気中のイオンが電子と再び結びつくときに、余ったエネルギーが光として放出されるためだと言われています。

ドアノブなどで感じる痛みは、神経に電気が流れて筋肉が収縮するためです。電圧は非常に高いですが、流れる電流の量(電気の粒の数)はほんのわずかなので、体に深刻なダメージはありません。

図 田中隆二・市川健二『産業安全研究所安全資料RIIS-SD-70-1』(労働省産業安全研究所)

 逆に、家庭用のコンセントは電圧こそ100Vと静電気よりずっと低いですが、もし漏電などで触れてしまうと、非常に大きな電流が流れ続けるため、命に関わる危険があります。静電気は「高電圧・微電流」、コンセントは「低電圧・大電流」と覚えておきましょう。

このような急激な放電による不快感を防ぐには、ドアノブなどの金属に触れる前に、まず壁や木など、電気を通しにくい(でも少しは通す)ものを一度触って、自分にたまった電気をゆっくり逃がしてあげると効果的です。また、電気を逃がすときには、指先など尖った部分から触れず、手のひら全体でベタッと触れると、電気が一点に集中しにくくなり、放電が起きにくくなります。静電気が苦手な人はぜひ試してみてくださいね。

静電気が放電されるときの電圧は何ボルト?

私たちがドアノブなどで「バチッ!」と嫌な思いをするときの電圧は、一体どれくらいなのでしょうか?「電磁気学現象露論」(竹山説三著)によれば、空気中で放電が起こる目安は1mあたり300万ボルトという凄まじい電圧です。

もし、指とドアノブの間が1cmくらいの距離で放電したとすると、その電圧はおよそ3万ボルトにもなります。指先が3mmくらいまで近づいて「バチッ!」ときた場合でも、およそ1万ボルト。日常生活でよくある1mm程度の小さな放電でも、約3000Vもの電圧がかかっている計算になります。

 なお、これはドアノブの形状やその日の湿度によっても大きく変わりますが、一つ知っておいてほしいのは、基本的にはドアノブなどの物に静電気がたまっているのではなく、摩擦によって私たち自身の体に静電気がたまっているということです。ドアノブは悪くないんですね。

 また、自然界で起こる雷は、このような火花放電とは少し異なり、もっと弱い電場(1mあたり約20万V)でも発生することが知られています。こちらを参考にしてください

ライデン瓶・エレキテル・百人おどしの歴史的な経緯

さて、今でこそ「静電気」の正体は電子の移動だとわかっていますが、昔の人々にとってはまさに「謎の力」でした。

江戸時代、この不思議な力を使って人々を驚かせたのが、あの有名な「江戸のレオナルド・ダ・ヴィンチ」こと、 #平賀源内 先生です。そして、源内が見世物として使った装置を使い、さらに科学的な実験…あの「百人おどし」を解説したのが、日本の電気学の祖ともいわれる #橋本宗吉 (はしもとそうきち)先生です。

彼らが活躍した時代、ヨーロッパでは「電気」の研究がブームになっていました。そのきっかけとなったのが「ライデン瓶」と「エレキテル」です。

電気を「ためる」瓶の登場

ライデン瓶…1746年にオランダのライデン大学の科学者ピーテル・ファン・ミュッセンブルークによって発明された、電気をためることができる装置です。それまで「発生させる」ことはできても「蓄積する」ことが難しかった電気を、瓶の中に閉じ込めることに成功した、画期的な発明でした。仕組みは現在の「コンデンサー」と基本的に同じで、ガラス瓶の内側と外側に金属箔を貼り付けたシンプルな構造です。手作りの方法はこちらにまとめました

電気を「つくる」機械

エレキテル…オランダで発明された、摩擦によって静電気を起こし、それを内部にあるライデン瓶にためる装置です。ハンドルをぐるぐる回すと、ガラス円盤などが回転して摩擦が起こり、静電気が発生します。 日本では、平賀源内が壊れたエレキテルを修理・復元したことで一躍有名になりました。

国立科学博物館で展示さえているエレキテルの複製

『日本の伝記 平賀源内』(集英社)より引用

国立科学博物館展示物説明より

国立科学博物館展示物説明より

江戸の衝撃実験「百人おどし」

百人おどし…そして、このエレキテルとライデン瓶を使って行われたのが「百人おどし」です。これは、手をつないで輪になった複数の人々に、ライデン瓶にためた電気を一気に流すという、今考えるとかなり大胆な公開実験です。

図は橋本宗吉著の『阿蘭陀始制エレキテル究理原』 『大人の科学マガジンvol22』(学研)P24,25より引用

国立科学博物館展示物説明より

この実験を紹介したのが、蘭学者の橋本宗吉先生です。彼はエレキテルを用いて様々な電気実験を行い、『阿蘭陀始制エレキテル究理原(おらんだしせいえれきてるきゅうりげん)』という本にまとめました。

面白いのは、平賀源内と橋本宗吉のスタンスの違いです。 平賀源内先生は、研究者というよりは発明家やプロデューサーといった側面が強く、エレキテルを復元はしたものの、その仕組みを科学的に詳しく調べるというよりは、主に「見世物」として紹介し、人々を驚かせるエンターテイメントとして使ったようです。

エレキテルで人間に電気をためてから、放電している様子が伺えますね。

それに対して橋本宗吉先生は、純粋な研究者タイプ。電気という現象を「奇術や見世物のような扱いはしてほしくない」という強い思いがあり、科学的な探求として「百人おどし」などの実験を行っていたようです。

しかし、その思いも空しく、寺子屋で生徒たちに電気ショックを与える実験(おそらく百人おどし)を行ったところ、当時の親たちが「あれは妖術だ!」と大騒ぎになってしまいました。その結果、せっかく書き上げた『阿蘭陀始制エレキテル究理原』は、幕府によって出版禁止の処分を受けてしまったそうです。科学の夜明け前、当時の人々の驚きと戸惑いが伝わってくるエピソードですね。

なお、当時の平賀源内先生が作ったエレキテルの性能は推定3000ボルトくらい、橋本宗吉先生のものは改良されて8000ボルトくらい出たのではないか、とのことです。ドアノブの「バチッ!」に匹敵、あるいはそれ以上の電圧を、江戸の人々は体験していたのですね。

静電気発生マシーン(バンデグラフ)を使うと、こんな面白い実験が!!

エレキテルは現代にも進化して受け継がれています。「バンデグラフ(静電気発生装置)」という機械を使えば、もっと強力な静電気を安全に発生させることができ、髪の毛が逆立つような面白い実験ができます。

バンデグラフを使った面白実験も公開しています。この実験は、広瀬すずさん・鈴木亮平さん・やす子さん・チョコレートプラネッツの長田さん・松尾さん等とテレビ番組にて行った実験も含まれます。詳しくはこちらをどうぞ

※ なお、静電気発生装置(バンデグラフ)を用いた実験については、必ず専門家の方の立ち合いのもと行ってください。お気をつけてお試しください。また静電気実験に関するご依頼(実験教室やTV監修・出演等)についてはこちらからお願いします

【特集】やめられなくなる!静電気実験

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