ノーベル賞の地から遥か北へ!スウェーデンの田舎で見つけた、橋が語る科学の美
授業で構造物の強度やデザインについて話す際、どのような例を挙げていますか?おそらく、身近な建物や有名な橋、あるいは教科書に載っている図などが主ではないでしょうか。しかし、もしその構造物が、遠い異国の地で、まるで絵画のように美しい景色の中に溶け込んでいるとしたら、生徒たちの知的好奇心は、きっとさらに刺激されるはずです。
2015年にノーベル賞晩餐会が開かれるストックホルムの会場を訪れるました。その興奮冷めやらぬまま、スウェーデンの素朴な田舎へと足を延ばす旅をしてまいりました。以前のブログ記事では、その旅の途中で出会った「アーチ構造」の美しさについて触れましたが、今回はその旅で見つけた、また別の「美しい構造」を持つ橋についてご紹介したいと思います。
私自身、科学とデザインが融合した構造物を見るたびに、その巧妙な原理と見事な造形に心を奪われます。遠く離れた異国の地で、偶然にもそんな「科学の美」に出会えたことは、理科教師としてこの上ない喜びでした。さあ、北欧の美しい自然の中にたたずむ橋が、私たちに教えてくれる科学の物語を一緒に紐解いていきましょう。
ダーラナ地方の隠れた宝石:トラス構造の橋
訪れたのは、スウェーデンの首都ストックホルムから電車で約2時間、さらにバスで30分ほどかかるダーラナ地方という場所です。
ストックホルムの洗練された雰囲気とは対照的に、ダーラナは赤い屋根の建物が特徴的な、絵本から飛び出してきたような美しい田舎町でした。ダーラナホースという、赤い木彫りの馬の置物を見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、その発祥の地でもあります。お店の窓にも、可愛らしいダーラナホースが飾られていて、心が和みました。
特にこれといった観光スポットがあるわけではないのですが、宿で自転車を借りてあたりを気ままに散策するだけでも、この土地ならではのゆったりとした時間が流れ、なんとも言えない心地よさを感じました。日本の田舎にもどこか通じるような懐かしさがあり、異国にいることを忘れそうになるほどです。
そんな散策の中、私が一番心を奪われたのが、1922年に建設されたという、ダーラナのシンボルとも言える美しい橋でした。
1. 遠くから見た橋の佇まい
遠くから橋を見た時、まず目に飛び込んできたのは、鏡のように澄んだ水面に映る、その鮮やかな赤色でした。まるで絵葉書のような光景に、思わず見とれてしまいました。
2. 近づいて見えてきた「トラス構造」の美学
橋に近づくと、その構造の緻密さに驚かされます。以前ご紹介した「アーチ構造」とは異なり、この橋は「トラス構造」でできていました。
これは橋を遠くからみたところ
近寄ってみるとこんな感じでした。
美しい三角形の構造が連なっています。
トラス構造とは、部材を三角形に連結して組み合わせた骨組み構造のことです。三角形は、外から力が加わっても形が崩れにくいという、非常に安定した図形です。この特性を活かすことで、少ない材料で強度を保ち、大きな荷重に耐えることができるため、橋や屋根、鉄塔など、様々な大規模構造物に利用されています。
このダーラナの橋では、細い部材が美しい三角形のパターンを連続して形成し、それがまるで芸術作品のように目に飛び込んできました。赤いトラス構造と、それを映し出す澄んだ川面が織りなす光景は、まさに「科学と美の融合」と言えるでしょう。
トラス構造の科学:なぜ三角形なのか?
理科の授業でトラス構造を取り上げる際、生徒たちに「なぜ橋は三角形をたくさん使っているのだろう?」と問いかけてみてください。
- 力の分散: 三角形は、頂点に加わった力を辺に沿って効率よく分散させることができます。例えば、四角形に力を加えると簡単に変形してしまいますが、対角線に一本線を追加して三角形に分割すると、途端に安定します。
- 圧縮と引張: トラス構造の各部材には、主に「圧縮力」と「引張力」という二種類の力がかかります。複雑な曲げの力がかかりにくいため、材料を効率的に使うことができるのです。
このダーラナの赤い橋は、まさにトラス構造の教科書のような存在でした。シンプルながらも力学的な合理性に裏打ちされたそのデザインは、100年以上前の技術が、いかに洗練されていたかを物語っています。
前回のアーチ構造と今回のトラス構造、それぞれの特徴や長所、短所を比較しながら授業で紹介すると、生徒たちはより深く構造の面白さを理解してくれるはずです。外国の田舎を旅すると、思わぬところで科学の発見があり、本当に楽しいですね!皆さんも、身の回りの構造物に目を向けて、その背後にある科学の美しさを探してみてはいかがでしょうか。
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