火山灰が宝石に?授業が盛り上がる「椀がけ」実験のコツ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
泥の中に眠るタイムカプセルを探そう!
子どもたちの目を輝かせる「火山灰の観察」。でも、ただ顕微鏡を覗くだけでは、その小さな粒の奥に隠された壮大な物語は見えてきません。火山灰という名前から、何かの燃えかすだと思っている生徒もいるかもしれませんが、実はそれは地球の歴史を封じ込めたタイムカプセルなのです。この実験を成功させるためには、ちょっとした魔法が必要なのです。それが、地味ながらも奥が深い「椀がけ」の技術です。このひと手間で、ただの泥が、数十万年の地球の歴史を語り始める教材に変わります。
なお、椀がけとは、理科の実験で使われる、砂や火山灰から重い鉱物(重鉱物)を選り分ける方法です。椀状の容器を使い、水と比重(密度)の差を利用して物質を分離することから、この名前がついています。
今回は、関東ローム層と桜島の火山灰を例に、子どもたちが「先生、宝石みたい!」と思わず叫びたくなるような、驚きと学びを引き出す椀がけ」のコツお伝えします。
理科の授業を特別な体験に
椀がけとは、砂や火山灰に含まれる重い鉱物(重鉱物)を、水の浮力を利用して選り分ける実験方法です。椀状の容器を使い、比重の差で物質を分離することから、この名前がついています。
この実験は、単なる観察に留まりません。子どもたちにとって、それは「掘り出し物」を見つける宝探しです。火山灰が「ものを燃やしてできた灰」ではないこと、その一粒一粒が遠い過去の火山噴火の証拠であること。この事実を、自分の手で確かめることができるのです。
授業準備に必要なもの
・鹿沼土(かぬまつち):群馬県の赤城山の噴火によってできた火山灰が風化したもの。やや白っぽく、多孔質(小さな穴がたくさん)で、軽くて水はけのよい構造です。
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・赤玉土(あかだまつち):栃木県の男体山の噴火によってできた火山灰由来の土。赤茶色でやや重たく、粒の表面が比較的滑らかなのが特徴です。園芸店でどちらの土も売られています。
・水
・シャーレ
・双眼実体顕微鏡(倍率20〜40倍程度)または顕微鏡(40倍)
・ピンセット
・小筆
・キッチンペーパーやティッシュ(乾かすとき用)
雲仙・普賢岳と桜島の火山灰の観察
観葉植物の土に眠る火山にワクワクしたところで、次は実際に遠い火山の火山灰を観察してみましょう。今回は、雲仙・普賢岳と桜島の火山灰を用意しました。
椀がけの具体的な手順とコツ
今回は、園芸店で手に入る関東ローム層の「鹿沼土」と、別に用意した桜島の火山灰を使いました。
お椀に土を入れ、水を少しだけ加えます。
ここでのポイントは、親指の腹で丁寧に押し潰しながら洗うことです。指でゴシゴシとこすることで、泥や粘土などの細かい粒子と、鉱物の粒を分離しやすくなります。ある程度押し潰したら、水を少し入れて上澄みをパットに捨てます。水道管に流すと詰まる危険があるため、必ずパットに捨てるように生徒に指示しましょう。これを繰り返して、濁りがなくなるまで丁寧に洗い落としていきます。
濁りがなくなったら、残った鉱物をキッチンペーパーの上に出し、もう一枚のペーパーで優しく押さえて水分を吸い取ります。
乾燥させた鉱物をスライドガラスに乗せ、軽くトントンと叩いて広げます。
椀がけの成否
椀がけが不十分だと…
泥がまだ残っていて、鉱物がはっきりと見えません。
椀がけがうまくいくと…
このように、色とりどりの鉱物が鮮明に観察できます。
関東ローム層からは、中央に斜長石、左側に石英が見られます。
桜島の火山灰から学ぶ地学の物語
桜島の火山灰は、関東ローム層よりもさらに綺麗に鉱物が見えるのが特徴です。
透明なもの、黄色、茶色、黒色…様々な色や形の鉱物が観察できます。
これらの鉱物は、マグマが冷えて固まる過程で生まれた結晶です。色や形、硬さの違いは、マグマの成分や冷却速度によって決まります。例えば、黒っぽい有色鉱物(角閃石、輝石など)は鉄やマグネシウムを多く含み、白い無色鉱物(石英、斜長石など)はシリカを多く含みます。
観察してわかったこと
左が雲仙・普賢岳、右が桜島の火山灰です。雲仙・普賢岳の火山灰は白っぽい色をしており、桜島のものは黒っぽい色をしていました。この色の違いは、マグマの成分や噴火の様子が異なることを示しています。
地域ごとの火山灰の違いを見せることで、生徒の興味を引きつけられます。「有色鉱物」「無色鉱物」という言葉を、実物を見せながら導入できます。火山灰の色や粒の形から、噴火のタイプ(爆発的か、粘性の強さなど)に話を広げることもできます。
実体顕微鏡を使った観察は、地学分野では珍しく、生徒の「理科=目で見る学問」という感覚を育てる絶好のチャンスです。ちょっとした準備でできるので、ぜひ理科室の双眼実体顕微鏡、出番を作ってあげてください!
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