臨界角48°が生み出す魔法。ペンギンが見ている『もう一つの世界』の物理学(すみだ水族館)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
水槽を下から見上げたとき、空が丸く切り抜かれたように見える。そんな不思議な体験をしたことはありますか?すみだ水族館のペンギン水槽でまさにその現象に出会いました。青く染まった水底の中に、ぽっかりと浮かぶ丸い窓。その窓の向こうには外の世界が見えています。なぜこんなことが起きるのか。実はこれ、高校物理で習う「光の屈折と全反射」が生み出す、自然界の精巧なトリックなのです。
すみだ水族館で出会った、不思議な景色
先日、すみだ水族館を訪れました。ここの目玉は屋内にあるペンギンの大きな水槽です。2階から水槽を覗きこむと、底の青がよく見えます。

2階からだと水槽の底の青がよく見えます
そして1階に降りると、水槽を下から見上げることができます。そのとき目に飛び込んできた光景が、こちらの動画です。
水を通して空を見上げると、画面の一部は青く染まって外の世界が見えない部分と、画像右上のように外の世界がはっきり見える部分に、くっきりと分かれています。まるで水中に丸い窓が開いているようです。

この現象は箱根園の水族館でも確認できました。次の動画も合わせてご覧ください。
ちなみに、あの神秘的なブルーの正体は意外とシンプルで、水槽の底のコンクリートに塗られた青色です。

では、なぜ「丸く切り抜かれたような窓」ができるのでしょうか。その秘密に迫ってみましょう。
鍵は「光の屈折と全反射」——高校物理の出番
この現象のカギは、光が水と空気の境界で曲がる「屈折」と、ある角度を超えると光が水面を突き破れなくなる「全反射」という二つの性質にあります。まず、水槽を斜め下から見上げると、天井の光が水面で屈折して目に届きます。光は「逆進性」といって、目に届く光の道筋を逆にたどることができます。

次に、少し目線を水平に近づけていくと、あるところで外の世界が見えなくなります。この「境目の角度」を臨界角といいます。空気の屈折率をおよそ1、水の屈折率をおよそ1.33として計算すると、この臨界角は約48°になります。(高校生はぜひ関数電卓でアークサイン(arcsin)を使って計算してみてください!)
臨界角より浅い角度で見上げると外の世界が見え、それより深い角度になると光が水面で全反射してしまい、外の世界は見えず水底の青だけが映ります。

この「見える・見えない」の境界線は、水平方向に360°広がっています。つまり立体的に見ると、丸い窓のような形になるのです。これが「魔法の丸い窓」の正体です。
(※実際には水槽のガラスと空気の間でも屈折が起きるため、臨界角は48°よりも少し大きくなります。)
ペンギンが見ている世界は、丸い窓から覗いたような景色
もう一度、2階から撮った写真を見てください。

上から見ると水底の青が全面に見えるのに、水中から見上げると丸い窓の中にだけ外の世界が見える。不思議ですよね。
実は水の中で生きるペンギンたちも、この「丸い窓」を通して私たちを見ています。彼らにとっての「空」は、水面いっぱいに広がるのではなく、丸い窓の中にちょこんと収まった小さな世界なのです。魚や水生生物が「水面の丸い窓」から外の世界をのぞく、この現象はSnell’s window(スネルの窓)とも呼ばれ、水中写真家にとってもよく知られた光学現象です。
すみだ水族館に行ったら、ぜひ1階から水槽を見上げてみてください。(デートで水族館に行ったとき、こんな話をしてみてはどうでしょう。あ、盛り上がるかどうかの責任は負いかねます……)
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