ペットボトルで「夕焼け」を再現!牛乳でわかる光のマジック「散乱」の秘密

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

息をのむほど美しい夕焼け。今回は「夕日がなぜオレンジ色や赤色になるのか」という空の大きな謎に迫る、簡単で楽しい実験を紹介します。

夕焼けが美しい理由、それは光の散乱(さんらん)という現象に関係しています。難しそうに聞こえるかもしれませんが、この実験を通じて、きっとその仕組みにワクワクするはずです。

さらに、この実験の「タネ」である牛乳の粒が、顕微鏡の下で“生きている”ように動く様子も覗いてみましょう!

科学のレシピ:ペットボトルで夕日を再現しよう!

用意するもの:

ペットボトル(1.5リットル)2本

牛乳(石鹸水でもOK)

懐中電灯

なお懐中電灯はこちらのような、光が強く、まっすぐ進むものが観察しやすいです。

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方法:

まずは準備! ペットボトル2本に水をいっぱいまで入れましょう。

次に魔法の一滴! 1つのペットボトルに牛乳を数滴垂らして、全体がほんのり白く濁るまで調整します。入れすぎないように注意! スポイトなどで一滴ずつ加えて、ちょうどいい濁り具合にしましょう。

暗闇で光を照らそう!(比較)

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 部屋を暗くして、懐中電灯を底にくっつけ、何も入れていない(水だけの)ペットボトルを照らしてみましょう。光がボトルをまっすぐ通過し、反対側(キャップ)まで白く届くのがわかりますね。

さて、本番! 次に、牛乳が入ったペットボトルを同じように照らしてみましょう。水だけのボトルとどんな違いがあるか、ボトルの横からと、キャップの真正面からよーく観察してみてください。

結果:

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 水だけのペットボトルでは、光がそのまま白く通過しました。  しかし、牛乳が少し入ったペットボトルではどうでしょうか? 横から見ると、光の通り道が青白く見えませんか? そして、光の出口であるキャップ付近を真正面から見ると…なんと、白からオレンジ色、そして赤色へと変化しています! まさに夕日と同じ色ですね。

なぜ? ペットボトルが夕焼け空になる仕組み

この不思議な現象のカギは、牛乳に含まれる目に見えないほど小さな 「粒子(脂肪やタンパク質)」 です。

光の「色」と「波長」 太陽や懐中電灯の光は、一見すると白く見えますが、実際には虹のように様々な色の光が混ざっています。光は「波」の性質を持っていて、色によって波の長さ(波長)が違います。

青い光:波長が「短い」

赤い光:波長が「長い」

「散乱」という邪魔者 光が空気中や水中の小さな粒子にぶつかると、光はあちこちに散らばってしまいます。これを「光の散乱」といいます。 このとき、波長の短い「青い光」は、粒子にぶつかりやすく、あちこちに散乱しやすい性質があります。 一方、波長の長い「赤い光」は、粒子をすり抜けて、まっすぐ進みやすい性質があります。

実験の解説 牛乳入りのペットボトルでは、光がたくさんの「牛乳の粒子」にぶつかります。

横から見ると青白い:懐中電灯の光がボトルに入ると、すぐに「青い光」が散乱を始めます。その散らばった青い光が私たちの目に入るため、光の通り道は青白く見えます。

出口が赤く見える:光が出口(キャップ)にたどり着く頃には、青い光は途中で散乱し尽くしてしまいます。その結果、粒子を通り抜ける力の強い 「赤い光」だけがまっすぐ進み、私たちの目に届く のです。

これが「空」で起こっていること

この実験は、そのまま地球の「空」で起こっていることを再現しています。

牛乳の粒子 = 空気中のチリや水蒸気などの「目に見えない小さな粒」

ペットボトルの水 = 地球をおおう「大気(空気の層)」

懐中電灯 = 「太陽」

昼間(空が青い理由): 太陽が真上にあるとき、光が通る大気の層は「短い」です。このとき、私たちの頭上で「青い光」が散乱し、空全体が青く見えます。

夕方(夕焼けが赤い理由): 太陽が地平線に沈むとき、光は大気の層を「長く」「ななめに」通ってきます。まるでペットボトルの底からキャップまでのように。 すると、青い光は私たちの場所に届く前に途中で散乱し尽くしてしまいます。その結果、まっすぐ進んできた 「赤い光」だけが私たちの目に届く のです。これが、夕焼けの正体です!

顕微鏡で見える「生きてる」世界:ブラウン運動

さらに、この実験で大活躍した牛乳の溶液を顕微鏡で覗いてみると、もっと面白いことが見られます。150倍くらいの顕微鏡で見ると、牛乳の中のタンパク質の粒子が見えます。

そして、その粒子がまるで生きているかのように、あっちにふらふら、こっちにふらふらと不規則に動いているんです!

これは、粒子自体が生きているわけではありません。目に見えないほど小さな「水の分子」が、熱をもって(=熱運動して)激しく動き回り、牛乳の粒子に四方八方から「ぶつかっている」証拠です。この現象を「ブラウン運動」と呼びます。

光の散乱(波動)から、粒子の熱運動(熱力学)まで、牛乳一本でたくさんの科学につながるなんて、面白いですね!

グスコーブドリの伝記と「銅色」の空

この「光の散乱」は、文学作品にもつながっています。 宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」には、冷夏が続く中、日の光が銅色(茶色)になったという記述があります。

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グスコーブドリの伝記より

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グスコーブドリの伝記より

 これは、賢治が生きた時代(今からおよそ100年前)、大きな火山の噴火により、その火山灰が地球全体を覆ってしまったためと考えられています。

つまり、地球の大気中に、牛乳の粒子を大量に入れたのと同じ状態です! 粒子が多すぎたため、昼間から青い光が完全に散乱されてしまい、太陽が赤黒い「銅色」に見えたのです。実験で見たあの色が、賢治の生きた時代の空を覆っていたのかもしれませんね。

科学の世界は身近なところにたくさん隠れています。実験を成功させる一番のポイントは、光量の多いLED懐中電灯を用意することです。ぜひ試してみてください!

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次はペットボトルを使って、虹作りに挑戦してみてはいかがでしょうか?

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