【科学監修】マンションから降ってきた泥団子の恐怖!科学で解き明かす「まさか」の威力!「サン!シャイン」

道端に転がっている、ありふれた「泥団子」。子どもの頃、夢中になって作った方も多いのではないでしょうか。では、もしその泥団子が、空から猛スピードで降ってきたとしたら…?

「まさか、そんなことで大怪我なんて…」

そう思うかもしれません。しかし、実際にそんな「まさか」の事故が起きてしまいました。

ある日、「子どもが投げた泥団子がマンション10階から落下し、通行人の男性が頭に大けがを負った」という衝撃的なニュースが、熊本市から舞い込んできたのです。このニュースを聞いて、誰もが「たかが泥団子で?」と首をかしげたのではないでしょうか。

日常に潜む「なぜ?」を科学で解き明かすのが私の仕事です。

このニュースを受け、フジテレビ「サン!シャイン」の番組スタッフから、「この出来事を科学的に検証してほしい」という一本の電話が入りました。そして2025年5月22日(木)の放送で、私が科学監修として参加することになったのです。

今回のテーマは、まさに科学探偵の出番。「泥団子は、高層階から落ちると本当に”凶器”になるのか?」この謎を、物理の法則を武器に解き明かしていきます。

高さがエネルギーを生み出す!ジェットコースターと同じ原理

まず、なぜ高いところから落ちるものは危ないのでしょうか?

それは、物体が「位置エネルギー」という力を持っているからです。少し難しい言葉に聞こえますが、ジェットコースターを思い浮かべてみてください。一番高いレールの上まで登りつめたとき、景色を眺める余裕もなく、心臓がドキドキしますよね? あの瞬間、ジェットコースターは最も多くの位置エネルギーを蓄えているのです。「これから猛烈なスピードを出すぞ!」というポテンシャル(可能性)のエネルギー、それが位置エネルギーです。

そして、落下が始まると、この「高さ」という名のエネルギーが、どんどん「速さ」のエネルギー(運動エネルギー)に変換されていきます。高さという”貯金”を、スピードという”現金”に両替していくイメージです。

つまり、泥団子もマンション10階という高さにあるだけで、とてつもないスピードを出す準備が整っていた、ということになります。

衝撃の計算結果!その威力はペットボトル11本分!?

実際の放送では、泥団子の重さを90g、落下した高さをマンション10階に相当する約30mと仮定して、どれほどの衝撃になるのかを計算しました。その結果は、私たちの想像をはるかに超えるものでした。

なんと、地面(あるいは人の頭)に衝突した瞬間、約5.5kgのペットボトル(500ml)が11本、同時に頭の上にドンッ!と乗っかるのと同じくらいの力が、ごく短い時間に集中して加わるという計算になったのです。

なぜ、たった90gの泥団子がそんな巨大な力に化けるのでしょうか?

それは、持っていた運動エネルギーが、衝突によって「一瞬」でゼロになるからです。速いボールをキャッチするとき、グローブを少し後ろに引きながら捕りますよね。あれは、ボールが止まるまでの時間を長くして、衝撃(衝撃力)を和らげているのです。もし腕を固定したままカチッと受け止めたら、ものすごく痛いはずです。

泥団子の衝突は、まさに後者。硬い頭蓋骨にぶつかることで、エネルギーが逃げ場を失い、一点に集中して牙をむくのです。

科学の教訓は宇宙へもつながる

昔、ガリレオ・ガリレイという科学者が「重い鉄球も軽い木の玉も、ピサの斜塔から落とせば同時に地面に着く」と考えた、という有名な話があります。 今回の事件は、その物理法則の恐ろしさを物語っています。たとえ軽くても、十分な高さから落ちれば、空気の抵抗をものともせず、危険な速度に達してしまうのです。

この「小さな物体が、スピードによって脅威となる」という原理は、遥か宇宙でも同じです。宇宙空間には、ロケットの破片などが「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」として、弾丸よりも速いスピードで飛び交っています。数センチの小さな金属片でも、国際宇宙ステーションに衝突すれば大惨事を引き起こしかねません。

そう考えると、今回の泥団子は、まさに「地上のスペースデブリ」と言えるかもしれませんね。

今回の放送内容は、gooニュースでも詳しく取り上げられています。ぜひご覧ください。

https://news.goo.ne.jp/article/fnn/life/fnn-875672.html

また、「もっと詳しい計算方法が知りたい!」という探究心あふれる方のために、計算の詳細を解説したページも用意しました

「タライが頭に落ちたら何キロの衝撃?」を本気で計算してみた

今回の事件は、科学を知ることが、いかに私たちの安全な生活に繋がっているかを教えてくれます。何気ない日常に潜む科学の法則に、これからも光を当てていきたいと思います。

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