「タライが頭に落ちたら何キロの衝撃?」を本気で計算してみた

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

ちょっと空想的な話ですが、理科的にはけっこうリアルな計算をしてみようと思います。テレビ番組のドッキリやドリフでよく見る「タライが頭に落ちてくる」シーン。あれ、実際に自分の頭に落ちて衝突したら、どの程度の衝撃を受けるのでしょうか?

まずは身近な例から始めてみます。たとえば陶器のカップを床に落としたとき、カップが割れるか割れないかは「どこに落ちるか」に大きく左右されます。硬いコンクリートの上に落ちたらすぐに粉々。でも、ふかふかのマットや絨毯なら、案外無事だったりします。

この違いは、実は「衝突にかかる時間」によって衝撃(平均の力)の大きさが変わるからです。力積によれば、運動量の変化が同じでも、その変化が短時間で起きれば大きな力が加わりますし、ゆっくり止まれば力は小さくてすみます。つまり、割れるか割れないかは「どれだけゆっくり止まれたか」がカギなのです。

この記事の内容はラジオで聞くことができます!

実際に計算してみましょう!~バケツが落ちてきたら?~

では、本題の「タライが頭に落ちる」ケースを見てみましょう。次の過程のもとで計算を行いました。

・初速度が0m/sの自由落下
・バケツの質量:500g=0.5kg(アルミ製)
・落下の高さ:0.50m
・衝突時間:10ms(=0.010秒)
・衝突後の速さ:0(完全に止まる)

このとき、頭に加わる平均の力の大きさを求めてみます。

【ステップ①】落下直前の速さを計算します

仕事とエネルギーの関係から、落下物の速さ v は

\[v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.5} ≒ 3.13 \, \text{m/s}\]

【ステップ②】バケツの運動量を計算します

\[p = mv = 0.5 \times 3.13 ≒ 1.565 \, \text{kg·m/s}\]

【ステップ③】力積=平均の力×時間 → 平均の力を計算します

\[F = \frac{p}{t} = \frac{1.565}{0.010} = 156.5 \, \text{N}\]

これをkg重に直すと、

\[\frac{156.5}{9.8} ≒ 15.65 \, \text{kg重}\]

えっ、タライの重さの30倍以上の力が!?

もともとこのバケツの重さは 5N=0.5kg重しかありません。でも、落下して頭にぶつかると、瞬間的にはその約31.3倍もの平均的な力(156.5N=15.65kg重)がかかる計算になります。これはあくまで「平均」の力ですので、瞬間的な最大値はもっと大きくなる可能性もあります。そりゃあ痛いわけですね……。

衝突時間を延ばすとどうなるのでしょう?

とはいえ、対処法がないわけではありません。たとえば、首を引いたりしてほんの少しでも衝突時間を延ばすことができたら、受ける力はぐっと小さくなります。

衝突時間が **0.020秒(2倍)**になると…

\[F = \frac{1.565}{0.020} = 78.25 \, \text{N} ≒ 7.825 \, \text{kg重}\]

なんと半分近くにまで減少します!これはカップがマットに落ちたときに割れにくい理由と同じです。どんな衝撃でも、ゆっくり受け止めることが、ダメージを減らすカギなのです。例えばタライにぶつかった瞬間、その衝撃で頭が下がることもあるだろうし、また頭と骨の間の皮膚の部分が変形して、衝突時間が増えるかもしれません。

このように、ちょっとした日常の出来事(?)にも、物理の法則はしっかり働いています。「痛い!」の裏にある数式を読み解いてみると、世界の見え方が少しだけ変わるかもしれません。生徒の皆さんには決してマネしてほしくないですが、理科の目線でドッキリを見るのも、案外おもしろいものです。

追記:泥団子が衝突して大怪我する痛ましい事故が起こりました…

男性が頭に大けが 原因は子どもが投げた「泥団子」だった 熊本市のマンション敷地(日テレNEWS NNN、2025年5月16日掲載)

泥団子というと、大怪我をするの?と思うかもしれませんが、相当な力が働いたものと予想されます。ここではその危険性を上の記事と同様にして計算してみたいと思います。条件設定を整えていきます。

家にあった、子供が作った泥団子を測定しました。泥団子はもしかしたら小さい子供のいる家なら普通にあるものなのかもしれません。

条件

・泥団子の質量を90g、乾燥させた非常に硬いものである。
・10階程度の高さとして、約30mから落下をしたとする。
・初速度0m/sの自由落下(そっと手を離した場合と仮定)(実際のニュースでは水平方向に初速度がついていたようである)
・地面との衝突時間を10msとする。
・地面への衝突後、泥団子が壊れずに静止したと仮定(完全非弾性衝突)
・空気抵抗は無視をして計算する。

これを元に、泥団子が地面に及ぼす衝撃力を計算しました。まず地面に落下した時の速さの計算をします。

落下時間(t):(今回の事故には関係ありませんが計算をしてみます)

\[t = \sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{\frac{2 \times 30}{9.8}} \approx 2.47 \, \text{秒} \]

2.47秒も落下に時間がかかります。

着地直前の速度(v):

\[v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 30} \approx 24.24 \, \text{m/s} \]

・落下速度はおよそ24.24m/sです。時速に直すと87.2km/hです。空気抵抗がない場合の見積もりですが、高速道路で車が衝突するようなスピードであったことがわかります。

衝突時の衝撃(平均の力)

次に力について計算をしてみましょう。衝突時の平均の力(F)は、運動量の変化と衝突時間(Δt)から求められます。

• 運動量(p):\[p = mv = 0.09 \times 24.24 \approx 2.18 \, \text{kg·m/s}\]
• 衝突時間(Δt):仮に0.01秒(10ms)と仮定

平均の力(F):

\[F = \frac{p}{\Delta t} = \frac{2.18}{0.01} \approx 218 \, \text{N}\]

これは約22.2kg重(1kg重 ≈ 9.8N)に相当します(泥団子(900gの約22倍の重さに相当します))。身近な例で言えば、ペットボトル(2L)×11本分を2つ抱えた時の力が地面に瞬間的にはたらいたということになります泥団子1つが落ちてきただけで、です。

ここまで大きな力が衝突面にはたらくということになります。これは痛いというレベルではないことが想像できます。

なお人に衝突した場合は、泥団子は固いと言っても壊れたり(衝突時間が長くなる)、泥団子の破片は速度を失うわけではないため、実際に事故時にはたらいた力は、この見積もりよりも小さいということは大いに考えられます。また当たった場所の面積などにより、実際に人にはたらく圧力についても考える必要があります。

ただし、小さな物体でも、高所からの落下は大きな危険を伴います。物理的な視点からも、高所から物を落とす行為は非常に危険であることがわかります。

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