宇宙で最もミステリアスな海!あなたの記憶を具現化する惑星ソラリスとは?

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

皆さん、こんにちは! もし宇宙の果てで、私たちが「生命」と呼んでいるものの定義を、根底から覆すような「何か」に出会ってしまったら…あなたならどうしますか?私たちの常識や物理法則がまったく通用しない、そんな不可思議な世界を描いたSF小説は、科学の「もしも」を考える最高のトレーニングになります。

今年の私の読書リストから、まさにそんな「知的挑戦」を突きつけてくる一冊をご紹介します。それは、ポーランドの作家、スタニスワフ・レムが著した不朽の名作『惑星ソラリス』です。

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想像してみてください。惑星全体が、たったひとつの「知性」を持つ海で覆われていたら?人類の持つすべての知識や科学が通用しない、巨大な「思考する海」がそこに存在したら…?

謎多き「生命の海」ソラリスの挑戦

ソラリスは、発見当初から科学者たちを悩ませてきました。その最大の特徴は、惑星全体を覆う広大な「海」が、まるで一つの巨大な、知性を持った生命体のように振る舞うことです。

私たちが地球の外で「生命」を探すとき、つい「水があるか?」「呼吸をしているか?」といった、地球の生物を基準にした「ものさし」を使ってしまいますよね。しかし、ソラリスの海は、そんな私たち人間のものさしを、あざ笑うかのように存在します。

海は、探査に反応してその形をダイナミックに変え続けます。時には巨大な構造物を作り出し、またある時には見たこともない複雑なパターンを織りなすのです。人類はソラリスとのコンタクトを試み、放射線を当てるなどの実験を繰り返しましたが、海は決して同じ応答パターンをとりませんでした。

これは、科学実験の基本である「再現性」の完全な否定です。同じ条件で実験をしても、毎回違う答えが返ってくる。これでは、私たちが知る「科学」が成り立ちません。

結局、「ソラリスが何を考えているのか」「何が起こっているのか」は、まったくわからずじまい。この謎に満ちた現象を研究するために、「ソラリス学」という学問まで生まれましたが、100年以上にわたる調査を経ても、ソラリスの本質を捉えることはできていないのです。

私たちが知っている物理法則や生命の概念が、全く通用しない。この事実が、私たち人間の「知」の限界を突きつけてきます。

ソラリスが創り出す「訪問者」のミステリー

そんな謎に包まれたソラリスの調査基地に、ついに主人公が降り立ちます。そして物語は、さらにミステリアスな展開を迎えます。

主人公が基地での生活を始めたある時、なんと死んだはずの知人の女性が、目の前に姿を現すのです。しかも、その姿や記憶は、主人公が知る彼女そのもの。しかし、彼女自身もなぜここにいるのかがわかっていません。

これは単なる幻覚ではありません。物理的な実体を持ち、触れることもできるのです。

私たちの「記憶」とは、脳の中の神経細胞(ニューロン)がつながりあった、電気的・化学的なパターンとして保存されています。ソラリスは、どういうわけか、その脳のパターンをスキャンし、それを寸分たがわぬ「物質」として再構築してしまったかのようです。

主人公はパニックになり、彼女から逃れようとしますが、「訪問者」である彼女は主人公から一定距離以上離れることができません。ロケットに乗せて無理やり引き離しても、数日後には必ず基地に戻ってきてしまうのです。

この「訪問者」は一体何者なのか?なぜソラリスはこの女性の姿を創り出したのか?

この現象は、ソラリスの海が、そこにいる人間の「記憶」や「深層心理」に反応して、物理的な存在を創り出しているのではないか?という、さらなる謎を生み出します。主人公とこの女性との関わりを通して、物語は、人間の記憶、愛、そして「存在とは何か」という、深いテーマを掘り下げていきます。

科学の限界と人類の「おごり」への問いかけ

この小説を読むと、私たち現代人が持つ「科学は万能であり、いつかはすべてを解明できる」という無意識の「おごり」のような感情を、見事に打ち砕かれるように感じます。

科学の歴史は、「人間は特別だ」という思い込みを捨ててきた歴史でもあります。 かつて私たちは、地球こそが宇宙の中心だと信じていました(天動説)。しかし、ガリレオやコペルニクスがそれを覆しました。私たちは、自分たちだけが高度な「知性」を持つと信じています。

しかし、ソラリスは、私たち人類とはまったく異なる時間の流れ方や意識、そして生命の形態を持っているのかもしれません。

どれほど高度な技術を持ち、研究を重ねても、人類が理解不能な、コンタクト不能な存在があるかもしれない——。その可能性を、この物語は見せつけます。

作者のレムは、第二次世界大戦で大変な経験をしたポーランドの作家です。様々な国から圧力を受けるという歴史的背景が、人類中心の視点や傲慢さに対する批判的な視点、そして「絶対的な理解の不可能性」というテーマを生み出したのかもしれません。

少し読みにくいと感じる部分があるかもしれませんが、その場合はストーリーの本筋を追うために、思い切って読み飛ばしてしまっても大丈夫です。物語の根幹にあるミステリーと、「私たちとは何か?」という哲学的問いかけは、必ずあなたの心を掴むはずです。

未読の方はぜひ、この奥深いSFの世界に足を踏み入れてみてください。

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