キキの腕にかかる衝撃の物理!空中キャッチを計算してみた(魔女の宅急便)

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

魔女の腕に働いた“愛”の物理――キキは本当にトンボを片手で助けられたのか?

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映画『魔女の宅急便』を観たことがある人なら、クライマックスの名シーンを覚えていることでしょう。暴走した飛行船から落下するトンボ少年を、魔女キキが箒にまたがり空中でキャッチするシーンです。ハラハラしながら観ていたあの瞬間、「キキの腕、大丈夫!?」と心配になった方もいるのではないでしょうか。

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これです!

あの空中救出、実は物理の視点で考えるとものすごいことが起きています。トンボを片腕で受け止めるという行動には、想像を超えるような大きな力が必要なのです。

この記事では、ストップウォッチ片手にアニメ映像を再生しながら、トンボがどのくらいのスピードで落下し、それをキキがどれほどの力で受け止めたのかを、高校物理の「運動量と力積」の法則を使ってリアルに計算してみました。中学生・高校生はもちろん、大人にとっても物理がぐっと身近に感じられる内容です。「愛の力は質量×加速度を超えるのか?」一緒に検証していきましょう!

トンボの落下をストップウォッチで計測!

アニメを観察すると、トンボが飛行船のロープから手を離して、キキがキャッチするまでにかかった時間は、アニメを見ていてロープを話したところでストップウォッチスタート、キャッチをするシーンを計測すると、約 3.5秒。

なおこのシーンに使われたコマ全てがキャッチをするまでに使われた時間ではありません。アニメをよくみていると、トンボが落下したその瞬間、観客の顔がアップになり、スローモーションになるからです。

ここの時間(1.2秒)。よって3.5秒からこのシーン、1.20秒を引くと、落下時間はおそらく2.30秒になります。

この時間を使って等加速度運動の公式
v = gt
で速度を求めると、

\[v = 9.8 \times 2.3 = 22.54\ \text{m/s}\]

つまり、時速約81km(=22.54m/s)で落ちていた計算になります。

キキの腕にかかる力を計算する

ここからが勝負です。キキは片腕で箒にしがみつきながら、もう一方の腕でトンボをキャッチします。キキは片腕で受け止めて、力を上向に加えて0m/sの状態にまでもっていきます。トンボをキャッチしてからトンボが静止するまでにかかった時間をはかると、0.33秒でした!

質量を仮にトンボ50kgとすると、運動量の変化は:

\[\Delta p = m \cdot \Delta v = 50 \times 22.5 = 1125\ \text{kg·m/s}\]

これを0.33秒で止めるには、力は

\[F = \frac{\Delta p}{\Delta t} = \frac{1125}{0.33} ≒ 3409\ \text{N}\]

さらに、静止状態のトンボの体重(重力)も支える必要があるため、

\[W = 50 \times 9.8 = 490\ \text{N}\]
合計で \[F = 3409 + 490 = 3899\ \text{N}\]

つまり、キキの片腕には3899N(397kg重、これはトンボ50kgの約8人分の体重) の力がかかっていたことになります。もしこれが両腕ならまだしも、片手でこの力を支えるとは…手が引きちぎれるレベル…魔女恐るべし。

さらに!デッキブラシを持つ手の方がヤバかった

キキはもう片方の手で箒(正確にはデッキブラシ)を握っています。こちらにはキキ自身の体重分の力(約490N)がかかっています。さらにトンボの力も一部伝わってくるはずなので、、、これはもう、常人では無理です。

やはり魔女の筋力と根性、そしてトンボへの想いがあってこそですね。ホウキも特注の箒でできたものだったのかもしれません。

物理はアニメをもっと面白くする!

この計算を通して、アニメの名場面に隠された物理のリアリティが見えてきました。エンタメの中にも学びのヒントはいっぱいあります。身近な「?」を見つけたら、ぜひ物理で解き明かしてみてください。

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