靴にホチキスの針を刺したら静電気が5000Vも減った!中学生が都市伝説をガチ検証【科学監修】(THE突破ファイル)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

ドアノブに触れた瞬間「バチッ!」、セーターを脱いだら「パチパチ…」。冬の乾燥した季節になると、多くの人を悩ませる静電気。もし、その不快な衝撃を、どこにでもある「ホチキスの針」で撃退できるとしたら…?

「そんなの、まるで都市伝説でしょ?」

そう思うかもしれません。実は私もそうでした。今回は、そんな不思議なライフハックの真偽を確かめるべく、テレビ番組の依頼をきっかけに、科学部の生徒たちと本気で検証に挑んだ冒険の記録です!

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きっかけはテレビ番組!都市伝説に科学で挑む

始まりは、2024年2月8日に放送された日本テレビの人気番組「THE突破ファイル」のスタッフさんからのご依頼でした。その内容は…

「靴の裏にホチキスの針を刺すと静電気がたまりにくくなる」

というもの。まさに眉唾もののライフハック。しかし、理科好きの心に火がつかないわけがありません!よく考えてみると、確かに電気を通しやすい金属(ホチキスの針)を、電気を通しにくいゴム底に打ち込めば、地面との間で電気が流れやすくなり、静電気を溜めにくくなる…という理屈は成り立つかもしれません。

これは確かめるしかない!さっそく、私が顧問を務める千葉大学附属中学校の科学部の生徒たちと一緒に、この都市伝説の検証実験を開始しました。

中学生、本気の科学検証!実験スタート

好奇心旺盛な科学部員たちと、以下の準備をして実験に臨みました。

1. 準備するもの

普通の運動靴

靴底にホチキスの針を数本刺した運動靴(安全には十分配慮!)

静電気を人工的に発生させる「バンデグラフ起電機」

体にたまった静電気の量を測る「静電気測定器」

2. 実験手順
実験は至ってシンプルです。

それぞれの靴を履いた状態で、バンデグラフを使って体に静電気をためる。

体にどれくらいの電圧(静電気の量)がたまっているかを測定する。

「普通の靴」と「針付きの靴」で、たまった電圧に差が出るのかを比較する。

バンデグラフ起電機を使った静電気の実験風景

生徒たちの目も真剣そのもの。「本当に差なんて出るのかな?」と半信半疑ながらも、測定器の数字を食い入るように見つめます。そして、衝撃の結果が…!

驚きの結果!その差、なんと5,000ボルト!

測定結果は、私たちの予想をはるかに超えるものでした。

普通の靴の場合:17.6kV(約17,600ボルト)

静電気測定器が17.6kVを示している

ホチキスの針を刺した靴の場合:12.7kV(約12,700ボルト)

静電気測定器が12.7kVを示している

その差は、なんと約5,000ボルト!

ホチキスの針を数本刺しただけで、体にたまる静電気の量が明らかに少なくなることが、実験によって証明されたのです。都市伝説は、本当でした!

なぜ効くの?針が作る「電気の逃げ道」

では、なぜホチキスの針ごときで、これほどの差が生まれるのでしょうか?その秘密は「導体」「絶縁体」の性質にあります。

私たちの体は、摩擦などによって常に電気を発生させています。通常、靴の裏に使われているゴムは「絶縁体」といって、電気を通しにくい性質を持っています。そのため、発生した静電気は行き場を失い、私たちの体にどんどん溜まってしまうのです。

そこへ、電気をよく通す「導体」である金属のホチキス針を刺すとどうなるでしょう。針がゴム底を貫通し、地面との間にわずかながらも電気の“通り道”を作ってくれるのです。これにより、体に電気が溜まりすぎる前に、針の先端から空気中へ少しずつ放電されたり(コロナ放電といいます)、地面へ逃がしたりすることができます。

ガソリンスタンドにある静電気除去シートや、建物に雷を落とす避雷針も、これと似た原理を利用して電気を安全に逃がしているのです。身近な現象が、大きな科学の原理と繋がった瞬間でした。

テレビ放送、そして科学の楽しさ

この興味深い実験結果は、写真やデータと共に番組スタッフの方にお渡しし、「THE突破ファイル」で無事に放送されました!エンドロールに「千葉大学附属中 科学部」の文字が流れたときは、生徒たちも大喜び。自分たちの探究がテレビで紹介されるという、素晴らしい体験になりました。

THE突破ファイルの放送画面
エンドロールに学校名が載った画面

この検証は、中学校の理科で習う「静電気」や「物質の性質(導体・絶縁体)」を学ぶ上で、最高の教材になります。日常の「なんで?」が、科学の入り口になる。今回の実験は、そのことを改めて教えてくれました。

(※もし試してみたい方へ:ホチキスの針を刺すと、雨の日に水が染み込む可能性があるので、自己責任でお願いしますね!)

これからも、日常に隠れた科学の面白さをどんどん探求していきます!

静電気実験集へのリンク画像

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