【科学監修】海猿が戦う「ゾウ8頭分の水圧」の正体を徹底解説!(沸騰ワード10)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験!

テレビで特殊部隊の過酷な訓練シーンを見て、「こんなの人間技じゃない…!」と息をのんだことはありませんか?実は、彼らが立ち向かっている困難の多くは、特別な力ではなく、私たちの身の回りにも存在する「科学の法則」が生み出しているのです。先日、日本テレビの人気番組「沸騰ワード10」で放送された「海上保安庁・海猿訓練に密着!」という企画で、その科学の法則を解説する「科学監修」を行いました。

今回は、その番組の裏側をお見せしながら、屈強な「海猿」たちが戦う見えざる敵、「水圧」の正体に迫ってみたいと思います!

見えざる敵の正体!「水圧」を暴き出す

番組からいただいたミッションは、「水深20mでの水圧は、どれほどすさまじい力なのか?」を、誰にでもわかるように伝えることでした。

まず、この見えざる敵の正体を知るために、基本から考えてみましょう。私たちは普段意識していませんが、地上で生活しているだけで、空気の重さによる圧力、いわゆる**「1気圧」**という力を常に受けています。いわば、私たちは巨大な「空気の海」の底で暮らしているようなものなのです。

では、今度は「水の海」に潜ってみたらどうなるでしょう?水は、ご存知の通り空気よりもずっと重いですよね。そのため、水中に潜ると、頭の上にある空気の重さに加え、さらに水の重さがのしかかってきます。

科学の世界では、水深が10m深くなるごとに、約1気圧ずつ水圧が加わることがわかっています。つまり、今回のテーマである水深20mでは…

(地上の空気圧:1気圧)+(水の圧力:2気圧)= 合計 約3気圧

という、とてつもない圧力がダイバーの全身にかかっていることになるのです。

ゾウが8頭!?「3気圧」を身近なものに翻訳する

「3気圧」と言われても、正直ピンとこない方がほとんどだと思います。そこで、この目に見えない圧力を、誰もが知っている「重さ」に翻訳してみることにしました。大人の体の表面積(約1.62平方メートル)に、この3気圧の力がかかったと仮定して計算してみると…なんと、その重さは約48.6トンにもなりました!48.6トン…。これは、アフリカゾウ約8頭分の重さに相当します!

想像してみてください。自分の全身に、四方八方からゾウが8頭乗っかってくるようなものです。海猿たちが、いかに過酷な環境で訓練しているかが、この例えで一気にお分かりいただけたのではないでしょうか。番組ではこの衝撃を伝えるため、「48600kg重」というテロップで表現することになりました。

なぜダイバーは押し潰されないのか?

ここで、賢明なあなたならこう思うはずです。「そんな力で押されたら、人間はペシャンコになってしまうのでは?」と。それこそが科学の面白いところです。私たちが潰れない理由は、体の内側からも外側と同じ力で押し返しているからです。私たちの体は約60%が水分でできており、水はほとんど縮むことがありません。そのため、外から強い水圧がかかっても、体内の水分が内側から押し返し、力のバランスを保っているのです。

ただし、肺や耳の中にある「空気」は別です。空気は簡単に圧縮されてしまうため、ダイバーは「耳抜き」をしたり、特別な呼吸法を使ったりして、体の中の空気の圧力を調整する訓練が必要不可欠なのです。難しい数式をそのまま見せるのではなく、身近なものに例えて、そのすごさや不思議さを感じてもらう。今回の番組監修は、「どうすれば科学は伝わるのか?」を改めて深く考える、私にとっても貴重な実験となりました。

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