「マイケル・ジャクソン」で物理を体感!〜力のモーメントがわかる驚き実験〜
空き缶をこんなバランスで立てたことありますか?
まずはこちらの動画または写真を見てください。なんと、あの細長い空き缶が、絶妙なバランスで斜めに立っているのです。ちょっと信じられない光景ですよね。
この姿がまるで、マイケル・ジャクソンの「ゼログラビティ(※ライブでの前傾姿勢)」のようだったので、私はこの缶を「マイケル・ジャクソン缶」と名づけてみました。
なお、ゼログラビティーについては、こちらの動画をご覧ください。
もちろん、缶の底と机をボンドで接着しているわけでも、机に傾斜があるわけでもありません。机には何の仕掛けもないのに、空き缶が立つ…子どもたちは間違いなく驚きます。でもやってみると、うまくいかない。というか、そのままでは絶対にできません。実は“種”があるのです。
缶に仕掛けがある?空き缶が立つカラクリとは
秘密は缶の中。缶の中には少量の水が入っています。だいたい1/5程度の高さまで水を入れると、缶は斜めにした状態でバランスを取ることができるようになります。使用するのは、ビールやサイダーなどの、側面にやや丸みのある缶がベスト。たとえばビールの空き缶は斜めにカットされていて、底面の接地面が広く、安定しやすい構造になっています。
この実験、ぜひご家庭でも試してみてください。ビールを飲んだあと、お子さんの前で缶を斜めに立てて見せると、「えっ!?なんで!?」と目を丸くすること間違いなし。もちろん、子ども用にはジュース缶を使って、中身をすべて抜いてから挑戦させてあげてください。なかなかうまく立たないので、「お父さんすごい!」と尊敬の眼差しを向けられるかもしれません(笑)。
なぜ水を入れると、倒れなくなるのか?
ではなぜ缶の中に3分の1くらい水を入れると、突然缶はこんなにも不安定な状態で立つようになるのでしょうか。まず空き缶を立たせると、重心と垂直抗力の合力が一致し力が一直線上になります(作用線上になります)。
※缶の中に飲み物が入っている場合も、空の場合も同じです。
このとき物体のモーメント(回転させるための力)はつりあっており、物体は倒れません。しかし缶を傾けてみると、重心が垂直抗力の作用線上からずれてしまい、重力が缶を倒すような回転させる能力(力のモーメント)をもちます。このため空き缶は倒れてしまいます。
これが空き缶が倒れる理由です。ではマイケルジャクソン缶はなぜ倒れないのでしょうか?その秘密は、缶の中に水を少しだけ入れる(飲み物を残す)ことによって缶の重心の位置が左側に移動するためです。
こうすることにより垂直抗力の作用線上に重心がくるため、モーメントのつり合いがとれて、缶はこのような変な姿勢でバランスさせることができます。トンボのような形をしたやじろべえなどもこの力のモーメントのつり合いを工夫して、おもしろい状態で止まるようになっています。
このように、物体が立ってその場で静止をするためには、力のモーメントがつり合うという条件も
大切になってきます。この実験は、見た目のインパクトだけでなく、「モーメント」の理解を直感的に学ぶ絶好の教材になります。
だるまについてもモーメントを考えて見よう!
「だるま」がなぜ転んでも転んでも起き上がるのか、これもモーメントと深い関係があります。だるまの例を見てみましょう。だるまは、足がマルイ形をしており、重心が下にくるゆようにおもりなどが入っているのが特徴です。
このだるまを例えば大きく傾けていくとどうなるのでしょうか。
足がまるくいことで接地面が動くことに加えて、ダルマは重心が低いため、垂直抗力の作用線と重力の作用線の関係から、だるまを戻す方向の力のモーメントが生まれます。
マイケル・ジャクソンの「ゼログラビティ」の秘密も…?
ちなみに、本家マイケル・ジャクソンのあの前傾姿勢も、しっかりとした物理的な仕掛けがあります。彼は特別な靴とステージ構造を使って、モーメントのバランスをコントロールしていたのです。実は科学的に「倒れない」仕組みだったのですね。
授業や家庭で使える!この実験のポイントまとめ
• 対象学年:中学1年「力のはたらき」単元に最適
• 準備物:空き缶、水、机
• キーワード:モーメント、重心、垂直抗力、回転のつり合い
• 発展:「だるま」や「やじろべえ」にも応用可能!
倒れると倒れないの境目については、こちらの記事もご覧ください。
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