教室がカーリング場に!?ドライアイスで体感する「摩擦ゼロ」の物理学(慣性の法則)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

もしも、世界から「摩擦」がなくなったら、物体はどのように動くのでしょうか?教科書に出てくる「慣性の法則」。物体は力を受けなければ、いつまでも同じ速さで真っ直ぐ進み続けるという法則ですが、これを実感するのは意外と難しいものです。なぜなら、地球上には常に「摩擦力」という邪魔者がいるからです。

通常、学校の授業では専用の滑走台などを使いますが、生徒にとっては「実験室だけの特別な出来事」に感じられてしまいがちです。また、高価な機材を全班分用意するのは予算的にも厳しいのが現実です。そこで私がおすすめしたいのが、「ドライアイス」を使った実験です。スーパーやケーキ屋さんでもらえる、あのドライアイスが、物理の常識を変える魔法のアイテムになるのです。

ドライアイスが「ホバークラフト」になる理由

ドライアイスは、二酸化炭素を冷やして固めたものです。これを常温の部屋に出すと、液体にならずにいきなり気体になる「昇華(しょうか)」という現象が起きます。この時、ドライアイスと机の間で何が起きているのでしょうか。 ドライアイスの底面から勢いよく吹き出した二酸化炭素の気体が、机との間に薄いガスの層を作ります。

つまり、ドライアイスは自分が出すガスによって、わずかに宙に浮いている状態になるのです。これはまさに、空気の力で浮上して進む「ホバークラフト」と同じ原理です。

浮いているため、机との摩擦力は極限まで小さくなります。指で軽く押すだけで、まるで無重力空間のようにスーッと滑っていく様子は感動的です。今日は、この現象を使って「等速直線運動」を遊びながら学んでみましょう。

科学のレシピ

用意するもの:ドライアイス1kg程度、iPad各班1つ

※ ドライアイスについては近くの氷屋さんなどを調べておくといいと思います。ぼくがお世話になっているのは、旭氷業さんです。http://www.icenet.or.jp/asahi/

昔ながらの氷屋さんで、ドライアイスは1kgから買うことができます。およそ500円位です。ただ今は便利でAmazonでも購入できるようです。

【教師用メモ】 ドライアイス1kgは冷凍庫で保管しても昇華が進み、2日ほどでなくなってしまいます。購入する際は、できるだけ授業が複数回ある日を選んで届けてもらうのがコツです。

実験方法:摩擦ゼロの世界を体験しよう

① ドライアイスを5cmくらいの立方体に砕いて各班に渡します(金槌などで叩いて割ります)。形は適当で大丈夫です。

② 水平な机の上で滑らせてみましょう。 【裏技】もしあればエチルアルコールをドライアイス底面に吹きかけて湿らせてから行うと、より滑らかに動きます。アルコールは凍りにくいため、スムーズな膜を作ってくれるからです。

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すーっ

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すすーっ

実際の動きは、ぜひ動画でご覧ください。気持ちいいほど滑ります。

③ 現代の科学技術も活用しましょう。iPadを使ってコマドリアプリなどを使って撮影をしてみます。

次の写真は実際に生徒が撮影したものです。等間隔に物体が写っていることから、「速さが変わらない(等速)」かつ「真っ直ぐ進んでいる(直線)」ということが一目瞭然ですね。

ついでにドライアイスカーリングもやってみよう

学びの後は、遊びの中に科学を見つけましょう。せっかく用意したドライアイス、実験だけで終わらせるのはもったいないですよね。教室をカーリング場に変えてみましょう。

用意するもの:

ドライアイス、ビニールテープ、金槌、軍手

手順:

① ビニールテープを机に貼って、ターゲットを作ります。これがハウス(円)の代わりです。

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スタート地点も作りましょう。

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② ドライアイスを手頃なサイズに金槌をつかって砕きます。

【安全上の注意】この際に軍手を必ずつけてください。ドライアイスはマイナス79度と非常に冷たいため、素手で触ると凍傷になる恐れがあります。子供と行う場合には、必ず大人が同伴しましょう。

③ 軍手をはめてドライアイスをスタートラインから滑らせます。中心の枠(赤テープの中)に入ると100点、まわりの枠に入ると50点として5回滑らせて、その合計得点を競います。

力の入れ加減ひとつで、行き過ぎたり届かなかったり。「慣性」と「わずかな摩擦」の駆け引きを肌で感じることができるはずです。

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