目の前の不運は、未来の幸運のサイン。父の助手席で学んだ「視点の転換」ストーリー

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

信号機と幸福論

私は群馬県の出身です。 群馬といえば、日本でも有数の「車社会」。どこへ行くにも車、車、車。 だから私も、子供の頃はよく父の運転する車の助手席に乗って、あちこちへ出かけていました。当時の私は、赤信号で車が止まってしまうことが大嫌いでした。 助手席で常に身を乗り出し、はるか遠くの信号機を睨みつけては、一喜一憂していたのです。

「よし、青だ! 今日はツイてるぞ!」 「うわ、赤かよ〜。運が悪いな〜」

目の前の現象だけに反応して、感情を揺さぶられる毎日。 そんなある日、また私が遠くの信号を見て「赤かよ〜」と不満を漏らしたときのことです。ハンドルを握る父が、静かにこう言いました。

「研、赤のほうがいいんだよ」

え? 私は耳を疑いました。赤信号で止まるのがいいこと? とっさに私は、「父は車が大好きだから、乗っている時間が長くなるのが嬉しいのかな?」と子供心に推測しましたが、それは違いました。父は、まるで物理の法則を説くように続けました。

「遠くに赤が見えるってことは、そこに着く頃には青になってるってことだろ?」

「波」の周期を読むということ

なるほど、と思いました。 確かにそういう考え方もできます。

理科的に言えば、信号機は一定の「周期(サイクル)」で動いています。 遠くで「青」が見えている場合、そこへ到着する時間にはサイクルが一周して「赤」に変わっている可能性が高い。 逆に、遠くで「赤」が見えていれば、到着する頃にはサイクルが変わり、「青」でスムーズに通過できる確率が高まるわけです。

その後、実際に観察してみると、確かに遠くに赤が見えたときのほうが、結果としてブレーキを踏む回数が減り、目的地にスムーズに着くような気がしました。それからというもの、私は「赤」が好きになりました。 目の前の「停止」を嘆くのではなく、未来の「進行」を予見する。 「視点が増える」とは、こういうことを言うのかもしれません。

幸せは「事実」ではなく「解釈」にある

このエピソードは、単なる交通ルールの話にとどまりません。 いま目の前が「赤(辛い状況)」であっても、それは不幸なこととは限りません。 「いま赤だということは、次は必ず青になる」 そう捉えることができれば、待ち時間すらも「準備の時間」や「休息の時間」として、ポジティブな意味を持ち始めます。事実は一つですが、それをどう解釈するかで、私たちの幸福度は大きく変わるのです。 理科の実験と同じで、見る角度を変えれば、世界はまったく違った姿を見せてくれるのですね。

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