「ポン!」と跳ねる紙コップの秘密!消毒用アルコールで熱力学を体感しよう(熱力学第一法則)

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

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衝撃の「ポン!」で科学の面白さを体感! 家庭でできる安全な熱力学爆発実験

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 日常生活の中で、「あれ、これってどういう仕組みなんだろう?」と、ふと科学の疑問が頭をよぎることはありませんか? 今回は、そんな皆さんの知的好奇心をくすぐる、ちょっとだけスリリングで、でもとっても安全に楽しめる科学実験をご紹介します。使うのは、なんと皆さんのご家庭にもある、アルコール消毒液! これが、とんでもない力を生み出す鍵になるんです。

「爆発」と聞くと、少しドキドキするかもしれませんが、ご安心ください。今回は、わずかなアルコールを使って、気体が急激に膨張し、その力で物を飛ばすという、まさに「気体が仕事をする」様子を目で見て、耳で聞いて、肌で感じられる実験です。この現象は、私たちの身の回りにある様々な技術、例えば自動車のエンジンが動く仕組みや、ロケットが空を飛ぶ原理にもつながる、奥深い「熱力学」の世界への入り口なんです。

さあ、皆さんも一緒に、この驚きの「ポン!」を体験して、科学の面白さを再発見してみませんか? 下記の動画をご覧いただくと、この実験の迫力がより伝わるかと思います。

https://youtu.be/mTNW7m13Eyc

この実験は、中学2年生の理科で学習する「燃焼と爆発の違い」を考える際にも役立ちますし、高校生以上の方には、より深く「熱力学第一法則」について考えるきっかけになるはずです。

科学のレシピ:アルコール爆発実験に挑戦!

この実験で大切なのは、**「少量のアルコールが燃焼(爆発)することで、密閉された空間の気体が一気に膨張する」**という現象です。この膨張する力が、フタを勢いよく吹き飛ばす原因となります。

用意するもの
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  • 紙コップ:フタとして使います。一般的なサイズでOKです。
  • アルミ缶:空き缶なら何でも大丈夫ですが、底が平らなものが安定しやすいです。
  • 缶切り:アルミ缶の上部を開けるのに使います。
  • キリ:アルミ缶の底に小さな穴を開けるのに使います。
  • 消毒用アルコール:スプレータイプが便利ですが、液体のものでも構いません。
    • 【重要!】 濃度70%以上のエタノールが含まれているものを選びましょう。
    • 【注意!】 アルコールは引火性です。火気の近くでの取り扱いには十分注意してください。
  • ライターまたはチャッカマン:点火に使います。
  • 濡れ雑巾:万が一の際に火を消すために準備します。
  • バケツ:こちらも万が一の際に備えて、水を入れて準備します。

実験手順

さあ、いよいよ実験の準備です。安全に注意しながら、焦らずに進めていきましょう。

  1. アルミ缶の上部を開ける まず、アルミ缶の上部(口をつけて飲む部分)を缶切りで完全に開けて取り除きます。中をきれいに洗って乾燥させておきましょう。
  2. アルミ缶の底に穴を開ける 次に、アルミ缶の底の中央あたりに、キリで小さな穴を開けます。この穴からライターで火を入れます。床にアルミ缶を置いて、上から垂直に力を加えるようにして開けると安全です。アルミ缶は丸くて転がりやすいので、手を滑らせて怪我をしないように十分注意してくださいね。
  3. アルコールを入れる(ここが重要!) 開けたアルミ缶の中に、**消毒用アルコールを「2プッシュ」または「数滴」**入れます。これ以上は絶対に入れないでください! アルコールが多すぎると、爆発後に炎が上がったり、非常に危険な状態になる可能性があります。少なすぎても爆発しないので、加減が大切です。
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  4. 軽く蓋をして振る アルコールを入れたら、すぐに紙コップをアルミ缶の開口部に軽く蓋をします。そして、缶をそっと数回振って、中のアルコールを気化させ、缶全体にアルコールの蒸気をいきわたらせます。
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  5. 点火の準備と点火! いよいよ点火です。まずは、濡れ雑巾と水を入れたバケツを必ず手元に用意しましょう。これは万が一のために非常に重要です。準備ができたら、アルミ缶の底に開けた小さな穴に、チャッカマンの火を近づけます。
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実験結果:「ポン!」の科学、熱力学第一法則

火を近づけると、「ポン!」という心地よい音とともに、アルコールの蒸気が一瞬で燃焼(爆発)し、缶の中の気体の温度が急激に上昇します。温度が上がると、気体は大きく膨張しようとしますが、紙コップが蓋をしているため、その膨張する力が紙コップを押し上げます。結果として、紙コップは勢いよく「ポーン!」と高く飛び上がります。

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この現象は、まさしく**「熱エネルギーが、気体の仕事に変換された」**ことを示しています。これが、物理学でいう「熱力学第一法則」の一端を体験できる瞬間なのです! 熱力学第一法則とは、簡単に言えば「エネルギーは形を変えるけれど、全体の量は変わらない」という法則です。この実験では、アルコールの持つ化学エネルギーが燃焼によって熱エネルギーに変わり、その熱エネルギーが気体を膨張させる(=気体が外部に仕事をする)という形で、運動エネルギーに変換されたのです。

【安全に関する重要事項!】

  • アルコールの量: アルコールが少なすぎると爆発が起きません。しかし、2プッシュ以上入れるなど、入れすぎると非常に危険です! 爆発後、発射台となる缶の中に残ったアルコールが炎を上げて燃えることがあります。その場合は、絶対に触らず、濡れ雑巾などで素早く鎮火してください。
  • 子供だけで行わない: この実験は、必ず大人の指導のもとで行ってください。子供だけで行うのは非常に危険です。
  • 換気: 消毒用アルコールには、ごく微量の塩素などが含まれている場合があります。実験後の気体をあまり吸い込まないようにし、必ず換気を十分に行ってください。
  • エタノールでの代用: 消毒用アルコールが手元にない場合は、純粋なエタノール2mL程度でも同様の実験が可能です。

この実験の原理や、もっと詳しい熱力学の知識については、私が書いた『大人のための高校物理復習帳』で詳しく解説しています。もし興味があれば、ぜひ手にとってみてください。サーモグラフィーで撮影した、目に見えないアルコールの燃焼の様子や温度上昇の様子も、以下の動画で確認できますよ!

いかがでしたでしょうか? 身近な材料で、こんなにもダイナミックな科学現象を体験できるなんて、ワクワクしますよね。ぜひご家庭で、安全に注意しながら、科学の不思議に触れてみてください。

今回はアルコール消毒液を数滴使って、気体を急激に膨張させて、気体に仕事をさせてみましょう。安全にできて、爆発が楽しい熱力学の実験のはじまりはじまり。こちらの動画を御覧ください。

授業で使えるシーンとしては、エンジンのところだけではなく、中学2年生で燃焼と爆発の違いについて考えるときにも使えますね

 

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