グラフが物語る電気の秘密!電力・電力量の概念を深める実験(ジュール熱)
中学校2年生で学習する「電気エネルギー」の単元は、私たちの生活に密着した重要な内容である一方、「目に見えない」電気の働きを生徒に実感させるのが難しいと感じることはありませんか? 特に「電力が大きいほど発熱量も大きい」「電流を流す時間が長いほど発熱量も大きい」といった抽象的な概念を、どうすれば生徒にストンと腑に落ちる形で伝えられるか、頭を悩ませる先生も多いのではないでしょうか。
今回共有するのは「電熱線を使った水の温度上昇実験」です。この実験の詳しい準備方法から、生徒への指示のポイント、そして実験結果からどのように理科の知識を深めていくかまで、具体的な手順を交えてご紹介します。この実践ガイドを参考に、生徒が前のめりになるような、面白くて深い電気エネルギーの授業を一緒に作ってみませんか?
「電力と発熱」を体感!電熱線を使った温度上昇実験
この実験は、電気エネルギーが熱エネルギーに変換される現象を、水の温度上昇という形で定量的に捉えることを目的としています。
授業準備での活用方法
この実験は、電力と発熱の関係を学ぶ上で非常に効果的です。
- 導入: 「電気製品が熱くなるのはなぜだろう?」といった問いかけから始め、生徒の素朴な疑問を引き出します。身近な例(ドライヤー、電気ケトルなど)を挙げると、より生徒の興味を引くことができます。
- 実験計画の立案: 「電力の大きさや電流を流す時間を変えると、水の温度はどのように変化するだろう?」という課題を設定し、生徒に予想させ、実験計画を立てさせると主体的な学びにつながります。
- データ解析と考察: 実験結果をグラフ化し、そこから電力や加熱時間と温度上昇の関係を考察させることで、電力や電力量の概念を深く理解させます。
科学のレシピ:用意するもの
- 電熱線(6Ω程度):発熱を確認しやすい抵抗値のものを選びましょう。複数クラスで実施する場合は、2Ωなどの異なる抵抗値の電熱線も用意すると、電力と抵抗の関係も考察できます。
- 電流計:流れる電流の大きさを測定します。
- 電圧計:電熱線にかかる電圧を測定します。
- 熱量計(サーモカップ):断熱容器と温度計がセットになったもの。断熱容器は、発泡スチロール製のカップなどでも代用可能です。
- 電源装置:直流電源。電圧を調整できるものが望ましいです。
- 時計(ストップウォッチ機能付き):加熱時間を正確に測定します。
- 導線:回路を組むために必要です。
- 電子天秤:水の質量を正確に測ります。
- 汲み置きの水:水道から直接出した冷たい水ではなく、室温に慣らした汲み置きの水を使うことで、実験の精度が上がります。
実験手順(生徒への指示のポイントも!)
- 実験装置を組み立てる 「回路図を確認しながら、電熱線が容器に触れないように注意して組み立ててみましょう。電熱線は必ず水の中に入れた状態で電流を流すようにしてください。空中で電流を流すと、電熱線が高温になりすぎて危険です。」
- 「本来は温度計でかき混ぜませんが、この実験では、特別に温度計でゆっくりかき混ぜてもいいですよ。よくかき混ぜましょう。」との声かけ。
- 水の準備と水温測定 「容器に汲み置きの水を正確に100 g入れましょう。電子天秤を使って正確に測ってくださいね。そして、電熱線をセットする前に、水温を測定して記録しておきましょう。」
- 電圧・電流の設定と測定 「電源装置のスイッチを入れたら、各班に指示された電圧になるように手早く調節してください。その後、電流計で電熱線に流れる電流の大きさを正確に読み取り、記録しましょう。今回の電熱線は全て同じ6Ωですが、もし抵抗値の違う電熱線を使う場合は、それも記録しておきましょう。」
- 班ごとの電圧指示(例):
- 1・2班:3.0V
- 3・4班:4.0V
- 5・6・7班:5.0V
- 8・9・10班:6.0V
- 指導のポイント:電圧を分担させることで、限られた時間で様々な電力の条件を試すことができます。後でデータを共有することで、生徒はより多くの情報から考察できます。
- 班ごとの電圧指示(例):
- 加熱と温度測定 「電源を入れたらすぐにタイマーをスタート! 水をゆっくりと、しかし絶えずかき混ぜながら、1分ごとに水温を測定し、5分後まで記録を取りましょう。測定は素早く正確に行ってください。」
- データ整理とグラフ化①(時間と温度変化) 「実験が終わったら、まず自分たちの班のデータを使い、加熱時間と水温の変化の関係を表にまとめ、グラフ①に表しましょう。横軸に加熱時間、縦軸に水温をとります。温度が時間に比例して上昇していく様子が確認できるはずです。」
- 指導のポイント:他のクラスで2Ωの電熱線を使った結果があれば、そのデータも重ねて見せることで、「抵抗値が同じでも、電力(電圧)が変われば、温度上昇の傾きも変わる」ということを視覚的に理解させることができます。
- データ整理とグラフ化②(電力と温度上昇) 「次に、他の班のデータも集めてみましょう。各班の5分後の温度上昇 [℃] を計算し、横軸に電力 [W] を、縦軸に5分後の温度上昇をとったグラフ②を書いてみましょう。」
理科の知識を深めるポイント:電力、電力量、そして発熱量
この実験は、中学校理科で学ぶ「電力」と「電力量」、そして「発熱量」の関係を実体験として理解する絶好の機会です。
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グラフ①から学ぶこと:「加熱時間と温度上昇の関係」 皆さんの班で作成したグラフ①を見ると、水温が時間に比例して上昇していることがよくわかります。これは、電熱線で発生する熱の量が、電流を流す時間(加熱時間)に比例していることを示しています。つまり、長く電流を流すほど、多くの熱エネルギーが水に与えられるわけです。
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グラフ②から学ぶこと:「電力と温度上昇の関係」 そして、他の班のデータも加えたグラフ②を見ると、5分後の温度上昇が電力に比例していることが明確に示されます。電力(W)とは、1秒あたりに発生する熱エネルギーの大きさを表します。電力は電圧(V)と電流(A)をかけた値()で求められます。 グラフの右の線(例えば6Ωの場合)と左の線(例えば2Ωの場合)を比較すると、同じ電力でも抵抗値が異なると電流や電圧が異なること、そして最終的な発熱量(水の温度上昇)は電力に依存することが視覚的に理解できます。
この実験を通じて、生徒たちは、
- 電力量() = 電力() 時間()
- 発熱量は、この電力量に比例すること を実感として学ぶことができます。 さらに、水が受け取った熱エネルギーは、 の式で計算できることを紹介し、電熱線で発生した電気エネルギーが、どれだけ水の温度上昇に使われたか(熱量計の熱容量も考慮できれば尚良いですが、中学校レベルでは省略可能)を考えるきっかけにもなります。
この実験は、ただ知識を詰め込むだけでなく、生徒自身がデータを取得し、グラフを作成し、そこから法則性を見出すという、科学的な探究のプロセスを体験できます。少し手間がかかるように感じるかもしれませんが、得られる生徒の「わかった!」という喜びは、何物にも代えがたいものです。ぜひ、この実験を授業に取り入れて、生徒たちの電気エネルギーに対する理解を深めてみてください。
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