タバコは不要!MIT名物教授の「青空を作る実験」を安全に再現する方法
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「空はなぜ青いのでしょうか? そして、そこに浮かぶ雲は、なぜあんなに白いのでしょうか?」
この、誰もが一度は空を見上げて考えたことのある疑問。もし、その「青い空」と「白い雲」が生まれる仕組みを、この教室やリビングで、たった数分で再現できるとしたら…ワクワクしませんか? 今日は、私が物理学の面白さに目覚めるきっかけとなった、一冊の本から始まる「科学の冒険」についてお話ししたいと思います。
物理学の「楽しさ」を教えてくれた一冊
ぼくが大好きな本の中に、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)教授のウォルター・ルーウィン先生が執筆した『これが物理学だ!』があります。この本に衝撃を受け、私はすぐにルーウィン先生の授業動画DVDを取り寄せ、文字通り「研究」しました。大学の教授が、ここまで授業や演示(えんじ)実験に情熱を注いでいることに、まず驚きました。
例えば「モンキーハンティング」という有名な物理実験(重力の中で飛ぶ物体に、どう弾を当てるか)の実演では、先生自らがハンターの格好をして登場するのです! ほかにも、実験機器をとにかく大型にして、誰もが現象を一目で理解できるように工夫する。その圧倒的なサービス精神と「物理は楽しい!」というメッセージに、すっかり魅了されてしまいました。
この本は、教員の方だけでなく、お子さんをお持ちのすべての方に読んでほしい一冊です。「物理」といっても難しい数式はほとんどなく、知的な興奮と「なぜ?」が「わかった!」に変わる瞬間の楽しさであふれています。
教室に「青空」と「白い雲」を作る
今日は、この本に載っていた実験を、私なりに安全にアレンジしたのでご紹介します。 この本のP25には、こんな心躍る実験が紹介されています。
じつに心躍る実演のひとつに、ひとかけらの”青空”を教室内に生じさせる、というものがある。 (中略) 次に、私は数本の煙草に火をつけ、光の中でささげ持つ。煙の粒子は、レイリー散乱を生じさせるに足るほど小さく、青い光がいちばん散乱するので、学生たちは青い煙を見ることになる。
さらに、実演をもう一段階先に進める。 (中略 タバコを吸って肺の中で一時的にためて、)私は光の中に煙を吐き出す。 学生たちが目にするのは白い煙、私は白い雲を作ったのだ。 (中略)微小な煙の粒子が、私の肺内の水蒸気で膨れ上がったというわけだ。
どうですか? なんて詩的で、情景を実際に見てみたくなる実験でしょう! これは「散乱(さんらん)」という現象を利用したものです。
空が青い理由(レイリー散乱): 空気中の目に見えないチリや、タバコの煙のような「光の波長(なみの長さ)より非常に小さい粒子」は、波長の短い青い光を強く散乱させます(赤い光は通り抜けます)。だから、その煙は青く見える。これが「青空」の原理です。
雲が白い理由(ミー散乱): 一方、肺の中で煙の粒子が水蒸気を含むと、「光の波長と同じか、それより大きい粒子(水滴)」になります。こうなると、粒子は青い光も赤い光も、すべての色の光を同じように散乱させます。すべての色が混ざると、私たちの目には「白」に見えます。これが「白い雲」の原理です。
実際にやってみました。この感動的で重要な科学現象を、タバコを使わずに、もっと手軽に安全に行う方法はないかと考えました。
科学のレシピ(線香とペットボトル編)
【用意するもの】
- 線香
- ペットボトル(500ml、炭酸飲料用など透明なもの)
- マッチ(またはライター)
- 水(少量)
- 強い光を出すライト(LEDライトや懐中電灯)
【手順】
- 部屋を暗くして、線香に火をつけます。その煙にライトの光を当てて、色を観察します。(これが「小さい粒子」の状態です)
- ペットボトルに、水をほんの少し(底が湿る程度)入れます。
- 線香の煙をペットボトルに溜めます。(火事に注意!)
- フタをしっかり閉めて、ペットボトルを激しく振ります。これで、煙の粒子が水蒸気を吸って「大きい粒子」になります。
- フタを開け、ペットボトルをゆっくり押して中の煙を出し、ライトを当てて色を観察します。
【実験の結果】
まずはこちらの動画をご覧ください。
ペットボトルから煙の渦輪(うずわ)ができてしまいました(これはこれで、流体力学の面白い実験になりますね!)。
注目してほしいのは、その「色」です。
どうでしょう? 左の線香の煙(小さい粒子)は青白く、右のペットボトルから出た煙(大きい粒子)は、より白く見えませんか?
ペットボトルから出た煙には、まだ水蒸気を吸いきれていない小さい粒子も混ざっているとは思いますが、それでも明らかに「白さ」が増しています。まさに「白い雲」が作られたのです!いかがでしたか? これならタバコも使わないし、自宅でも安全に試せますよね。
物理室でひっそりと予備実験を重ねてから授業に臨んだところ、生徒たちも色の違いに「おおー!」と盛り上がってくれました。(「うちのおばあちゃんの家の匂いがする」なんて言われてしまいましたが…笑)
科学は、知恵のバトンリレー
最後によくご質問いただくのですが、ここで紹介している実験は、すべてが私一人のオリジナルアイデアではありません。
科学の歴史がそうであるように、私の実験も、多くの先人たちの知恵の上に成り立っています。 ルーウィン先生はもちろん、教科書の編集委員の先生方、研究会で出会った素晴らしい先生方から教えていただいた実験が基礎になっています。 特に、ナリカサイエンスアカデミーの小森栄治先生が提唱する「感動する実験」には、私の授業スタイル全体が大きな影響を受けました。
私がしているのは、それらの素晴らしい実験を、より身近なもの(例えばスマホやペットボトル)で置き換えられないか?と考え、授業で試行錯誤し、その結果をご紹介している、というわけです。
科学とは、このように先人たちの知恵を受け取り、自分なりに工夫して、次の世代に渡していく「知のバトンリレー」なのかもしれません。
知らないことは、まだまだたくさんあります。ぜひ皆さんの「面白い!」も色々教えてください。 いっしょに理科を盛り上げていきましょう!
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