金髪の素粒子学者とめぐる!加速器研究施設への旅

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 今回は、本校で実施している特別教養講座という課外講座で行った、金髪の素粒子の多田将先生をお招きして行った講座について、みなさんにご紹介します。多田先生については、ぼく自信が素粒子の講義を何度か聞きに行って、直接声をかけて、知り合いにありました。お話がとってもうまくて、科学観や独自の人生観をもっている、とても面白い方です。

特別教養講座とは?

特別教養講座・校外学習編は2007年から有志の教員で行っている講座です。2006年度の高校夏季講座で、I先生が「東京の地理」を開講しました。東京は台地と低地が入り交じり、各地に坂があります。この講座は、これらの坂について地図を片手に現地を訪れて巡検するというものでした。受験に直結する基幹教科ではないことと、夏の暑い日中を歩くことを敬遠されたのか、参加生徒は5人程度でした。

講座実施後に、国語科で江戸が専門のK先生から、坂の上から浮世絵を使って江戸時代と現在の景色の違いを比べるのも面白いのではというアドバイスがあり、冬休みに生徒を集め、テーマを「明暦の大火」として、実施することになりました。明暦の大火では、火災の拡大の原因に冬の北風が関係あることが予想されます。この風と地形の間で、風が吹きやすい条件はあるのか?また坂の特性は関係しているのか?などを理科としてのアプローチができないか、と考えて理科で気象が専門のぼくにアドバイスを求めました。こうして、特別講座の第1回目が実施されました。

第1回の特別講座は次の日程で行われました。

1日目 文京区の区民センターで午前中に講義、その後、明暦の大火の出火地点とその周辺を巡検する。小石川植物園まで移動して坂の様子を確認。

2日目 文京区役所からバスで両国に移動し、江戸東京博物館を見学する。四谷三丁目の消防博物館を見学する。

校外学習は基本的に現地で始まり現地で終わるというのが当時の基本型でした。参加者は高校1年の4人だけでしたが、学校外で行うということが、生徒やまた教師にとってみても新鮮な感覚で取組めたということもあり、十分な手応えを感じることができました。

その後、この特別講座の名前を「特別教養講座・校外学習編」と名づけて、毎年長期休暇に合わせて「特別教養講座・校外学習編」を実施しました。基本的には2日間の構成として、1日目に学校で講義と巡検の準備2日目に現地を巡検する、という形でおこないました。しかし部活などの関係もあり、参加希望の生徒の日程がうまくあわず、1日だけの企画も2011年から試みました。

そうだ!多田将先生とJ-PARCへ行こう!

平成27年度については、平成27年2月・3月に素粒子物理学者の多田将先生をお招きして、授業のみの教養講座を企画・実施しました。この講座はドラえもんを題材にして、生徒が普段疑問に思っている現象について、多田先生に科学の目で解明をしてもらうというものでした。生徒からも非常に好評で、中学生から参加をした生徒もいました。今回紹介する特別教養講座「そうだ!多田将先生とJ-PARCへ行こう!」は、多田先生の企画の第2弾にあたるものです。

 多田先生の研究内容に関する講義と、先生が普段研究活動をされている茨城県東海村にうあるJ-PARC(大強度陽子加速器施設)への見学を合わせた講座です。当日の流れは次のようなものでした。

8月18日(火) 事前講義(多田将先生による素粒子の講義+J-PARCについての説明) 場所:本校内

8月20日(木) 校外見学(終日) 場所:茨城県東海村 JPARC

7時32分 上野駅初
 9時54分 東海駅着(バスに乗り込み)
10時10分 BNCT(中性子による癌治療設備)
10時50分 日本原子力研究所入構
11時00分 JRR-1(日本最初の原子炉)
11時30分 物質生命実験施設
12時00分 昼食
13時00分 ニュートリノ1次ビームライントンネル
14時00分 ターゲットステーション
15時00分 ニュートリノモニター棟
15時30分 原研出構
16時00分 東海駅にて解散

各日程、参加した生徒は24名でした。それぞれについて詳しく説明します。

事前講義

18日の事前講義では、「素粒子」という言葉自体、聞くのが初めて!という生徒も多くいました。そのため多田先生が、原子の構造について、原子核を構成する核子について、そして素粒子の一つ、ニュートリノについて、など基礎から丁寧に説明してくださいました。宇宙や素粒子の説明をするさいに、「人間を1mとすると・・・」と多田先生が自然に話しているのを聞いて、生徒から人間を1mに例えてしまうことに、驚きの声と笑い声が聞かれました。多田先生その様子をみて、「素粒子学者は桁しか問題にしない」ということを話され、話がどんどん小さな桁になっていき、生徒は視野が広がったようです。またニュートリノは、ニュー・トリノではなく、ニュート・リノであり、ニュートが「電気を帯びていない中性の」で、「リノ」が粒子という意味を表しているということをはじえて知り、納得していました。講義の最後に、J-PARCの施設の説明と、見学日にまわるコースについての説明がありました。

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校外見学日

 20日の校外見学では茨城県東海村にあるJ-PARKに行きました。上野から電車で2時間ほどかかる、生徒にとってみると少しの遠い場所でしたが、普通は入ることができない施設とあって、興味があり熱心に見学をしていました。

 現地ではバスをチャーターしていただき、バスで終日移動しました。まずはじめに訪れたのがBNCTという、中性子による癌治療設備についての施設です。素粒子を利用してがん細胞を的確に攻撃するその仕組を説明していただき、小型の加速器を隅々まで見せていただきました。

その後、JRR-1という日本最初の原子炉を見学させていただき、ニュートリノ1次ビームライントンネルへと向かいました。この施設は地下にあり、多田先生から事前に説明は受けていたものの、その大きさを目にして、生徒は驚いていたようでした。ターゲットステーションでは、様々な大学や企業が、それぞれの実験棟を持っている様子がわかりました。最後に大きな穴の中にある、ニュートリノモニター棟を見学させていただきました。

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BNCTの加速器の様子

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J-PARCの中性子を使った実験棟の様子

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ニュートリノモニター棟の様子

まとめ

今回の講座は、多田先生を主体にして、校内の教員が一切授業には関わらず運営にまわるという初めての試みになりました。講座に全くかかわらないわけではなく、講師をしてくださる多田先生にどいう知識を持った生徒がいるのか、どのような話を生徒が聞きたいと思っているのか、どのようなことを伝えてほしいのか、という生徒と講師の間をスムーズに結ぶための役割を引き受けた形です。

また特別教養講座の特徴となる、講義+見学の二本柱を重視して、2日間の日程を組みました。参加した生徒も、26名と例年よりも多くの生徒が集まりました。生徒の様子を見ていても、また生徒アンケートを見てみても、充実したものだったことが伺えます。

ここ数年課題としてきたことに、私達が特別教養講座の企画に慣れてきてしまい、新鮮な感覚がなくなってきたということがありました。しかし外部講師を呼び、より専門的な話を交えることによって、私達も知らない世界が垣間見えて、新たな方向性を感じた企画となりました。

今後も外部講師を招いた教養講座を何回か実施してみようと考えております。また基礎知識はもちろんのこと、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力なども、より高次のものを生徒に身につけさせることができるような内容を考えていきたいと思います。いずれにせよ、新しい形の「学び」を届けるために、今後も生徒や色々な教科の先生方と様々な活動をしていきたいと思っています。

 

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