隕石 vs 空気抵抗!物理で追う終末のスピード(高校物理と微積分)

桑子研
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

高校物理の教科書では、基本的に微分積分を使わずに説明がなされています。これは、高校1年で物理を学ぶ段階では、まだ数学で微積を習っていない生徒が多いからです。でも――理科の先生の皆さんなら、こう思ったことはありませんか?

「微積使えば、もっとスッキリ説明できるのに!」

そんな方のために、このコーナーでは**「微積で読む高校物理」をテーマに、特に微積を使うことで本質的な理解につながる場面**について、少しずつ紹介していこうと思います。

今回のテーマは「空気抵抗のある運動」についての続編です。

前回のおさらい:雨粒はなぜ一定の速度で落ちてくるのか?

雨の速度はなぜ一定になるのか?すぐわかる!微積で物理

前回は、空気抵抗が速度に比例すると仮定して、雨粒が一定の速度(終端速度)mg/k に近づいていくことを、微分方程式を使って解析しました。速度vに比例する抵抗力kvが働くとすると、運動方程式は以下のようになります。

m dv/dt = mg – kv

この式を解くことで、速度が指数関数的に終端速度mg/kへと近づいていくことが示されました。

空気抵抗がなかったら、雨粒の速度はどうなる?

ここで、素朴な疑問が生まれます。

「もし空気抵抗がなかったら、雨粒はどれくらいの速さで地面に落ちてくるのか?」

高校物理でおなじみの時間のない式 v² = v₀² + 2gh を使って、雨粒が高さ1km(=1000m)から初速度0で落下した場合の速度を計算してみましょう。

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v = √(2 × 9.8 × 1000) ≒ 140 m/s

なんと秒速140m、時速に直すと約500km/hです!これは新幹線の最高速度を超えています。もし空気抵抗がなかったら、雨に打たれたら命の危険すらありそうですね……。

隕石のように速く落ちてきたらどうなる?

次に考えたいのは、「すでに速く動いている物体が空気中に突入したら?」というケースです。例えば隕石のような高速物体。前回の式②については、速度がmg/kより小さいときには、次のような微分方程式が使えました。

スクリーンショット 2015-07-11 16.51.31

しかし、初速度v₀がmg/kより大きい場合には、この式における空気抵抗の符号(絶対値の扱い)に注意が必要です。運動方程式は次のように表されます:

スクリーンショット 2015-07-11 16.51.37

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解いていくと、速度v(t)は次第に遅くなりながらも、結局は同じく終端速度mg/kに近づいていくことがわかります。グラフにすると、v(t)は減速しつつ滑らかに水平線へと近づく曲線になります。

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微積を使って教えると、なにが変わる?

もちろん中学や高校1年生の段階では、ここまでの数学は扱えませんが、理科教師としての理解を深めておくことは授業の説得力や質に直結します。特に探究学習や生徒からの「なんで?」に答える場面では、こうした裏の理屈が大きな支えになります。

なお、今回使ったモデルは、空気抵抗が速度に比例する(kv)という単純化された仮定に基づいています。実際には、形状や流速により二乗比例の成分(kv²)も効いてくることがありますので、応用的な話題として頭の片隅に置いておいてください。

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