【科学監修】マツコも知らない?人が深く潜ると「酸素」が毒になる!?深海の驚くべき世界「マツコ&有吉かりそめ天国SP」
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
テレビ番組の監修をきっかけに、深海の扉を開いてみませんか?先日、2024年5月31日に放送された「マツコ&有吉 かりそめ天国SP」で、科学監修を務めさせていただきました。ほんの少しですが、画面の右上に名前も載せていただきました。
このお仕事がきっかけで、「人間は一体、どこまで深く潜れるのか?」という壮大なテーマを改めて探求することになりました。水の世界への挑戦は、私たちの体の神秘と科学の驚くべき進歩を教えてくれます。さあ、一緒に人間の限界のその先を覗いてみましょう!
第一の壁:巨大な「水圧」との戦い
まず私たちの前に立ちはだかるのは、巨大な水圧の壁です。水深が10m深くなるごとに、私たちの体には1気圧ずつ圧力が加わっていきます。何もつけずに潜る「素潜り」では、水深およそ30mが限界点の一つとされています。なぜなら、その深さでは肺が水圧によって元の大きさの4分の1にまで押しつぶされてしまうからです。
「肺が潰れたら、もう潜れないのでは?」と思いますよね。しかし、世界には「フリーダイビング」という競技で、なんと100m以上も潜ってしまう超人たちがいるのです!これは驚きですよね。
第二の壁:味方であるはずの「気体」の反乱
では、スキューバダイビングのように、水圧と同じ圧力の空気を送り込む装置を使えば、どこまでも潜れるのでしょうか?残念ながら、そう簡単にはいきません。今度は、私たちが呼吸している「気体」そのものが、牙をむき始めます。
酸素中毒:生命の源が毒に変わるとき
意外に思われるかもしれませんが、深く潜ると酸素が毒になる「酸素中毒」という現象が起こります。水深が深くなると、圧力によって空気中の酸素の「分圧(気体の密度のようなもの)」が高まります。水深60m〜70mでは、この酸素の分圧が危険なレベルに達し、細胞を傷つける「活性酸素」が大量に発生。めまいや痙攣を引き起こし、最悪の場合は命を落とすことさえあります。
(参考)酸素中毒とは、超高分圧の酸素を摂取した場合、またはある程度高分圧の酸素を長期にわたって摂取し続けることによって、身体に様々な異常を発し、最悪の場合は死亡に至る症状である。 Wikipedia「酸素中毒」
窒素中毒:深海で酔っ払う?
さらに深く潜ると、今度は空気の約8割を占める窒素が問題を起こします。「窒素中毒」は、高圧下で窒素が血液に溶け込み、神経に麻酔作用を及ぼす現象で、「深海の酔い」とも呼ばれます。判断力が鈍り、幸福感に包まれるなど、まるでお酒に酔ったような状態になり、正常な判断ができなくなる非常に危険な状態です。
限界を超える科学の力:魔法のガス「ヘリオックス」
では、プロのダイバーたちはどうやって300m以上もの深海に到達しているのでしょうか?その答えは、呼吸する気体の「ブレンド」にあります。窒素中毒を防ぐために、空気中の窒素を、体に溶け込みにくく麻酔作用も非常に小さいヘリウムに置き換えた混合ガス(ヘリオックスやトライミックスと呼ばれます)を使用するのです。
このように、潜水技術の歴史は、人体の神秘的な能力と、それを乗り越えようとする科学技術の進歩の物語でもあるのです。(より詳しい情報はこちらのサイトも参考になりました。)
最後に面白い事実を一つ。なぜ水圧で体全体がグシャっと潰れてしまわないのでしょうか?それは、私たちの体の約60%が水(液体)でできているからです。液体は気体と違って圧縮されにくいため、水圧がかかっても体積はほとんど変わりません。だから、気体で満たされた肺は潰れてしまいますが、体の他の部分は耐えられるのですね。
深海への挑戦は、まさに人体の不思議と科学の叡智が交差する、壮大な冒険と言えるでしょう。
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