全国で事故続出。それでも教えたい「鉄と硫黄の硫化」実験の13ポイント(硫化水素の発生)中2理科
鉄と硫黄を混ぜて加熱し、硫化鉄をつくる――この「硫化」の実験、理科教師なら一度は扱ったことがあるはずです。火山国・日本に暮らす私たちにとって、「硫化水素の匂い」を経験しておくことには意味があります。実際、温泉地ではあの“腐卵臭”を日常的に感じる地域もありますし、私自身(群馬県出身です)にとっては、どこか懐かしくもある香りです。
ところがこの実験、全国で毎年事故が報告されており、うかうかしていると「全国的に禁止」になりかねない危うさをはらんでいます。「硫化水素 ニュース」と検索するだけで、恐ろしい事故例が多数ヒットするほどです。特に問題視されているのが、硫化水素の発生のさせ方。おそらく現場教師は慎重に指示をしているものの、指示を聞いていない生徒が多めに塩酸をかけてしまって…ということが多いと思います。でも事故が一度起こったら、それは教師の責任になってしまいます。またさらに、それだけにとどまらず、この実験には色々と細かい注意点があり、見落とすと、重大なトラブル、その後の保護者対応、また授業自体がストップしてしまうことによる学びの機会の損失につながる可能性があります。
実験中に硫化水素発生で6人搬送 相次ぐ事故も…なぜ実験必要?
出典:テレビ朝日ニュース(2025/05/13)
加熱中に試験管の中で鉄と硫黄が反応し、赤く発光するあの美しい変化は、生徒の記憶に残る貴重な「理科体験」になります。そして何より、「臭い」という感覚を使って学ぶ授業は、印象に残りやすく、命に関わる知識(硫化水素=危険な気体であるということ)を実感させることができます。
だからこそ、細心の注意を払いながら、正しく、安全に、確実に実施しなければなりません。この記事では、私が実際の授業で毎年見直している安全のための「13の注意ポイント」を整理して紹介します。また、授業で生徒に提示している安全指示スライドも掲載しています。ご自由に使ってください。
【授業時に出した指示のスライドもこちらに掲載しておきます。】
【生徒に注意喚起を促すためのラジオも作成しました。こちらからどうぞ。】
音声ファイルはこちらから(MP3)
私自身、この実験の前には必ず複数回の予備実験を行ってから本番に臨みます。幸いこれまで大きな事故なく授業を終えられていますが、常に「怖さ」と向き合いながらの実践です。
※ ここに書いた実践方法は、安全面を第一に考えたもので、あくまで一例です。教科書会社によって記載の方法も異なりますし、たとえばスチールウールを使う方法も紹介されています。各学校の設備や指導体制に合わせ、最適な方法で実施してください。
また、写真やスライドの使用について「授業で使っても良いですか?」といったお問い合わせをいただくことがありますが、こちらに掲載している内容はすべてご自由に使用OKです。ぜひ、より安全で、より効果的な授業づくりの一助となれば幸いです。
また、実際に行ってみての改善点や、他の効果的な方法があれば、ぜひ教えてください。互いの実践を共有し合うことで、この大切な実験が、これからも子どもたちに安全に届けられるようにしていきましょう。
実験方法
手順0 事前連絡及び換気をONに!
事前に保健室や担任の先生に実験を行うことを伝えておくと何かの時に安心ですね。生徒には白衣と保護メガネを必ず持ってくるように指示をしておきましょう。
忙しくなると、窓を開けるのは覚えていても、換気扇を回すのを忘れてしまうことがあります。
ポイント0 事前に保健室の先生と担任の先生に声をかけておく
ポイント1 忙しくなって忘れないために初めから換気のボタンを押しておく。
手順1 鉄粉と硫黄の粉末を混ぜ合わせる(鉄粉7.0g、硫黄4.0g)
教員の事前準備として、鉄粉7.0g、硫黄4.0gを測り取っておくことが必要です(50分の中では実験が終わらないため)。測るときの量も大切で、特に硫黄が多いと硫黄の蒸気が発生しやすくなります。この時間が毎年結構大変です。本来なら生徒にやらせたいところですが、時間がかかってしまって、なかなか実験まで辿り着けないのが悩みです。今年は科学部員に協力をしてもらって、用意しました。鉄粉の粒度は100メッシュ以上が良く、60メッシュだとうまく反応が起こらないことがあるとのこと。今回は300メッシュを使いました。
ポイント2 鉄粉の粒度は100メッシュ以上!
楽天だとこちら
乳鉢に鉄と硫黄をとってよくかき混ぜます。乳鉢は硫化鉄と酸化銅用のものを別々に買って用意しています。水洗いしなくても、次のクラスが使えるので便利です。
これをよくかき混ぜます。硫黄のダマがなくなるまでしっかりと混ぜ合わせて、全体がグレーになるまでやりましょう。
ポイント3 よく混ざぜる。化学反応が十分にできないと硫黄の蒸気がでます。
参考:硫黄の融点112℃、沸点446℃ ガスバーナーの炎 1500℃
これはよく混ざっていない例です。黄色い硫黄の塊が見られます。全体がグレーになるまで混ぜます。
手順2 アルミ箔の容器を2本作り、試料を入れる
アルミ箔のサイズは5cm×10cmくらいで事前に準備をしておきましょう。単四電池2本をセロテープでくっつけたものを芯にして巻来ます。机に強く押し付けるようにすると、固く巻家ます。
片方を閉じて電池を引き抜きます。これを2本用意します。
これを薬包紙に移します。
そして漏斗を使って、入れていきます。
入れたから軽く机を使ってトントンと叩いて、空気をいて、中で粉同士が接触するようにしておきます。強く叩きすぎて、アルミ箔が破れてしまう場合があります。軽く叩くいけば良いと伝えましょう。漏斗(ろうと)は水洗いしないで良いと伝えます(次のクラスが続きであっても使用できます)。
手順3.試験管に入れて、加熱する
試料2本をそれぞれa,bとすると、bはそのままにしておいて(対照実験用)、aを試験管に入れます。そして試験管の上を脱脂綿で蓋をして、アルミホイルの上部を加熱します。反応が始まったら加熱をやめて様子を観察します。1分くらいで反応が始まります。
ポイント4 脱脂綿で蓋をする。硫黄の蒸気などの有毒な物質が外に出るのを防ぎます。
アルミ箔の棒の上部を加熱します。下部ではありません。理由は、反応が始まった時の熱と、ガスバーナーの熱で試験管にヒビが入ることがあり、下部から加熱すると、底がボトっと落ちることがあるからなのだそうです。また上部から反応が起こると試験管が汚れにくく、次回も使いわせるという特徴もあるようでした。(4クラス分使い回すことができました)
ポイント5 アルミ箔の上部を加熱する
ポイント6 試験管ばさみは試験管の上部につけて、決してハサミの部分を持って温めないこと。間違って固定バサミを開く恐れがあります。
反応が始まったら、ガスバーナーの火から離しても大丈夫。どんどん進んでいきます。とても綺麗で、花火のようです。反応もゆっくりです。
ポイント7 ガスバーナーの火は消さないで良いので、ここは化学反応に注目させましょう。山場の一つです。
ポイント8 試験管の下に手を置かないように、注意をする必要。
少し試験管ばさみを手で持って冷まし、その後、空になっている乳鉢の上において冷まします。
冷えるのを待つ間に加熱器具などを片付けさせると良いです(加熱器具などの片付けを行なっておく)。
手順4 十分に冷えたら、試験管から資料aを取り出し、資料bとの性質の違いについて調べる
濡れ雑巾で試験管の先を触ってみて、じゅっと音がしなそうであれば、濡れ雑巾で巻いて、全体を冷やします。脱脂綿をとって、試験管から中身を取り出します。
磁石を近づけてみる。
ポイント9 フェライト磁石なら良いですが、ネオジウム磁石であると、硫化鉄の方もくっつくことがあります。ただし、つきかたが弱いです。つき方の違いに目をむけさせましょう。
手順5 一部(1~2mm程度)をペトリ皿にとり、塩酸をプチボトルから3滴たらし発生するにおいを調べる。手で仰ぎながら観察する。
ここが一番の中毒ポイント!事故が最も起きやすいシーンです。換気をもう一度確認、窓を開けて、教室前後の扉も開けます。「かけら」にかけるということ、塩酸は3滴ということについて、注意を何度も強めに!指示を聞いていない生徒が、塩酸をドバッとかけるなんてことが起きてしまいがちです。
プチボトルを使用すると、かけ過ぎが防げます。ただ白いところを回す生徒が出てくることも、、、。教員がかけるなど、最新の注意を!
ポイント10 換気のためにドアや窓を開ける。また硫化鉄はそのままではなく折って、カケラにしてから塩酸をかけること。塩酸は薄めたもの(3%)をプチボトルに入れて、それを3滴と指示出す。
ポイント11 途中で気持ちが悪くなった生徒は外に出ても良いと指示を出す。空気よりも重い気体なので立ちながら作業をするように声をかけます(いつも実験中立っているのが標準ですが)
ポイント12 発生する気体は有毒なので手であおいでそっとかぐようにする。直接顔を近づけない。決して強く吸い込んではいけない。全員がにおいが感じとれたら,水を少量かけて反応を止めるように指示。
試験管に硫化鉄のかけらを入れて、塩酸をかけて硫化水素の匂いを嗅ぐ方法もあるのですが、やってみるとペトリ皿の方がわかりやすかったです。理由としては空気よりも重いため、試験管の場合は試験管の口まで気体が出るまでに時間がかかり、仰いでも匂いを感じることができない時間帯がでて、鼻をつける生徒が出てきそうな悪い予感がしたためです。ですので、私はペトリ皿パターンをおすすめします。
試験管はブラシで洗うように指示を出します。汚れは全ては落ちません。また硫化鉄や残りは燃えないごみとして回収をします。排水溝に流しません。試験管はヒビが入っていないか確認をして、洗えば汚れはついてしまうものの、また使えました。
ポイント13 残った資料は回収する。流しに流さない。また資料を処理する際に教師は注意をする。
残った資料を回収しますが、その後処理にも教師は気をつけたいところです。理科室から発火事件があったようですが、時期から考えてもこれは鉄と硫黄の実験で、もしかしたら鉄と硫黄の混ざったものが発火したのではないかと考えらえれます。真相はいかに。
別の方法(参考)
試験管に入れずに直接加熱する方法もあります。私はこの方法で数年やっていました。化学反応自体はとても良く見えますし、観察にはお勧めです。ただしどうしても顔を近づけてみたくなったり、そのことにより硫黄の蒸気を吸い込んで咳き込むことがあり得るので、より安全い行うためには上記の脱脂めんで蓋をするパターンをお勧めします。
また教科書によっては、硫黄とスチールウールを試験管に入れて行う方法もありました。実際にやってみると、こんな感じです。
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