全国で事故続出。それでも教えたい「鉄の硫化実験」の13ポイント(硫化水素の発生)中2理科

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

この記事はラジオでも配信中!

温泉地の近くに行くと、どこからともなく漂ってくるあの独特の匂い。「腐った卵」のような、でも不思議と嫌いになれないあの香りの正体が、硫化水素です。温泉で有名な群馬県出身の私にとっては、どこか懐かしくさえある匂いです。中学理科の「鉄と硫黄を混ぜて加熱する」実験は、化学反応の美しさもさることながら、硫化水素が発生して、その匂いを体験する機会であり、生徒たちが五感を使って化学変化を体感できる、貴重な経験のひとつです。

ところが近年、この実験による事故が全国で相次いでいます。「硫化水素 ニュース」と検索するだけで、恐ろしい事例が続々と出てきます。指示を聞いていない生徒が塩酸を多量にかけてしまった、たったそれだけのことで教師の責任問題に発展し、授業そのものが存続の危機に立たされることもあるのです。

<事故発生例>
東京・江戸川区の区立中学校で硫化水素発生か 中学2年の生徒5人が体調不良 (朝日新聞)(2026/05/15)
硫化水素実験は必要?相次ぐ救急搬送(毎日新聞)(2025/6/19)

https://youtu.be/QwMtCDEYjjs?si=wWNO55szEuiigQEE

それでも、この実験を続けることには意味があるのではないかと考えています。鉄と硫黄が反応して赤く発光するあの美しい変化は、生徒の記憶に深く刻まれます。

そして「この匂い=危険な気体」という体験的な知識は、将来、温泉地や工事現場など実生活の場面で命を守る知識になりえます。だからこそ細心の注意を払いながら、正しく・安全に・確実に実施しなければなりません

ただし、生徒にとっても理科教師にとっても、意味のある実験で、とても大切な実験であるとは思いますが、安全性を担保しなければ、それはやるべきではありません。

そこでこの記事では、私が毎年授業で見直している安全のための「13の注意ポイント」を整理して紹介します。また、この記事の最後に、実際に授業で生徒に提示している安全指示スライドも掲載しています。ご自由にお使いください。私自身、この実験の前には必ず複数回の予備実験を行ってから本番に臨みます。幸いこれまで大きな事故なく授業を終えられていますが、常に「怖さ」と向き合いながらの実践です。

※ 写真やスライドの使用について「授業で使っても良いですか?」といったお問い合わせをいただくことがありますが、こちらに掲載している内容はすべてご自由に使用OKです。ぜひ、より安全で、より効果的な授業づくりの一助となれば幸いです。

実験方法

事前連絡と換気の徹底<準備は授業の前日から始まっている>

事前に保健室や担任の先生に実験を行うことを伝えておくと、万が一のときに迅速に対応してもらえます。生徒には白衣と保護メガネを必ず持ってくるよう事前に指示しておきましょう。

そして忘れがちなのが換気扇です。実験当日は準備や生徒対応で目が回るほど忙しくなります。窓を開けることは覚えていても、換気扇のスイッチを押し忘れた、という経験はありませんか? だからこそ、授業が始まる前の段階で換気扇をオンにしておくことを習慣にしましょう。

ポイント0 事前に保健室の先生と担任の先生に声をかけておく

ポイント1 忙しくなって忘れないために、授業開始前から換気扇のボタンを押しておく

本校の換気スイッチ

手順1 鉄粉と硫黄を正確に混ぜ合わせる(鉄粉7.0g、硫黄4.0g)

50分の授業内で実験を完結させるために、鉄粉と硫黄の計量は教員が事前に準備しておく必要があります。特に硫黄が多すぎると硫黄の蒸気が発生しやすくなりますので、分量の正確さが安全に直結します。

鉄粉の粒度にも注意が必要です。粒が粗い60メッシュでは反応がうまく起こらないことがあります。100メッシュ以上を使用しましょう。今回は300メッシュを使用しました。なぜ粒度が重要かというと、粒が細かいほど鉄と硫黄の接触面積が増え、化学反応が均一かつ安定して進むからです。

ポイント2 鉄粉の粒度は100メッシュ以上!

楽天:鉄粉300メッシュ 【北海道・沖縄県配送不可】

乳鉢に鉄と硫黄をとってよくかき混ぜます。乳鉢は硫化鉄用酸化銅用を別々に用意しておくと、水洗いしなくても次のクラスへそのまま引き継げて便利です。

全体がグレーになるまでしっかり混ぜましょう。黄色い硫黄のかたまりが残っていると、化学反応が不均一になり、余った硫黄が蒸気として出てきてしまいます。「全体がグレーになること」がひとつの目安です。

ポイント3 よく混ぜる。化学反応が十分に起きないと硫黄の蒸気が出ます

参考:硫黄の融点112℃、沸点446℃ ガスバーナーの炎 1500℃

これはよく混ざっていない例です。黄色い硫黄の塊が見られます。全体がグレーになるまで混ぜましょう。

手順2 アルミ箔の容器を2本作り、試料を入れる

アルミ箔のサイズは5cm×10cmほどを事前に準備しておきましょう。単四電池2本をセロテープでつなげたものを芯にして巻き、机に強く押し付けながら巻くとしっかり固まります。片方を閉じて電池を引き抜けばアルミ容器の完成です。これを2本用意します。

手でくるくると丸めます。

混合した試料を薬包紙に移し、漏斗を使ってアルミ容器に入れます。入れたあとは軽く机でトントンと叩いて、粉の間の空気を抜いて粉同士が接触するようにしましょう。強く叩きすぎるとアルミ箔が破れてしまうので、軽くで十分だと伝えましょう。また漏斗は水洗い不要で次のクラスでもそのまま使えます

手順3 試験管に入れて加熱する<赤い発光、これが化学変化の山場!>

試料2本をa・bとし、bはそのまま対照実験用に残しておきます。aを試験管に入れ、試験管の上部を脱脂綿で蓋をしてから、アルミ箔の上部を加熱します。これには理由があります。

下部を加熱すると、反応熱とガスバーナーの熱が重なって試験管の底が割れ、ボトッと落下することがあります。上部から反応を始めることで試験管が汚れにくく、4クラス分の使いまわしもできました。

ポイント4 脱脂綿で蓋をする。有毒な硫黄蒸気などが外に出るのを防ぎます

ポイント5 アルミ箔の上部を加熱する(下部ではない)

ポイント6 試験管ばさみは試験管の上部に取り付け、ハサミ部分を手で持ちながら加熱しないこと。
誤って固定バサミが開く危険があります。

反応が始まったらガスバーナーの火から離しても大丈夫です。反応は自らの熱でどんどん進んでいきます。まるで花火のように赤く光るこの変化が、今回の実験の最大の見どころです。鉄(Fe)と硫黄(S)という別々の物質が、熱をきっかけにまったく違う性質の硫化鉄(FeS)に変わる瞬間です。反応後は磁石を引きつけなくなるという性質の変化も、このあと確認できます。

ポイント7 ガスバーナーの火は消さなくてよい。化学反応そのものに注目させましょう

ポイント8 試験管の下に手を置かないよう注意する

少し試験管ばさみを手で持って冷まし、その後は空の乳鉢の上に置いて冷まします。冷えるのを待つ間に加熱器具の片付けをさせると、時間を有効に使えます。

冷ます様子を写真に撮り忘れました。一例です。

手順4 冷えたら取り出し、試料bとの性質の違いを調べる

濡れ雑巾で試験管の先に触れて、じゅっと音がしなければ安全に冷えているサインです。濡れ雑巾で全体を巻いてさらに冷やし、脱脂綿を取り除いてから中身を取り出します。

磁石を近づけてみましょう。反応前の鉄は磁石にくっつきますが、硫化鉄になった試料aはどうでしょうか?

ポイント9 磁石はフェライト磁石が適切。ネオジウム磁石だと硫化鉄にもわずかにくっつくことがあるため、「くっつき方の違い」に注目させましょう

手順5 塩酸を3滴たらして、においを確認する<事故が最も起きやすい瞬間>

ここが今回の実験の最大の中毒ポイントです。硫化水素は空気よりも重いため、下に溜まりやすく、濃度が高まると危険です(人体への許容濃度は1ppm以下とされています)。換気をもう一度確認し、窓・前後の扉を全開にします。

生徒への指示は何度でも繰り返してください。「かけらにかけること」「塩酸は3滴だけ」という2点は、声を大きく、強めに伝えましょう。プチボトルを使うとかけ過ぎを防げますが、白いキャップ部分を回して量を増やす生徒が出ることもあります。教員自身がかけることも、選択肢として検討してください。

プチボトルを使用すると、かけ過ぎが防げます。ただ白いところを回す生徒が出てくることも……。教員がかけるなど、最新の注意を!

ポイント10 換気のためにドアや窓を開ける。硫化鉄はかけらにしてから塩酸を3滴(プチボトル使用)かけること

ポイント11 途中で気持ちが悪くなった生徒はすぐに外に出るよう指示する。空気より重い気体なので、立って作業するように声をかける

ポイント12 発生する気体は有毒。手であおいでそっとかぐように指示し、顔を近づけたり強く吸い込んだりしないよう徹底する。全員が確認したら水を少量かけて反応を止める

なお、上記のようにペトリ皿を使う方法がおすすめです。

試験管だと、空気より重い硫化水素が試験管の口から出るまでに時間がかかり、待ちきれず鼻を近づける生徒が出てくる恐れがあります。ペトリ皿の方が気体がすぐに広がり、手であおぐだけで匂いを確認できます。実験後は試験管をブラシで洗います(汚れは完全には落ちませんが問題ありません)。残った硫化鉄などは排水溝に流さず、燃えないごみとして回収します。試験管はヒビがないか確認の上、再利用可能です。

ポイント13 残った試料は回収する。流しには絶対に流さない。廃棄処理も教師が慎重に行う

廃棄処理には特に注意が必要です。鉄と硫黄の混合物が残った状態で放置されると、理科室での発火事故につながる可能性があります。過去に似たような事例も報告されており、実験後の後片付けまでが実験の一部です。

別の方法(参考)

試験管を使わずに直接加熱する方法

試験管に入れずに直接加熱する方法もあります。私自身、数年間この方法で実施していました。化学反応が非常によく見えて観察には最適です。ただし、どうしても顔を近づけて見たくなる生徒が出やすく、硫黄の蒸気を吸い込んで咳き込む場合があります。安全面をより重視するなら、脱脂綿で蓋をする方法をおすすめします。

スチールウールを使う方法

教科書によっては、硫黄とスチールウールを試験管に入れる方法も紹介されています。実際にやってみるとこんな様子です。

観察はとてもしやすいかなと思います。

関連資料

安全すごろく教材

森重比奈先生と一緒に鉄と硫黄の実験すごろくという安全教育に関係する教材開発に携わりました。遊びながら正しい知識を学ぶことができる教材で、授業前に取り組むと効果的です。ぜひこちらも併せてお試しください。無料でダウンロード可能です。

お問い合わせ・ご依頼について

科学の不思議やおもしろさをもっと身近に!自宅でできる楽しい科学実験や、そのコツをわかりやすくまとめています。いろいろ検索してみてください!
・運営者・桑子研についてはこちら
・各種ご依頼(執筆・講演・実験教室・TV監修・出演など)はこちら
・記事の更新情報はXで配信中

科学のネタチャンネルでは実験動画を配信中!

6月のイチオシ実験!

レモンやオレンジで風船を割ろう!インパクトが抜群のリモネン風船の実験

テレビ番組監修・イベント等のお知らせ

書籍のお知らせ

  • 『大人のための高校物理復習帳』(講談社)…一般向けに日常の物理について公式を元に紐解きました。特設サイトでは実験を多数紹介しています。※増刷がかかり6刷となりました(2026/02/01)
    スクリーンショット 2014-07-05 0.43.51
  • 『きめる!共通テスト 物理基礎 改訂版』(学研)… 高校物理の参考書です。イラストを多くしてイメージが持てるように描きました。授業についていけない、物理が苦手、そんな生徒におすすめです。特設サイトはこちら。

各種SNS(更新情報をお届け!)

X(Twitter)instagramFacebook(日本語)

BlueSkyThreads(英語)

Explore

  • 楽しい実験…お子さんと一緒に夢中になれるイチオシの科学実験を多数紹介しています。また、高校物理の理解を深めるための動画教材も用意しました。
  • 理科の教材… 理科教師をバックアップ!授業の質を高め、準備を効率化するための選りすぐりの教材を紹介しています。
  • Youtube…科学実験等の動画を配信しています。
  • 科学ラジオ …科学トピックをほぼ毎日配信中!AI技術を駆使して作成した「耳で楽しむ科学」をお届けします。
  • 講演 …全国各地で実験講習会・サイエンスショー等を行っています。
  • About …「科学のネタ帳」のコンセプトや、運営者である桑子研のプロフィール・想いをまとめています。
  • お問い合わせ …実験教室のご依頼、執筆・講演の相談、科学監修等はこちらのフォームからお寄せください。