魔法の液体「熱素」の正体とは?中学時代の勘違いから学ぶ熱のミステリー(熱素説と熱運動)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

机の上で消しゴムを擦ってみると…。サーモグラフィーでも見てみました。

この様に温度が上昇します。なぜなのでしょうか。
そんな当たり前の疑問に、皆さんはどう答えますか?実を言うと、この問いは人類が何千年もかけて追い求めてきた「熱の正体」という壮大なミステリーの入り口なのです。今回は、私が中学時代にやらかした(?)ある可愛らしい勘違いから、科学の歴史を動かした驚きの物語を紐解いていきましょう。
14歳の私が導き出した「世紀の発見」?
私は中学2年生のころのことをよく覚えています。理科の先生から熱について教えてもらった時に、「なぜ温かいものの温度は、次第に下がっていくのか」という問いかけがありました。クラス中が静まり返るなか、私は自信満々にこう発言したのです。
「冷たいの元になる物質が、温かい物質の中に移動していくから、温度が下がるんだと思います!」
その時、教室に少しの間が空きました。先生は驚いたような、それでいて少し嬉しそうな顔をして「とっても面白い考えだね」と、私の言葉を拾ってくれたのです。当時の私は「あ、想定外の答えを言っちゃったんだな」と恥ずかしくなったのを覚えていますが、今振り返れば、当時の自分に「よくやった!」と拍手を送りたい気持ちです。
なぜなら、その素朴な疑問こそが、かつての偉大な科学者たちが辿った道そのものだったからです。
かつての天才たちも信じた「熱素説」
実は19世紀の初めごろまで、世界中の天才科学者たちは私と同じようなことを考えていました。当時はまだ、熱の正体が「分子や原子の激しい振動」であることは知られていなかったのです。その代わりに信じられていたのが、熱素(カロリック)という考え方です。
「熱い」「冷たい」という感覚は、物質の中に目に見えず、重さもない不思議な流体が入っているからだ、と説明されていました。これを熱素説と呼びます。
淹れたての熱いお茶をしばらく置いておくと冷めてしまうのは、お茶の中にたっぷり含まれていた「熱素」が、お茶碗や周りの空気にじわじわと流れ出てしまうからだ、と考えられていたのです。私の「冷たい物質が移動する」という発言は、方向こそ逆ですが「熱を物質として捉える」という点で、歴史的な科学者たちの思考に肉薄していたのです。
大砲の穴あけから見つかった「熱の真実」
しかし、この「熱素説」には大きな謎がありました。物質であるならば、いつかは尽きてしまうはずです。この矛盾に気づいたのが、ベンジャミン・トンプソン(ラムフォード伯)という人物でした。彼は大砲の筒を削る作業を見ていて、あることに気づきます。
「金属を削り続けている間、熱は無限に出続けているじゃないか!もし熱が物質(熱素)なら、いつかは空っぽになるはずなのに」
ここから科学は大きな一歩を踏み出します。熱の正体は「流れる物質」ではなく、目に見えないほど小さな粒子の運動(エネルギー)であるという結論に辿り着いたのです。
初めのサーモグラフィーを思い出してください。熱素が湧き出てきていますよね。

これが熱素説を否定していたというわけです。
科学の種は「違和感」の中にある
現代の教科書では、熱は「エネルギーの移動」であると教わります。冷たいものと温かいものが触れ合うと、激しく動いている温かい方の粒子が、冷たい方の粒子にぶつかってエネルギーを分け与えます。そうして全体の動きが均一になっていくのが、温度が変化する仕組みです。
中学生だった私の「冷たい物質が移動する」という答えは、現在の科学から見れば間違いかもしれません。しかし、目の前の現象に対して「何かが移動しているのではないか?」とモデルを立てて考える力こそ、科学の最もエキサイティングな部分です。
理科の授業で「なぜ?」と思ったとき、教科書の正解を探す前に、自分なりの仮説を立ててみてください。もしかするとその考えは、かつての偉人が一生をかけて証明しようとした「大発見」に繋がっているかもしれませんよ。
お問い合わせ・ご依頼について
科学の不思議やおもしろさをもっと身近に!自宅でできる楽しい科学実験や、そのコツをわかりやすくまとめています。いろいろ検索してみてください!
・科学のネタ帳の内容が本になりました。詳しくはこちら
・運営者の桑子研についてはこちら
・各種ご依頼(執筆・講演・実験教室・TV監修・出演など)はこちら
・記事の更新情報はXで配信中!
科学のネタチャンネルでは実験動画を配信中!
5月のイチオシ実験!
キーンと冷えるドライアイス!気温が上がってくるこの時期・ドライアイスを使った昇華・凝結・等速度直線運動の実験はいかが?

液体ゼロ!ドライアイスが消えるまでの3時間を科学する(昇華・凝結・等速度直線運動)
テレビ番組監修・イベント等のお知らせ
- 4月30日(木)「THE突破ファイル」(日本テレビ)の科学監修を担当しました。
- 5月8日(金)理科教育ニュースを担当しました。
- 6月14日(日) 千葉大学インスタレーション「探究」にて講師を務めます
- 6月26日(金) 千葉大学の公開研究会(中学理科について授業公開予定)
- 7月18日(土) 教員向け実験講習会「ナリカカサイエンスアカデミー」の講師をします。お会いしましょう。
書籍のお知らせ
- 『大人のための高校物理復習帳』(講談社)…一般向けに日常の物理について公式を元に紐解きました。特設サイトでは実験を多数紹介しています。※増刷がかかり6刷となりました(2026/02/01)

- 『きめる!共通テスト 物理基礎 改訂版』(学研)… 高校物理の参考書です。イラストを多くしてイメージが持てるように描きました。授業についていけない、物理が苦手、そんな生徒におすすめです。特設サイトはこちら。

各種SNS(更新情報をお届け!)
X(Twitter)/instagram/Facebook(日本語)
Explore
- 楽しい実験…お子さんと一緒に夢中になれるイチオシの科学実験を多数紹介しています。また、高校物理の理解を深めるための動画教材も用意しました。
- 理科の教材… 理科教師をバックアップ!授業の質を高め、準備を効率化するための選りすぐりの教材を紹介しています。
- Youtube…科学実験等の動画を配信しています。
- 科学ラジオ …科学トピックをほぼ毎日配信中!AI技術を駆使して作成した「耳で楽しむ科学」をお届けします。
- 講演 …全国各地で実験講習会・サイエンスショー等を行っています。
- About …「科学のネタ帳」のコンセプトや、運営者である桑子研のプロフィール・想いをまとめています。
- お問い合わせ …実験教室のご依頼、執筆・講演の相談、科学監修等はこちらのフォームからお寄せください。


