蓋を開けるまで真実は一つじゃない?お弁当箱から学ぶ、科学の法則が生まれる瞬間

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「主体的・協働的で深い学び」が学習指導要領で重視される中、私たち教員にとって最大のミッションは、いかにして子どもたちの「知りたい!」という本能に火をつけるか、ではないでしょうか。授業において、教員がどのような動機づけ(きっかけ)を作るかは、その後の学びの深さを左右する極めて大切な要素です。

今回紹介するのは、お弁当ブラックボックスを使った探究型授業です。子どもたちが「科学の探偵」に変身する、刺激的な実践例をご紹介します。

お弁当型ブラックボックスの正体


「ブラックボックス」といっても、文字通り黒い箱というわけではありません。科学の言葉でブラックボックスとは、内部の構造は分からないけれど、何らかの入力を入れると反応(出力)が返ってくる装置を指します。今回のお弁当箱の中には、複雑な電気回路が隠されています。箱の側面にはAからFまでの6つの端子が飛び出しており、生徒たちはこの蓋を開けることなく、外側からのアプローチだけで中の配線を推理しなければなりません。

回路の謎を解く「証拠集め」


お弁当箱の内部には、電池や豆電球、そしてそれらを結ぶ導線が張り巡らされています。

中身の一例を挙げると、このように特定の端子同士が部品を介して繋がっています。

生徒たちに渡されるのは、豆電球(または電流計)と電池をセットにした「検流ツール」です。

これを使って、例えば「AとBを繋いでみよう」「CとFはどうかな?」と、総当たりで調査を進めていきます。

調査を進めると、不思議なことが起こります。
• 豆電球がパッと明るく光る(導線で繋がっている?)
• 全く光らない(断線している、あるいは中の電池と逆向きにぶつかっている?)
• ほんのり暗く光る(何か抵抗になるものが入っている?)

光り方のパターンから、見えない中身を透視していきます。

「数値」が語る真実の欠片

より精密な推論を促すため、現在は豆電球の代わりに電流計を使用しています。数字として結果が出ることで、生徒たちの議論はさらに熱を帯びます。

実験で得られたmA(ミリアンペア)の数値を表にまとめていく作業は、まさに散らばったパズルのピースを拾い集める作業です。


これらのデータを元に、班ごとに「これがお弁当箱の中身だ!」という回路図を作成していきます。

衝撃の結末:正解は一つではない?

ここからが、この実験の最も面白い、そして深いところです。多くの班が、自分たちの導き出した答えに自信を持って発表します。しかし、出来上がった回路図を比較してみると、複数のパターン(例えば以下の3つのようなもの)が提案されることがあります。

そして、いよいよ運命の瞬間。お弁当箱の蓋をパカっと開けてみます。

「あ!当たった!」「えーっ、自分の班の図と違う!」と歓声が上がります。実は、実験結果が完璧に一致していても、中の配線パターンが複数考えられるます。ですから蓋を開ける前までは、どの班のモデルも真実を説明しうる有効な仮説なのです。


この体験を通して、生徒たちには大切なメッセージを伝えています。世の中には、「蓋を開けて中を見ることができないブラックボックス」が溢れています。例えば、お医者さんが患者さんを診察するとき、いきなりお腹を切って中を見ることはできません。血圧や体温、レントゲンなどの「データ」から、体の中を推測し、最善の治療法を考えます。

科学の法則も同じです。宇宙の始まりや地球の核など、私たちが直接見ることができないものを、科学者たちは観測データをもとに「モデル」として組み立ててきました。もし、今までの常識を覆す新しいデータ(反例)が見つかれば、その古いモデルは新しい法則へと「上書き」されていきます。

このお弁当ブラックボックスは、単なる電気回路の学習を超えて、「未知のものにどう立ち向かうか」という科学の本質を教えてくれます。答えが最初から決まっている問題ではなく、自分たちの手で「真実のモデル」を作り上げていく。そんなワクワクする体験を、ぜひ授業に取り入れてみてください。こちらのブラックボックスもあわせてどうぞ。

答えがないから面白い!「開かずの木箱」が教える科学の本質とは?(ブラックボックス(ナリカ))

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