正義の味方か、害獣か。オオカミの再導入から学ぶ「生態系」と「人間の生活」
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
「オオカミが川の流れを変えた」という奇跡のような話を、聞いたことはありますか?
これはアメリカのイエローストーン国立公園で実際に起きた、生態系の不思議を示す有名なエピソードです。 一見、関係なさそうな「オオカミ」と「川」が、科学の力でどうつながるのか。今日はそんなワクワクするような、でも少し考えさせられるお話をシェアしたいと思います。
絶滅したオオカミを森に放つ壮大な実験
イエローストーンではかつて、人間によって絶滅させられた「オオカミ」を、再び森に導入するという実験が行われました。こちらのwikipediaにも、詳しく載っています。
アメリカ合衆国のロッキー山脈の北部に位置するイエローストーン国立公園(ワイオミング州)とアイダホ州では、約30年間の計画の見直しと関係者の話し合いを行った後、オオカミの再導入を行い、オオカミの群れを回復することに成功した。
なぜ、わざわざ怖いオオカミを森に戻したのでしょうか? それは、生態系の頂点に立っていたオオカミがいなくなったことで、獲物であるシカ(エルク)が爆発的に増え、森の植物を食べ尽くしてしまい、生態系が崩壊寸前だったからです。
理科の教科書で「生態系のピラミッド」や「食物連鎖」という図を見たことがあると思います。 イエローストーンの事例は、このピラミッドの頂点(キーストーン種といいます)が欠けるだけで、森全体がこれほど劇的に変わってしまうのかという実害と、逆にそれが戻ることで自然が回復していく様子がよくわかる一例です。
オオカミが戻り、シカが減ったことで、木々が復活しました。すると、その木を使ってビーバーがダムを作り、川の流れが安定し、多くの魚や鳥が戻ってきたのです。これが「オオカミが川を変えた」という科学のストーリーです。
正義は一つじゃない? ノルウェーでの別の現実
「オオカミを戻して自然回復、めでたしめでたし」。 イエローストーンの話だけを聞くとそう思えますが、実は現実はもっと複雑です。そんな中、私はYahoo!ニュースで次のような記事を目にしました。
闇が深いオオカミ議論/68頭のみの野生の70%を射殺へ。ノルウェー国会が許可、波紋を広げる
ノルウェーでは、そもそも「野生オオカミ」に対して誤解が多く、「恐怖心」が植え付けられている人が多い。また、石油採掘前は、農業が中心だったノルウェーでは、「農家」は特別なステイタスをもつ。
「オオカミを守ろう」という声が目立ちがちな「都市」と、「駆除すべき」という農家派が増える「地方」でも、両者の距離は大きい。
この記事では、イエローストーンとは逆に、オオカミよりもヒツジ(家畜)を守るほうが重要であるという視点が書かれています。
農家の方々にとって、生活の糧であるヒツジを襲うオオカミは脅威でしかありません。 「生態系を守る」という科学的な正しさと、「人々の生活を守る」という社会的な正しさ。この2つがぶつかり合っているのです。
「答えのない問題」に向き合うための理科教育
オオカミを保護すべきか、駆除すべきか。 この問題に関して、全員が納得する「白か黒か」のはっきりした答えはありません。しかし、世の中にある多くの課題は、このように答えが決まっていません。 だからこそ、感情だけで対立するのではなく、「なぜそうなるのか」という科学的な知識を持ち、その上で「どうすべきか」を判断する姿勢が大切だと強く感じました。
私達が学校で生徒に教えるときも、教科書の内容を「暗記すべき事実」としてバラバラに渡すだけでは不十分です。 「実際に世界で起きている社会問題(ストーリー)」に乗せて科学の知識を届けることで、「自分ならどう考えるか?」と生徒自身の思考を動かしたい。これからの理科教育に必要なことなのだと思います。オオカミの遠吠えが、教育のあり方まで教えてくれたような気がします。
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