【書評】1時間で素粒子がわかる!多田将先生の『ニュートリノ』は、たとえ話が天才的だった
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「物理学」と聞くと、難しい数式や堅苦しい教科書を思い浮かべてしまいませんか? でも、もし物理の法則が「X」や「猫」で説明できるとしたら、どうでしょう。今日は、そんな常識を覆す一冊をご紹介します。 みなさんはもう手に取られましたか? 多田将先生の著書『ニュートリノ』です。
表紙には、あの有名な実験施設「スーパーカミオカンデ」の美しい写真。そして「ニュートリノ」という直球のタイトル。実はこの本、懇意にしていただいている編集者のKさんから「また出ましたよ!」とプレゼントしていただきました。さっそく大喜びでページをめくると、そこには驚きの世界が広がっていました。
金髪の物理学者、多田将先生とは?
著者の多田先生は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で活躍される素粒子物理学者です(なんと准教授になられました!)。
多田先生をご存知ない方は、まずそのビジュアルに驚かれるかもしれません。金髪のロングヘアーに、足元はブーツ。「えっ、この人が物理学者?」と思ってしまうようなロックスターのような出で立ちなのです。 しかし、ひとたび口を開けば、そのギャップに誰もが引き込まれます。講演がとにかく面白い上に、説明が抜群に上手いのです。私も先生の講演を聞きに行って、すっかりその魅力にハマってしまった一人です。
その熱意が高じて、以前、本校の中高生に向けて特別講演をお願いしたこともありました。
その時の様子がこちらです。
多田先生のすごさは、専門的な知識がない人でも「わかった!」という感覚になれる巧みな「たとえ話」にあります。 難しい数式を並べるのではなく、私たちの身近な話題に置き換えてくれるので、聞いている人々を絶対に置いてけぼりにしません。
今回の『ニュートリノ』でも、その「多田節」とも言える比喩が冴え渡っていました。特に私が衝撃を受けた、物理とSNSを融合させた説明をご紹介しましょう。
「電場」の正体は、X(Twitter)の「猫画像」だった!?
物理の授業で多くの生徒がつまずくのが、「電場(でんば)」や「電荷(でんか)」という概念です。目に見えない力が空間に広がっている……と言われても、イメージしづらいですよね。そこで多田先生が出したたとえが、なんとTwitter(SNS)です。

P23より
想像してみてください。Twitterのタイムラインに、かわいい「猫」の画像が流れてきたとします。 この時、反応するのは誰でしょうか? そう、「猫好き」の人たちだけですよね。犬派の人や、動物に興味がない人はスルーしてしまいます。多田先生は、この現象を物理法則に置き換えました。
電荷(電気の性質)=「猫好き」という性格(猫荷)
電場(電気が力を及ぼす空間)= 猫画像の影響が及ぶタイムライン(猫場)
静電気力(引き寄せられる力)= 思わず「いいね」してしまう衝動
この「猫場」という空間が、時間をかけて「猫好き(電荷を持った粒子)」に伝わっていく様子を「猫波」と表現されています。
これ、実は物理学的にも非常に的を射た説明なんです。 「場(フィールド)」というのは、そこにあるだけで力が働く空間のこと。「猫画像(発生源)」があることで、タイムラインという空間の性質が変わり、「猫好き(電荷)」な人だけが影響を受ける。
私はこれまで「風が吹いている空間(風力場)」などで説明してきましたが、今の中高生には断然「Twitterと猫」の方が響きますよね。「なるほど!」と膝を打つ音が聞こえてきそうです。
シュレーディンガーの猫は「化け猫」?
もう一つ面白かったのが、量子力学で有名な「シュレーディンガーの猫」の話です。 箱の中の猫が「生きている状態」と「死んでいる状態」が重なり合っている……という有名なパラドックスですが、正直イメージしにくいですよね。
多田先生はこれを、「化け猫(猫波をもった幽霊)」として説明しています。
量子力学の世界では、物質は「粒」でもあり「波」でもあるという不思議な性質(二重性)を持っています。 「死んでいるか生きているか」という白黒ハッキリした状態よりも、足元がヒラヒラとして実態がつかめない幽霊のような「波・波」している状態と捉えるほうが、量子の「波動性」を直感的に理解しやすいのです。
「シュレーディンガーの猫」という言葉に、さらに「化け猫」というキャラを被せてくるセンス。脱帽です。
まとめ:物理アレルギーの人にこそ読んでほしい!
このように、ユニークなたとえ話に乗せられて読み進めていくと、あんなに難解だと思っていた素粒子の世界が、わずか1時間ほどでするするーっと頭に入ってきます。勉強としてではなく、純粋な読み物として楽しみながら、学問の最先端に触れられる一冊です。理科が好きな高校生はもちろん、「物理は苦手だった」という大人の方にこそ、超おすすめの本です。
目に見えない素粒子の世界、ちょっとのぞいてみませんか?
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