単振動を深掘り!つり合いの位置が鍵だった?微積で整理する物理

桑子研
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微積でわかる単振動の世界〜鉛直ばね振り子の謎を解く〜

高校の物理では、「微分積分」を使わずに教科書が書かれていることがほとんどです。これは、多くの高校で物理の授業が数学Ⅲよりも先に進むからですが、「微積を使ったほうが物理の本質がスッと理解できる」という場面がいくつもあります。

たとえば、運動方程式の導出、エネルギーの保存則、そして今回のテーマであるばねによる単振動などです。

高校物理では微積を扱うことはありませんが、先生方が内容理解を深めたり、授業中の補足説明に活かすことは大いにあります。「この現象は実は高校以降ではこんなふうに式で表すことができるんですよ」と伝えるだけで、生徒の目の輝きが変わる瞬間もあるはずです。

このシリーズでは、微積で解くと見通しがよくなる高校物理の単元を、一つずつかみ砕いて紹介していきます。今回は鉛直ばね振り子の単振動と力学的エネルギー保存について、微積を使ってスッキリと解き明かしてみましょう。

鉛直ばね振り子の運動を見てみよう

まずは定番、天井からばねをつり下げて、その先におもりをつけた鉛直ばね振り子を考えます。

このとき物体にはたらく力は以下の2つ:
• 下向きの重力 mg
• 上向きのばねの弾性力 -k y(ばね定数 k、伸びを y とする)

運動方程式は、下向きを正とするとこう書けます。

\[m\frac{d^2y}{dt^2} = mg – ky\]

この式、右辺に定数項 mg が含まれているため、単振動の典型的な形

-定数×変位の形になっていないため、単振動をするかどうかはわかりません。

またおもりのつりあいの場所におけるばねの長さをy0と置くと、力のつりあいから次のようにして、求めることができます。

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この式を邪魔であった上の式のmgのところに代入してみましょう。

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となりました。ここでy-y0をYとすれば、

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となり、-定数×変位の形になりましたので、この運動も単振動をするということになります。

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ちなみにYが0のときが振動の中心になるので、そのときにyの値はy-y0=0なので、y=y0です。ということで、次の図のように自然の位置を中心とした単振動をするということになります。

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ここで、Yをyで表せば、

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となることからも、単純にy0の分だけ、振動の位置がずれているということがわかりますね。

このようなことから、鉛直ばね振り子等の定数がついた場合については、釣り合いの位置での単振動と考えてとくことができるのですね。

力学的エネルギー保存の見方が変わる!

さらに面白いのはエネルギー保存則の表現です。運動方程式を積分することで、力学的エネルギーについて見て行きたいと思います。両辺にv=dy/dtをかけます。

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時間で積分します。

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運動エネルギー+弾性エネルギー-位置エネルギー=定数

※ Cは積分定数

となります。これは力学的エネルギーの保存を示します。位置エネルギーが負になっているのは、今回の単振動の原点を自然長でとっているためです。

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このように一般的にといていくと、力学的エネルギーの保存の中には、位置エネルギーの項が入ってくるので、しっかりと位置エネルギーを考えなければいけません。

しかし、今回の運動は「つり合いの位置」を基準とした単振動をすることがわかりましたよね。単振動は、運動エネルギーと弾性エネルギーの2つのエネルギーのやりとりなので、位置エネルギーは考える必要はありないはずです。というわけでつり合いの位置をうまく使って、上の式を書きなおしてみましょう。

つり合いの位置は、ky0=mgだったので、

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y-y0=Yとおいたことから、

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運動エネルギー+弾性エネルギーのようなもの=一定

というようになります。Yはつり合いの位置を原点としたときの長さを表しますので、つり合いの位置を基準とすれば、この式をつかってもよいということになります。

「弾性エネルギーのようなもの」という表記にしましたが、この1/2kY^2という項は実はこの中に位置エネルギーが含まれているので、「のようなもの」という表現にしました。ここに注意をしましょう。

間違えやすいところなので、比較をしておくと、

<原点が自然長とした場合>

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運動エネルギー+弾性エネルギー+-位置エネルギー=一定

<原点をつり合いの位置とすると特別な式になる>

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運動エネルギー+弾性エネルギーのようなもの=一定

となります。気をつけておきましょうね。

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