窓に魔法!?最新技術搭載のボーイング787で発見した“スマートウィンドウ”の秘密!
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
誰もが一度は憧れるノーベル賞の本拠地、スウェーデンのストックホルム。そこは街全体が知的好奇心を刺激する、まさに「科学の聖地」でした。2015年の夏、私はそんなストックホルムへ旅をしてきました。
短い滞在でしたが、実は帰りの飛行機の中で、教科書を飛び出した「生きた科学」に出会ったのです。キーワードは、空の上で体験した魔法の窓。今回は、最新鋭の旅客機「ボーイング787」に隠された驚きのテクノロジーをご紹介します!
ボーイング787に隠されたハイテクな仕掛け
行きのフィンエアーでは、マリメッコ柄の可愛らしい機体に揺られ、窓にはお馴染みの「手動シャッター(シェード)」がついていました。眩しければ手で下ろす、ごく普通の窓ですね。ところが、帰りのJAL便で運よく搭乗できたボーイング787には、驚くべき光景が待っていました。座席に着いて窓を見てみると、なんと……シャッターがどこにもないのです!
代わりに、窓の下には小さなボタンが一つ。

これは窓ではなくボタンです。
恐る恐るそのボタンを押してみると、信じられないことが起こりました。透明だったガラスが、まるで生き物のようにじわじわと青暗く色づき始めたのです!

ボタンを操作するだけで、外からの光の強さを自由自在に変えられる。それはまるで、窓ガラスそのものがサングラスに変身したかのような、魔法のような体験でした。
電気で色が変わる!「エレクトロクロミズム」の科学
最初は「光の振動方向を遮る偏光板を使っているのかな?」と予想しましたが、調べてみるとさらに高度なエレクトロクロミズムという技術が使われていることがわかりました。ボーイング787の窓ガラスが、ボタン一つでじわじわと青く染まっていく様子は、まるで魔法のようですよね。でもその裏側には、しっかりとした化学反応の仕組みが隠れています。
エレクトロクロミズムを利用した窓ガラス(スマートウィンドウ)は、単なる1枚の板ではありません。実は、数マイクロメートルという目に見えないほど薄い膜が何層にも重なった、「サンドイッチ構造」をしています。
主な層は以下の5つです。
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透明電極層(電気を流すための通り道)
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エレクトロクロミック層(色が変わる物質)
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イオン伝導層(イオンだけを通す電解質)
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イオン貯蔵層
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透明電極層(反対側の通り道)
この薄い膜たちが、ガラスとガラスの間にギュッと挟み込まれているのです。
色が変わる正体は「イオンの引っ越し」
では、実際にボタンを押したとき、このサンドイッチの中で何が起きているのでしょうか。キーワードは、酸化還元反応です。例えば、多くのスマートウィンドウで使われている「酸化タングステン」という物質を例に説明しましょう。
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スイッチON!:電圧をかけると、イオン貯蔵層にいた「リチウムイオン」や「水素イオン」が一斉に動き出します。
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色が変わる層へ突入:イオンたちが「イオン伝導層」を通り抜け、主役である「エレクトロクロミック層(酸化タングステン)」の中にグイグイと入り込みます。
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化学変化が発生:イオンと同時に電子も流れ込むことで、酸化タングステンが還元され、色が透明から深い青色へと変化します。
この変化を化学式で表すと、次のようになります。
(※ M^+ はリチウムなどの陽イオン、e^- は電子です)
逆に、電圧を逆向きにかけると、入り込んでいたイオンたちが元の「控え室」に戻っていき、窓は再び透明になります。
エレクトロクロミズムの素晴らしい点は、「色を変えるときだけ」電気を使えばいいという点です。一度色が変わってしまえば、その状態を維持するために電気を流し続ける必要はほとんどありません。液晶ディスプレイ(LCD)などは常に電気を使って状態を維持していますが、エレクトロクロミズムはメモリー性(状態を記憶する力)があるため、非常に省エネなのだそう。これが、飛行機やビルの窓に採用される大きな理由の一つになっています。
未来を彩るエレクトロクロミズム
この技術は、飛行機だけでなく私たちの身近な場所にも広がりつつあります。
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車のルームミラー:後続車のライトが眩しいときに、自動で暗くなって防眩します。
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ビルの窓ガラス:冷房効率を上げるために、日差しが強い時間だけ窓を暗くします。
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次世代のサングラス:環境に合わせて一瞬でレンズの濃さを変えられるようになります。
目に見えないミクロな「イオンの引っ越し」が、私たちの暮らしを快適に、そしてエコに変えてくれているのですね。この技術は、電気を流すことで物質の化学状態が変化し、光の吸収率(色)が変わる現象を利用したものです。別名スマートウィンドウとも呼ばれています。
もっと詳しく知りたい方は、こちらの解説も読んでみてください。 ・エレクトロクロミズム (Wikipedia)
技術の進歩と、ちょっとした「お悩み」
このスマートウィンドウ、最高にクールなのですが、実際に使ってみて気付いた唯一の弱点もありました。
それは、最大まで暗くしても、太陽の直射日光を100パーセント完全にシャットアウトできるわけではない、という点です。真っ暗にはならず、少し青白い光が差し込んでくるため、しっかり眠りたいフライトでは「昔ながらの物理シャッターの方が暗くなって良かったかも……」と、少しだけ贅沢な悩みを感じてしまいました(笑)。
それでも、ボタン一つで色が変化する様子は何度見てもワクワクしますし、「科学の力で旅が便利になっているんだ!」という実感を肌で感じることができました。
身近な乗り物の中にも、未来の科学がたくさん隠れています。みなさんも飛行機に乗る機会があれば、ぜひ窓の下に「魔法のボタン」がないか探してみてくださいね!
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