コの字型回路と減速運動の美しい関係(高校物理と微積分)
今回は、物理好きの先生方にぜひ味わってほしい「微積分を使って高校物理をより深く理解するシリーズ」をお届けします。高校物理の教科書では数学の進度との兼ね合いもあり、微積を避けて力学や電磁気を説明する場面が多くあります。しかし、物理という学問は本来、微積と相性抜群。式がシンプルになったり、現象の裏側まで見えてきたり、むしろその本質が際立つ場面も少なくありません。
このシリーズでは、**「ここは微積で考えるとスッキリする!」**というテーマを取り上げ、少しだけ高校物理のその先をご紹介していきます。
■ テーマ:コの字型回路 × 微積分
今回は、入試や定期テストでも定番の「コの字型回路」に導体棒をのせ、初速度を与えたときにどうなるか?を微積を使って解析していきます。
◆ 実験設定
• 水平なコの字型導体レール(抵抗 R)
• 一様な磁場 B(紙面に垂直に奥向き)
• レールに接して動ける導体棒(長さ L、質量 m)
• 時刻 t = 0 に導体棒に初速度 v₀ を与える
このとき、導体棒が磁場を横切ることにより起電力が発生し、回路に誘導電流が流れます。その電流と磁場の相互作用により、導体棒にはローレンツ力が働き、次第に減速していきます。
■ 微積で導体棒の速度変化を解析!
それでは、導体棒の速度 v(t) が時間とともにどのように変化するかを、微分方程式で導いてみましょう。
① 誘導起電力の式:
導体棒に発生する誘導起電力 V は、
V = B L v
② 回路に流れる電流 I:
オームの法則より、
I = V / R = B L v / R
③ 棒が受ける力 F:
この電流が磁場から受ける力(ローレンツ力)は、
F = I L B = (B² L² v) / R
これは導体棒の運動を妨げる向きに働くため、運動方程式は次のようになります:
④ 微分方程式を解く:
変数分離して、両辺を積分すると、
この微分方程式を解いていきましょう。変数分離をして、
両辺を時間tで積分します。
ここでe○をexp○と表記をすると、
となります。表記の問題なので、あまり気にしないでくださいね。時刻0のとき速度をv0とすると、積分定数eCはv0となります。このことから、
となります。
■ 結果とグラフのイメージ
この式からわかるように、導体棒の速度は時間とともに指数関数的に減少します。つまり、初めは速いけれど、次第にその速度は緩やかになっていき、理論的には無限の時間をかけて止まる――という運動になります。
■ 授業での活用ポイント
• 「止まる」ではなく「指数関数的に減速する」ことの意味を視覚化できる
• 電流の大きさや起電力の変化が、棒の速度と密接に関係していることが理解できる
• 数学的に自然に導ける形が出てくるので、高校数学との橋渡しにもなる
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