その公式、どこから来たの?微積で解き明かす放射性崩壊のヒミツ(高校物理と微積分)
微積で見る高校物理 〜放射性崩壊と半減期の“スッキリ”した関係〜
高校物理では、基本的に微分積分を使わずに現象を説明しています。これはもちろん、数学の進度との兼ね合いがあるためです。微積が未習の段階でも理解できるように、物理ではグラフや比例関係、経験則に基づく数式などを使って表現されています。
しかし、微積の道具を使うと、物理の見通しがグッと良くなる場面もたくさんあります。物理が“ただの公式暗記”になってしまう原因の一つは、「なぜその式になるのか」が見えにくいことにあるかもしれません。微積を使うと、物理の背後にある変化の仕組みが明快に立ち上がってくるのです。
今回はその一例として、「放射性崩壊」と「半減期」の関係を、微積の視点から見ていきます。
放射性崩壊と微分方程式
放射性崩壊の基本的な考え方は、「原子核の数は時間に応じて減っていく」というものです。これを数学的に表現すると、
dN/dt = -kN
(kは崩壊定数)
この方程式を解くと、次のような指数関数の形になります:
N(t) = N₀ × e^(−kt)
ある時刻の数N=はじめの数N0×ネイピア数e^(−崩壊定数k×ある時間t)
この式は、ある時刻tにおける放射性原子の数Nを、初期の数N₀と崩壊定数kから求めることができるというものです。
高校物理で登場する“半減期”との関係
ところがこの式、高校物理の教科書には出てきません。高校では、「半減期T」という時間の単位を使って次のように表現されます。
半減期Tごとに、原子核の数は半分になる
指数関数eと、1/2の累乗の形。この2つの式は同じものを表しています。ではどうやってつながっているのでしょうか?なお半減期Tとは、元の数の半分になるまでの時間で、例えば半減期の時間がたつと、どんどん1/2倍になっていきます。
よって上の式のようになります。式①のk(崩壊定数)を使った式で表現するよりも、半減期を使ったほうがわかりやすい、イメージしやすいため、この半減期Tはよく使われています。
2つの式の橋渡し:kとTの関係
先ほどの微積で導いた式と、半減期の式を見比べてみましょう。
微積バージョン:
N = N₀ × e^(−kt)
半減期バージョン:
N = N₀ × (1/2)^(t/T)
同じNを表しているのだから、右辺が一致するはずです。
つまり、
※ ここでlogの底はe
log2=0.693より、
理科教師として知っておきたいこと
高校物理では、この半減期の式を知っていれば問題を解くことはできるのですが、半減期ぴったりではない時間を問われた場合には、どうしても対数の知識が必要になってきます。
また「崩壊定数k」と「半減期T」がまったく別の表現方法でありながら、同じ現象を描いていることが明確にわかります。中学校理科の中では、微積分を使うことはありませんが、「指数関数的に減る」「半分になる時間が一定」といった現象のイメージは、生徒の段階でも伝えることができます。
おわりに
高校物理を微積の視点で見直すと、バラバラだった公式が“一本の筋”でつながっていることに気づきます。放射性崩壊と半減期の関係はその代表例。
今後も、理科の先生向けに、微積と高校物理を結ぶ「なるほど!」な内容をシリーズでお届けしていきます。ご関心あれば、続編もお楽しみに!
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