【キッチン科学】マドラーが魔法の杖に?上下だけが入れ替わる不思議なレンズの秘密
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
皆さんのご自宅のキッチンやデスクに、ガラス製のマドラーや透明なペンなどは眠っていませんか?一見ただの棒に見えるそれらは、実は世界をひっくり返す魔法の杖かもしれません。理科の授業でレンズの仕組みを学ぶとき、私たちはよくカメラの構造を例に出します。しかし、もっと私たちの生活に寄り添っているレンズは、雨上がりの葉っぱの上で宝石のように輝くまん丸な水滴や、お祭りの屋台で見つけたビー玉の中に隠れています。
水滴越しに葉っぱを覗くと葉脈がダイナミックに広がって見えたり、ビー玉越しに自分の指を見ると指紋が迷路のように巨大化して見えたりしますよね。こうした「身近な発見」こそが科学の入り口です。生徒たちに話をしても、カメラの精密な図面より「水滴で指紋が大きく見えた!」という実体験の方が、ずっと目を輝かせて「先生、見えました!」と報告してくれます。
今日はそんな、学校の理科室や家庭のキッチンにあるガラス棒(またはガラスのマドラー)が持つ、不思議なレンズの力について探究していきましょう。
科学のレシピ:世界を反転させる実験
用意するもの:ガラス棒(または透明な円柱形のマドラー)、上下を反転させて印刷した文字
実験方法と驚きの結果
まずは、次のような矢印や文字を準備して、その上にガラス棒を置いてみましょう。普通のレンズとは少し違う、面白い現象が起こります。

まずは、4方向を向いた矢印の上にガラス棒を横向きに置いてみます。すると、どう見えるでしょうか?

ご覧ください。もともと「上、下、右、左」を向いていた矢印のうち、向きが変わったのはどこでしょう?そうです、下、上、右、左というように、上下の向きだけが入れ替わったのです。左右の向きはそのままなのに、上下だけがひっくり返る。これが円柱形をしたレンズの仕業です。
次に、一見すると読み取れない「変な文字」の上に置いてみます。

文字はどうなるかな?
不思議なことに、バラバラに見えていた線が重なり、はっきりと文字として読み取れるようになりました。あらかじめ「上下反転」させて書いた文字が、ガラス棒のレンズ効果で再び反転し、私たちの目には正しく映るようになったのです。単に逆さまにするのではなく、鏡文字とは違う「上下の入れ替え」がポイント。視覚のトリックを解き明かすような快感がありますね。
焦点が生み出す「拡大」の魔法
さらに面白いのはここからです。ガラス棒を紙にぴったりと貼り付けるように密着させてみると、見え方が一変します。

写真では少し分かりにくいかもしれませんので、ぜひ動画でその滑らかな変化をご覧ください。
お分かりいただけたでしょうか?ガラス棒を紙に近づけると、文字はひっくり返ることなく、ただ大きく拡大されて見えています。これは、文字がガラス棒の焦点(光が集まる点)の内側に入ったためです。このとき、私たちの目には「実像」ではなく、虫眼鏡と同じ虚像が見えている状態になります。
身近にあるガラスの棒一本で、光の屈折や焦点の仕組みをこれほどダイナミックに体感できるなんて、素敵だと思いませんか?「なぜ?」と考え、実際に試してみることで、世界の見え方は少しずつ変わっていきます。ぜひ皆さんも、キッチンにあるマドラーを手に取って、秘密のメッセージを解読してみてください。ちなみに、反転文字を作る際は、Windowsの「ペイント」などのソフトで文字を書き、「上下反転」の機能を使うと簡単に作成できますよ!
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