ただ挟むだけで電気が生まれる!ハンバーガー式ボルタ電池と酸化還元のドラマ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
数滴の液体を垂らすだけで、止まっていたプロペラが勢いよく回り出す――。まるで魔法のような瞬間ですが、これは18世紀末にイタリアの物理学者アレッサンドロ・ボルタが発見した、人類の歴史を大きく変えた「電池」の仕組みそのものです。今回は、SEPUP研究会で実施した「ボルタ電池」の実験を通して、金属と液体が織りなす不思議なエネルギーのドラマをご紹介します。
世界初の電池を再現!「ハンバーガー型」ボルタ電池
今回の実験では、特別な装置は使いません。主役は、銅板と亜鉛板、そして液体を染み込ませるためのろ紙です。このシンプルな材料で、驚くほど簡単に電気を作ることができます。使用したのは、ナリカさんから販売されている実験セットです。
このように綺麗にカットされた金属板を用意します。
実験の方法はとてもユニークです。銅板、ろ紙、亜鉛板を順番に重ねて、まるでハンバーガーのような形にします。そこに、10パーセントに薄めた塩酸をピペットで数滴たらすと……。
ご覧の通り、モーターにつながれたプロペラがくるくると回り始めました!
ボルタ電池が抱える「分極」という弱点
プロペラは回りましたが、実はこの「ボルタ電池」には大きな弱点があります。回り始めてしばらくすると、プロペラの回転がだんだんと弱まってしまうのです。この時の電圧を測ってみると、0.8V程度。その理由は、銅板の表面をよく観察するとわかります。ジュワジュワと水素の泡が発生し、それが銅板を包み込んでしまっているのです。これを分極と呼び、発生した水素が電気の流れを邪魔してしまうことで、電池としての寿命がすぐに尽きてしまいます。現代でよく使われる「ダニエル電池」などは、この分極を防ぐ工夫がされていますが、むき出しのボルタ電池では避けて通れない限界なのです。
あえて銅板を「焦がす」?驚きのパワーアップ術
ここからが理科実験の面白いところです。一度止まりかけたプロペラを、ある「ひと手間」で劇的に復活させることができます。その方法とは、銅板をガスバーナーなどで一度炙り、表面に「酸化被膜」を作ることです。
真っ黒に焦げたような銅板を使って再び実験を行うと、なんとプロペラが先ほどよりも勢いよく回り出しました!起電力も1.1V程度まで跳ね上がります。
なぜ、表面を汚したはずの銅板の方がパワーが出るのでしょうか?実は、表面の酸化銅が電子を受け取る役割を助けてくれるからです。
\[\text{(正極):} \text{Cu}_2\text{O} + 2\text{H}^+ + 2\text{e}^- \rightarrow 2\text{Cu} + \text{H}_2\text{O}\]
この反応によって水素の発生が抑えられ、電圧がブーストされるのです。しばらくしてまた電圧が下がった頃に銅板を取り出すと、表面の黒い酸化銅は消え、またピカピカの銅に戻っています。目に見える変化として「反応が終わった」ことがわかるのも、この実験の魅力です。
失敗と工夫から学ぶ科学の歴史
ボルタ電池は、現代の電池に比べれば決して高性能ではありません。しかし、「異なる種類の金属を組み合わせれば電気が取り出せる」という大発見を、自分たちの手で体験できる素晴らしい教材です。銅板が単なる電極ではなく、水素発生の触媒としての役割も持っているなど、掘り下げれば掘り下げるほど奥が深い世界が広がっています。複雑で気まぐれなボルタ電池ですが、だからこそ「どうすればもっと長く回るだろう?」と考えるきっかけを私たちに与えてくれます。電池の歴史の第一歩を、ぜひ皆さんもその目で確かめてみてください。
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