「熱い!」だけじゃ伝わらない? 科学の視点「定性的・定量的」で世界を見直そう

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「今日は暑いですね」という会話と、「今の気温は35度です」という報告。 どちらも同じ状況を伝えていますが、理科の世界では、この2つの捉え方にはとても大きな違いがあります。今日は、科学的な視点を養うための、ある大切な「2つの言葉」についてお話しします。

「どんな感じ?」と「どれくらい?」の違い

理科の授業で、性質の変化に着目して現象をとらえることを「定性的(ていせいてき)」といいます。例えば、小学校の理科や中学校で習う「電磁誘導」の実験を思い出してみてください。「コイルに磁石を近づけたら、検流計の針が振れた(電流が流れた)」という結果。これは、「電流が流れるか、流れないか」という性質の変化に注目していますよね。これが定性的な捉え方です。

一方で、「どれくらいの大きさなのか?」というように「量」に着目して現象をとらえることを「定量的(ていりょうてき)」といいます。

「針が振れた」だけでなく、「どのくらいの強さの電流が流れたのか?」を数値でハッキリさせること。これが定量的な捉え方です。高校の物理では、小中学校で「定性的」に学んだ現象を、数式を使って「定量的」に捉え直していく作業が多くなります。ここが、理科が少し難しく、けれど面白くなる分岐点なのです。

温度計から学ぶ「較正(こうせい)」の物語

この「定性的」と「定量的」の違いについて、物理学者の多田将先生が著書『放射線についてかんがえよう』の中で、非常にわかりやすい例え話をされていました。それは、温度計の「較正(こうせい)」についてのお話です。

昔ながらのアナログな温度計を想像してみてください。赤いアルコールが入ったガラス棒が、目盛りのついた木の板に固定されていますよね。ここから、木の目盛り板を外して、アルコールの入ったガラス棒だけを取り出したとします。

さて、気温が上がるとどうなるでしょうか? ガラス棒の中の液体は膨張して、液面はぐーっと上がっていきます。液面の高さが変わる様子は目で見ることができます。これは「熱で液体が膨張する」という性質(定性的)の変化は見えている状態です。

しかし、ここで問題が起きます。 「で、今は実際何度なの?」 と聞かれても、目盛りがないので答えられません。つまり、量(定量的)がわからないのです。

「いかほどなのか?」を知るための技術

ここで、正確な温度(例えば氷が溶ける0度や、水が沸騰する100度)を基準にして、ガラス棒に正しい目盛りをつけてあげる。この作業を「較正」と呼びます。多田将先生は、「ここに目盛りをつけることが『較正』で、とても大切なことなんだ。値段の高い測定機器は、この較正がよくなされているんだ」と言っていました。

ただ液体が伸び縮みするだけのガラス棒(定性的)が、較正という工程を経ることで、初めて「信頼できる温度計(定量的)」に生まれ変わるのです。私たちが普段、「今日は35度だ」と数値で語れる裏側には、科学者たちのこうした丁寧な「較正」の積み重ねがあるんですね。

高校物理への招待状

とてもわかりやすく、感動的なお話だと思いませんか? このお話は、まさに高校物理の導入にぴったりだと感じています。「なんかすごい!」で終わらせるのが定性的な世界だとしたら、「それがいかほどなのか?」を突き詰めて、誰にでもわかる共通言語(数値)にするのが定量的な世界、つまり高校物理の世界です。

身の回りの現象を見た時に、「これは定性的にはどういうことだろう?」「定量的に測るとしたらどうすればいいだろう?」そんな視点を持ってみると、いつもの景色が少し科学的に見えてくるかもしれません。

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