教科書を超えた1時間。名師・小森栄治先生の「実験準備」に隠された秘訣
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「理科の実験室」と聞くと、皆さんはどんな情熱が渦巻いている場所を想像しますか? 実は、授業が始まる数時間前から、そこでは教科書には載っていない「最高の1回」を作るための、科学者たちの熱いドラマが繰り広げられているのです。
先週、ナリカサイエンスアカデミー(NSA)という理科教育のワークショップに参加したときのこと。準備のために1時間早く会場へ入ると、そこには理科教育の大家、小森栄治先生が一人黙々と実験の仕込みをされている姿がありました。
美しき青い化学。進化した「ダニエル電池」との出会い
挨拶を交わし、先生の隣で私も準備を始めたのですが、どうしても先生の手元にある装置から目が離せませんでした。それは、中学3年生の化学で学習するダニエル電池でした。ダニエル電池といえば、1836年にイギリスのジョン・フレデリック・ダニエルが発明した、非常に歴史のある電池です。硫酸亜鉛水溶液と硫酸銅水溶液という2種類の液体を使い、その間を「仕切り」で分けるのが最大の特徴です。
先生が作っていたその電池は、硫酸銅の透き通った青色が本当に美しく、見惚れてしまうほどでした。驚いたのはその「仕切り」です。通常は「素焼きの板」を使うのですが、小森先生はビスキングチューブ(浸透圧実験用セルローズチューブ)という、非常に薄い膜を活用されていました。これにより、装置全体の小型化、軽量化に成功していたのです。モーターがくるくると回っていました。起電力は小さいようです。
この工夫の素晴らしいところは、単に小さくなっただけではありません。使う薬品の量が劇的に減るため、実験後の廃液も少なくなって環境に優しく、生徒たちが自分たちの机で実験するのにも最適なのです。
「タピオカストロー」が科学を救う? 試行錯誤の現場
実験中、先生が「このチューブを広げるには、割り箸よりタピオカストローのほうが良いのではないか」と独り言のように呟きながら、何度も道具を入れ替えて試されている様子が印象的でした。
科学の進歩とは、こうした「身近な道具の使いこなし」から生まれるものです。私もこれまで、どうすれば実験が分かりやすくなるか、生徒の気持ちになって考えてきました。その過程で、小型ペットボトルロケットや、アルミ箔を使ったファラデーモーターなどが誕生しました。
どんなに知識が豊富な先生でも、常に「もっと楽しく、もっと簡単に」と手を動かし続け、試行錯誤を楽しんでいる。小森先生の若々しさの秘密は、この終わりのない好奇心にあるのだと確信しました。
炎を操る魔法の裏側にあるもの
翌日、会場を覗くと、ちょうど小森先生が「炎」の実験を披露されていました。それは、試験管を手で温めるだけで炎の大きさを調節できるという、まるで手品のような実験です。

観客から歓声が上がるその華やかな瞬間の裏側には、前日に私が見たような「あーでもない、こーでもない」という地道な準備と膨大な時間が隠されています。「当たり前」に見える実験結果のひとつひとつに、誰かの試行錯誤の物語が詰まっている。そう思うと、教科書の一ページが少し違って見えてきませんか? 私も日々精進し、皆さんをワクワクさせるような科学の驚きを届けていきたいと思います。
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