風船がカイロに!?伸ばすと温かく、縮むと冷たい「ゴムと熱」の不思議な関係
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
風船をただ「びよーん」と伸ばすだけで、まるでカイロのように温かくなる。逆に、伸ばした状態から力を抜いて縮めると、ひんやりと冷たくなる…。こんな不思議な現象を、ご自分の「ほっぺた」で感じたことはありますか?実はこれ、用意するものは風船1個だけ。ご家庭で今すぐにでも試せる、アッと驚く科学実験なんです。
先日、大学の「熱力学(ねつりきがく)」の授業でこの実験を行ったのですが、大人でも「おー!」と声が上がるほど面白いものでした。今日は、その不思議な「ゴムと熱」の関係をご紹介します。
科学のレシピ(風船で温度を感じてみよう)
用意するもの: 風船(100円ショップのもので十分です!)
まずは、一番シンプルな方法から試してみましょう。
方法①(伸ばして、縮める):
① 膨らませていない風船を、まずはリラックスさせた状態でほっぺた(や唇など、皮膚の敏感な部分)にあてて、温度を確認します。
② 次に、ほっぺたにあてたまま、両手で風船を勢いよく「びよーん!」と引っ張ります。

③ 今度は、引っ張った状態の風船をほっぺたにあてながら、力を抜いて「だらーん」と元に戻します。

結果: どうでしたか? ②で引っ張った時は風船が温かくなり、③で元に戻した時は冷たく感じたはずです!
もっと分かりやすい!膨らませる方法
この方法でも十分わかりますが、もっとダイナミックに温度変化を感じたいなら、風船を膨らませる方法がおすすめです。ぜひ、ご家族やお友達のほっぺたを借りてみてください。
方法②(膨らませて、しぼませる):
① 膨らませる前の風船を、お子さんや家族のほっぺたにあてます。

② ほっぺたにあてたまま、勢いよく「ふーっ!」と風船を膨らませます。

③ 膨らんだ風船に触れているほっぺたが、どう感じたか聞いてみましょう。(「温かい!」というはずです)
④ 次に、膨らんだ風船をほっぺたにあてたまま、中の空気を「シューッ」と抜いていきます。

⑤ しぼんでいく風船に触れているほっぺたの感覚を聞いてみましょう。
結果: 今度はどうでしょう? ②では温かく、④では驚くくらい冷たく感じたはずです。これは本当にインパクトがあるので、ぜひ試してみてください。
なぜ? ゴム分子たちの「おしくらまんじゅう」
原理はどちらも同じです。実験はこんなに手軽なのに、実は「熱力学」の「断熱変化(だんねつへんか)」という、高校物理レベルのちょっぴり難しい内容と関係しています。でも、風船の中の「ゴム分子」くんたちの気持ちになって考えると、イメージが湧きやすくなりますよ。
風船のゴムは、目には見えませんが、たくさんの「ゴム分子」が鎖(くさり)のようになって、自由に動き回っている状態(だらーんとした状態)です。
▼風船を伸ばす時(=温かくなる理由) 私たちが風船を「びよーん!」と無理やり引っ張ると、今まで自由に動き回っていたゴム分子くんたちは、強制的に「整列」させられることになります。 これは、例えるなら「広い公園で遊んでいたのに、急に狭い教室に押し込められて『おしくらまんじゅう』させられる」ような状態です。 窮屈(きゅうくつ)になったゴム分子たちは、その「ストレス」や「動きのエネルギー」を、「熱」として外に放出します。だから、風船は温かくなるのです。
▼風船を縮める時(=冷たくなる理由) 逆に、引っ張られて整列していた状態から、私たちが力を抜いて元に戻すと、ゴム分子くんたちは「解放」されます。 「やったー!また自由に動けるぞ!」と、ゴム分子たちは再び活発に動き出すために、周りからエネルギー(熱)を吸収します。 この時、どこから熱を奪うかというと…そう、触れている私たちの「ほっぺた」からです。熱を奪われたほっぺたは、「冷たい!」と感じるわけです。
「体感」することが科学の第一歩
この現象、実は自転車に空気を入れるとポンプが熱くなる(空気を無理やり押し込める=温かくなる)のとも近い関係があります。もっと詳しく知りたい方や、ゴム分子の動きについて専門的に知りたい方は、以下のページも参考になります。 http://tsukuba-ibk.com/omosiro/2009/05/post-41.html
このように、現象は面白いのに原理の説明が少し難しいことは、科学の世界ではよくあります。 でも、まずは「あれ?」「不思議だな!」と肌感覚で体感してみることこそが、科学を楽しむ一番の入り口ですよね。
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