数式なしでここまでわかる!高校生にこそ読んでほしい「交流のしくみ」(ブルーバックス)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

私たちの生活になくてはならない「電気」。コンセントの向こう側で、電気がどのように揺れ動き、送られてくるのか、その正しくダイナミックな姿をイメージできる人は意外と少ないのではないでしょうか?今回は、そんな目に見えない電気の世界を、驚くほど直感的に理解させてくれる一冊をご紹介します。

ブルーバックスの「交流のしくみ」を読みました。

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交流のしくみ 三相交流からパワーエレクトロニクスまで」 (ブルーバックス)

数式を捨てて「イメージ」で勝負する驚きのアプローチ

交流(AC)について書かれた専門書は世の中にたくさんあります。しかし、ここまで徹底して数式を使わず、文字と絵だけで交流を説明しつくすという作業には驚きを隠せません。

物理といえば、どうしても難解な数式の羅列を思い浮かべて身構えてしまう方も多いはずです。しかしこの本は、作りが非常に丁寧です。冒頭では、私たちが乾電池などで親しんでいる「直流」と、コンセントに来ている「交流」の違いから話が始まります。

特に素晴らしいのが「電力」や「実効値」についての説明です。 高校の教科書では「最大値のルート2分の1」と数式で暗記しがちな実効値ですが、本書では「直流と同じ仕事をするならどのくらいの値になるか?」という本質的な視点から語られています。直流を基準にして交流の値が決められているという事実は、教科書よりも簡潔で、かつ深く腑に落ちる内容です。

これはまさに、物理に躓きそうな高校生にこそ読ませたい!一冊です。

波の動きが見えてくる丁寧な図解

交流といえば、上がったり下がったりする波の形(正弦波)が特徴です。 本書では、交流に流れている正弦波の一つ一つが、高校物理に出てくるような分かりやすい絵によって説明されています。

数式は使わずに!

「数式を使えば一行で済むところを、あえて言葉と図で尽くす」。これは著者の方の並々ならぬ苦労と、読者への愛が見える本だな〜と思いました。私自身、教壇に立つ上で「どう表現すれば伝わるか」という点でとっても参考になりました。

高校物理の「その先」にあるエレクトロニクスへ

さらに本書の魅力は、基礎理論だけで終わらないところです。 高校物理ではあまり深く触れられない、その先にある現代技術「パワーエレクトロニクス」についての説明も充実しています。特に、電車などで使われているチョッパ制御のことについても触れられていました。

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こういう内容を見ると、高校物理の交流分野が非常に中途半端なところで終わってしまっていることに気づき、残念だなと思います。 交流は「電気を送るための技術」から「電気を自在に操る技術」へと進化しています。もう少し踏み込んで説明をすれば、生徒たちを面白い工学の世界へ導けるのに!ともどかしくなります。

思い出の「201系」とチョッパ制御

実は、本書に登場した「チョッパ制御」については、昔深く調べたことがあります。 今はなき、中央線を走っていたオレンジ色の電車、201系の取材をして生徒といっしょに本を出した時のことです。当時の技術者の方から、チョッパ制御や回生ブレーキについていろいろ教えていただいたことがきっかけでした。

チョッパ制御とは、電気を高速で「入れたり切ったり(チョップ)」することで、電圧を調整する技術です。また、回生ブレーキは、ブレーキをかける時にモーターを発電機として使い、エネルギーを回収するエコな仕組みです。

当時、絵の内容、文章、音楽まで、生徒たちと一緒に作りました。教師である私はあくまでサポート役で、ほぼ生徒が作り上げた作品です。ただ、この「目に見えない電気の制御」を生徒へ説明するのは非常に難しかったのを覚えています。

「この本があのときあれば!」

心からそう思います。 高校物理だと、交流の原理などは説明しますが、それが日常生活でどう関わっているのか、交流の良さ、直流の良さなどの「実感できる説明」はあまり見られません。

それが、この本では非常に丁寧に、また薄く広く書かれているので、生徒にとってみたら、単なる暗記が「生きた知識」に変わり、勉強をするモチベーションへと繋がる本だな〜と感じています。

大人も学生も、電気の常識が変わる一冊

本書では、発電所から送られてくる「三相交流」にも触れられていて、身近な物理を感じることができる構成になっています。 単に公式を覚えるのではなく、「なぜそうなっているのか」を知る楽しさ。良い本を買いました!理科や物理が苦手だった大人の方も、これから学ぶ高校生も、ぜひ手にとって見て下さい。

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