1本で10本分!? 安全に「30アンペア級」の磁場を体験できる「パスカル電線」の作り方

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

「電気」と「磁気」。学校の理科で習う、あの「右ねじの法則」や「フレミング左手の法則」を覚えていますか?

教科書ではおなじみですが、いざ実験してみると、方位磁針が「ちょっとだけ」ピクッと振れたり、電線が「かすかに」動いたり…。正直、感動するほどの迫力は体験しにくい、というのが現実でした。なぜなら、電気と磁気の世界は、とても繊細で弱い力だからです。

もし、学校の実験室にある安全な電源装置(数アンペア程度)を使いながら、まるで数十アンペアもの大電流を流したかのような「ド迫力」の電磁気現象を、安全に体験できるとしたら…?今日は、そんな魔法のような実験教具「パスカル電線」の魅力と、その驚くべき「10倍パワー」の秘密にご紹介します!

「電磁気」実験のジレンマ

電気が磁気を生み出す(エルステッドの発見)ことや、磁気の中で電流が力を受ける(フレミングの法則)ことは、現代のモーターや発電機を支える基本原理です。しかし、この力をはっきりと目に見える形にするには、本来「数十アンペア」という、家庭用のブレーカーが落ちてしまうほどの大電流が必要です。学校の実験で使えるのはせいぜい5アンペア程度。これでは電流が弱すぎて、わかりやすい実験が難しいのです。

この長年のジレンマを、驚くべきアイデアで解決したのが「パスカル電線」です。

「パスカル電線(S-cable)」は,エルステッドの大発見から始まるすべての電磁気現象を,安価に容易に安全に手元で体験できる世界唯一の実験教具です。

パスカル電線公式サイトより

秘密は「10本」! 安全に10倍の力を生む仕組み

パスカル電線を使うと、例えば電源装置から5アンペアの電流を流すだけで、まるで「50アンペア」の電流を流したかのような強力な磁場を生み出すことができます。大電流すぎて危ないかな?と思うかもしれませんが、「ようになる」というのがポイントで、実際に流れている電流は5アンペアのまま。だからとっても安全なのです。

「何をいっているのかわからない!」ですよね(笑)。

その秘密は、電線の構造にあります。パスカル電線は、見た目は1本の太い電線ですが、その内部にはなんと「10本」の細い導線が通っているのです。ぼくもさっそく通販で注文をして、コードを買ってきました。パスカル電線作りに使える電線は富士電線工業 VCTF 0.3sq×10芯などでAmazonで買うことができます。

中にはこのように10本の電線が入っています。これを色ごとに組み合わせを変えてはんだ付けしていきます。

この10本の電線を、ハンダ付けでうまくつなぎ合わせ、「(+)から入った電流が、10本の電線を並列に(!)通って(-)から出ていく」ように加工します。※1本の導線を10回往復させるように直列につなぎます。ポイントは「10本分の力を合成する」ことです。

(※追記:正確な構造は公式サイトをご確認ください。重要なのは、10本分の導線に電流が流れることで、それぞれの導線が作る磁場が「重ね合わさる」という点です!)

このようになりました。

1本の電線に3アンペア流した時に生まれる磁場を「1」とすると、パスカル電線は「10本の電線にそれぞれ3アンペア流した」のと同じ状態を、たった1本の太い電線の中で作り出します。だから、磁場(や受ける力)は単純に10倍!「大電流」という力技ではなく、「10本分の力を重ね合わせる」という賢いアイデアで、安全かつ強力な実験を実現しているのです。

「科学の歴史」をド迫力で追体験しよう

このパスカル電線を使うと、教科書の中だけだった実験が、目の前で生き生きとよみがえります。

実験1:電流が作る磁場(エルステッドの実験)

スクリーンショット 2015-12-28 13.56.57

これは導線のまわりにできた磁場の様子です。電源装置から流した電流はたったの3アンペア。しかし、パスカル電線の「10倍パワー」によって、まるで30アンペアの大電流を流したかのように、方位磁針が力強く「グリンッ!」と向きを変えるのがわかります。これなら「電気が磁気を生む」瞬間を、誰もがはっきりと確認できますね。

実験2:電流が磁場から受ける力(フレミング左手の法則)

スクリーンショット 2015-12-28 13.57.10

スクリーンショット 2015-12-28 13.57.27

これはフレミング左手の法則の実験風景です。パスカル電線をぶらんと垂らし、U字型磁石の間に通します。電流を流す(スイッチを入れる)瞬間…

スクリーンショット 2015-12-28 13.58.18

電線が「ビクンッ!」と、目に見えて大きく振れるのがわかります。「力(ちから)」を、まさに「体感」できる瞬間です。これぞモーターの原型ですね。このように、パスカル電線は「電気」と「磁気」という、目に見えない世界の不思議を、安全かつダイナミックに体験させてくれる素晴らしい教材です。

お問い合わせ・ご依頼について

科学の不思議やおもしろさをもっと身近に!自宅でできる楽しい科学実験や、そのコツをわかりやすくまとめています。いろいろ検索してみてください!
・科学のネタ帳の内容が本になりました。詳しくはこちら
・運営者の桑子研についてはこちら
・各種ご依頼(執筆・講演・実験教室・TV監修・出演など)はこちら
・記事の更新情報はXで配信中

科学のネタチャンネルでは実験動画を配信中!