空の上で見つけた、日本と北欧の大きな違い ~JALとフィンエアーに学ぶ「働き方」と「教育」のヒント~
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
空の旅は、私たちを目的地へ運んでくれるだけでなく、時としてその国の「文化」や「価値観」そのものを見せてくれることがあります。数年前にノーベル賞の国スウェーデンを訪れたのですが、僕が最も心を動かされたのは、歴史的な建物ではなく、日本とスウェーデンを結ぶ、二つの航空会社の飛行機の中での出来事でした。そこには、サービスの質、働き方、そして社会全体のデザインに関する、大きな違いが隠されていたのです。
フィンエアーの「自然体」という心地よさ
行きに乗ったのはフィンランド航空、フィンエアー。運良く、機体はフィンランドを代表するデザインブランド、マリメッコの飛行機! これには思わず興奮してしまいました。
客室乗務員の方々の様子を見ていると、少しゆったりとした、まさにマリメッコデザインのような、かろやかな服装でした。そして何より印象的だったのは、その働きぶりです。一言でいえば、「自然体で無理をしていない」感じ。サービスに問題は全くなく、食後にコーヒーやお茶を配ってくれるなど、必要にして十分。こちらもリラックスして空の旅を楽しむことができました。
食事も日本人向けで、快適そのもの。そこには、「頑張りすぎない」けれど、乗客が快適に過ごすための本質は外さない、という心地よい空気が流れていました。

JALの「完璧」と、その裏にあるもの
帰りに乗ったJALの飛行機は、最新型。座席間隔は広く、窓は電気制御のカーテン、エンタメ画面も最新式と、技術の粋を集めた素晴らしい機体でした。しかし、最も大きな違いは、やはり客室乗務員の方々の様子でした。
体にフィットしたスタイリッシュな制服、ピン一本の乱れもない髪型。まるで新体操やシンクロナイズドスイミングの選手のような、洗練された緊張感が漂います。そのサービスはまさに完璧。驚くほどテキパキとしています。
飲み物の種類も、温かいコーヒー、冷たいコーヒー、お味噌汁、紅茶、温かいお茶、冷たいお茶…と何度も往復し、あらゆるニーズに応えようとしてくれます。食事も品数が多く、机に乗り切らないほど。もちろん美味しく、大満足なのですが、フィンエアーの「自然体」を体験した後だと、少し「過剰なサービス」にも見えてしまいました。
人間の脳は、複数の作業を同時に行う「マルチタスク」が苦手であることが科学的に知られています。常に多くの選択肢を提示し、様々な要求に応えようとすることは、脳に大きな負荷をかけ、心身を疲弊させてしまいます。完璧なサービスの裏で、仕事終わりにはぐったり疲れてしまうのではないか…と、少し心配になってしまったのです。
社会全体に流れる「本質」を大切にする思想
この「働き方」の違いは、地上に降りても感じられました。北欧の街では、9割の人がスニーカーを履いていて、ハイヒール姿の人はほとんど見かけません。服装も自然体で、皆それぞれに似合っています。
そして、日本よりも明らかに車いすの方を多く見かけました。電車や路面電車には広い専用スペースがあり、そこに車いすの方、自転車を運び込む若者、ベビーカーを押す親子など、様々な人が自然に乗り込んでいきます。駅のポスターには、車いすのイラストと共にこう書かれていました。
「旅はすべての人の権利である」
この言葉に、ハッとさせられました。日本では、様々なケアやサービスが細かく用意されていますが、本当に必要な人に届ききっていない部分もあるかもしれません。北欧では、社会全体で「誰一人取り残さない」という本質的な部分を、がっちりと掴んでケアしているように感じたのです。
教育先進国フィンランドから日本が学べること
この旅を通して、僕は学校の教員としてずっと疑問だったことのヒントを得た気がします。
なぜ、フィンランドなどの北欧の国々は、教員の労働時間が短いのに、PISA(学習到達度調査)で常に世界トップクラスの結果を出し続けるのか。逆に、なぜ日本は、世界トップクラスの長時間労働なのに、成果がそこまで伴わないのか。
それは、フィンランドが「教育の本質」をしっかりと見極め、そこにエネルギーを集中させているからではないでしょうか。対して日本では、「あれもこれもやらなければ」と、たくさんのタスクに追われ、本当に大切なことを見失いがちになっているのかもしれません。理念や哲学がないまま、ただただ作業に追われ、先生たちがヘトヘトになってしまっている…そんな構図が、JALの飛行機の中の光景と重なって見えたのです。
もちろん、旅を通して日本の豊かさやサービスの素晴らしさも再認識しました。しかし、これからの時代に本当に大切なのは、完璧を目指して疲弊することではなく、自然体で、本質的な価値を見極めていくことなのかもしれません。この旅は、僕にそんな大切な問いを投げかけてくれました。
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