物理で未来予知?たった1つの公式でわかる「等加速度運動」のすごい世界

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

もし、未来や過去のことがわかる「魔法の呪文」があるとしたら、知りたくありませんか?実は、それにとてもよく似たものが、高校の物理の教科書に載っているんです。それは一見すると、ただの長くて難しそうな数式。でも、その本当の姿は、ボールの落下から潜水艦の航行まで、あらゆる物体の動きをピタリと予測できてしまう、超強力なツールなのです。今回は、そんな物理の世界の「魔法の呪文」、等加速度運動の公式の秘密を一緒に解き明かしていきましょう!

未来と過去を解き明かす

<位置の公式>\[x = \frac{1}{2}at^2 + v_0t + x_0\]

<速度の公式>\[v = at + v_0\]

x:位置 a:加速度 t:時間 v_0:初速度 v:速度

これがその呪文です。高校物理で最初に登場する公式の中でも特に長いため、これを見ただけで「うっ…」と物理が苦手になってしまった人も多いかもしれませんね。でも、安心してください。この公式は、運動の様子をイメージできれば全く怖くありません。たくさんの文字が出てきて混乱しそうですが、物語の登場人物だと思って整理してみましょう。

x (位置): v (速度): 物語の主人公。時間と共に場所や速さが変わります。

t (時間): 物語の舞台装置。時間が進むことで物語が展開します。

a (加速度) : v_0 (初速度): 主人公の初期設定。どんな速さでスタートし、どんな力が加わり続けるかを決める重要なパラメータです。

つまり、この2つの公式が言っているのは、「時間(t)が経つと、物体の位置(x)や速度(v)がどう変化するのか」という、とてもシンプルなことなのです。例えば、マンションのベランダからボールをそっと落とす場面を想像してください。地球上では、物体は重力によって9.8 {m/s^2}という一定の加速度で落下します。この値を a に、「そっと手を離した」ので初速度 v_0 には0を代入してみましょう。

この式の時間 t に「1秒後、2秒後…」と未来の時間を代入すれば、その瞬間の落下距離がピタリと予測できます。

t=0[s] のとき x=0[m]

t=1[s] のとき x=4.9[m]

t=2[s] のとき x=19.6[m]

t=3[s] のとき x=44.1[m]

逆に、ボールが地面に落ちるまでの時間を測れば、この式を使ってベランダの高さを知ることもできます。まさに、未来も過去もわかる便利な式ですね!

公式は作れる!グラフで見る運動の世界

ところで、こんなに便利な公式は、一体どうやって作られたのでしょうか?その秘密は、「v-tグラフ」という、速度と時間の関係を表すグラフに隠されています。

台車を坂道で走らせる実験を想像してみてください。坂道ではどんどんスピードが上がり(等加速度運動)、平らな道では同じ速さで進み続けます(等速直線運動)。この様子をグラフにすると、次のようになります。

科学者たちは、このグラフを眺めているうちに、驚くべき法則を発見しました。なんと、グラフと横軸で囲まれた部分の「面積」が、物体が移動した「距離」と全く同じになるのです!

この発見を使えば、公式を自分たちの手で作り出すことができます。

例えば、速度0からスタートして、一定の加速度 a で加速していく運動を考えましょう。t 秒後の速度は at になるので、グラフはシンプルな三角形になります。

三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」ですから、移動距離 x は…

\[x = t \times at \times \frac{1}{2} = \frac{1}{2}at^2\]

見覚えのある形が出てきましたね!では、初めに速さ v_0 を持っていた場合はどうでしょう?今度はグラフが台形になります。この面積は、下の長方形と上の三角形に分けて計算できます。

x = (三角形の面積) + (長方形の面積)

\[x = \frac{1}{2}at^2 + v_0t\]

これで、あの長かった「位置の公式」が完成しました!公式はただ暗記するものではなく、具体的なイメージから導き出せる、ということがわかると、物理は一気に面白くなりますよ。

公式で世界をのぞいてみよう!

この公式は、私たちの身の回りの様々な現象や、最先端の技術にも応用されています。

■潜水艦は目隠しで海を進む?

GPSの電波が届かない海の奥深く。潜水艦はどうやって自分の位置を知るのでしょうか?ここで活躍するのが、加速度を測る「加速度計」です。測った加速度 a をもとに速度 v を計算し、v-tグラフの面積から移動距離 x を割り出す…まさに、等加速度運動の公式をリアルタイムで使い続けているのです。この「慣性航法」という技術は、宇宙船などにも使われる、まさに最先端の知恵なのです。

■雨粒が凶器にならないのはナゼ?

もし空気がなかったら、上空1kmから降ってくる雨粒は、地上に着く頃には時速500kmを超える弾丸のようなスピードになります。計算してみましょう。

まず、落下時間を求めます。
約14秒で落下してきます。次に、その時の速度を計算すると…
秒速140m、これは新幹線よりもずっと速いスピードです!

しかし、現実にはそうなっていません。それは、私たちを包む「空気抵抗」が存在するからです。空気の粒がブレーキをかけることで、雨粒のスピードは安全な速さに保たれています。空気は、私たち生物を宇宙からの小さな隕石や、高速の雨粒から守ってくれる、見えないバリアの役割も果たしてくれているのですね。

【科学監修】泥団子は凶器になる?10階からの落下を科学で検証!フジテレビ「サン!シャイン」(フジテレビ)

物理の世界の共通言語「単位」

最後に、物理の世界で欠かせないルール、「単位」についてお話しします。

速度の m/s(メートル毎秒)や加速度の m/s2(メートル毎秒毎秒)など、物理では様々な単位が出てきます。これらは**「国際単位系(SI)」**とよばれる世界共通のルールで、世界中の科学者が同じ土俵で話すための大切な言語です。

ところで、なぜ加速度の単位は秒が2乗(s2)になっているのでしょうか?

それは、加速度が「1秒あたりに、どれだけ速度が変化するか」を表す量だからです。「速度(m/s)」の変化量を、さらに「時間(s)」で割るので、

(m/s) ÷ s = m/s2

となるわけです。

物理の世界では、この「単位」を意識することが非常に重要です。単位が違うもの同士は足し算ができない(例:1cm + 2kg は意味不明)など、単位は計算の正しさをチェックする道しるべにもなってくれます。公式を正しく使いこなし、身の回りの世界の謎を解き明かすために、ぜひこの「単位」という言語にも親しんでみてくださいね。

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