お寿司のように可愛いアオマツムシ!秋の音楽家マツムシの飼い方とロマンチックな生態

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

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秋の夜、窓を開けるとどこからか聞こえてくる虫たちのオーケストラ。「リンリン…」「ガチャガチャ…」そして、どこか懐かしい「チンチロチン…」。この美しいコーラスの中でも、ひときわ澄んだ音色を奏でる小さな音楽家のことを、皆さんはご存知でしょうか?先日、生徒のTくんが「先生、これ!」と、つがいのアオマツムシをプレゼントしてくれました。その姿をまじまじと見たのは初めてでしたが、今回はこの小さな命が奏でる、奥深くロマンチックな世界へと皆さんをご案内します。

「お寿司」みたいな小さな音楽家?

マツムシという名前は、その姿が松ぼっくりに似ていることから名付けられたと言われています。でも、生徒のTくんと話していると、「なんだかお寿司みたいじゃないですか?」と面白い意見が。確かに、褐色で少し丸みを帯びた細長い体はシャリ、ちょこんと乗った頭はネタのようにも見えてきて、なんとも愛嬌があります。一見すると地味なコオロギの仲間に見えますが、その小さな体には、日本の秋を彩ってきた大きな魅力が詰まっているのです。

街路樹のシンガー、アオマツムシの意外な生態

アオマツムシの生態について、Tくんから詳しく教えてもらいました

都会の夜を彩るシンガー

アオマツムシは、6月頃に孵化し、8月から11月にかけて成虫になります。彼らの主な生息地は、その名の通り街路樹。特に活動が活発になるのは、日没後1時間ほど経ってからです。

彼らの鳴き声は、「リーリーリー」という非常に大きく澄んだ音で、夜の静寂によく響きます。興味深いのは、鳴き方に性別と状況による違いがあることです。

  • オスは、基本的に日没後の夜間に鳴き始めます。
  • メスが近づくと、夜だけでなく昼間でも鳴き始めます。ただし、昼は鳴かずに背中にあるフェロモンを出す器官(匂い腺など)を使っているのか、羽を煽るような行動が見られます。

好きなものはいちばん?意外な食性

アオマツムシの食性は雑食で、葉っぱから虫の死骸まで、ほとんど何でも食べます。しかし、彼らが特に好む食べ物があります。それはなんとサクラの葉。植物の中では、サクラの葉を最も好んで食べることが知られています。

成長の証と、鳴き声の魅力

幼虫の姿は、成長段階によって大きく変化します。

  • 幼虫はだいたい3齢くらいまでは茶色
  • その後、脱皮を重ねて鮮やかな緑色に変わります。

脱皮した後の抜け殻は、食べずにそのままにしておくようです。

アオマツムシの鳴き声は非常に大きく、秋の夜に公園に行けば「嫌になるほど」聞こえてくることがあります。

意外と新しい!?生息の記録

アオマツムシの生息地は九州から岩手県南部までと広範囲にわたります。日本での最初の観察記録は、正確には1880年か1900年のどちらか定かではありませんが、東京の赤坂・榎坂で記録されました。比較的近年に都会で観察され始めた昆虫なのです。夜の散歩でアオマツムシの声を聞いたら、彼らがどこにいるのか、どんな行動をしているのか、少しだけ観察してみてください。都会の日常が、新たな発見で満たされるかもしれません。

昔から愛された、日本の秋の象徴

日本人とマツムシの付き合いは古く、平安時代の貴族は虫かごに入れてその音色を楽しみ、江戸時代には庶民の間でも飼育が流行したほど、深く愛されてきました。その鳴き声は、秋の訪れを告げる風物詩として、数多くの文学や俳句にも詠まれています。マツムシは単なる昆虫ではなく、日本の美しい季節感や文化を形作ってきた、大切な隣人だと言えるでしょう。

聞こえますか?自然からの小さなメッセージ

実は、そんなマツムシは環境の変化にとても繊細で、昔に比べてその姿を見ることは難しくなりました。彼らの美しい鳴き声が聞こえる場所は、それだけ豊かな自然が残っているという証拠でもあります。もしこの秋、草むらの近くを歩く機会があれば、少しだけ足を止めて耳を澄ましてみてください。優しい音色が聞こえてきたら、それはきっと、小さな音楽家が奏でる自然からのメッセージ。そのはかなくも美しいラブソングに、そっと耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

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