お寿司のように可愛いマツムシ!秋の音楽家マツムシの飼い方とロマンチックな生態

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

秋の夜、窓を開けるとどこからか聞こえてくる虫たちのオーケストラ。「リンリン…」「ガチャガチャ…」そして、どこか懐かしい「チンチロチン…」。この美しいコーラスの中でも、ひときわ澄んだ音色を奏でる小さな音楽家のことを、皆さんはご存知でしょうか?先日、生徒のTくんが「先生、これ!」と、つがいのマツムシをプレゼントしてくれました。その姿をまじまじと見たのは初めてでしたが、今回はこの小さな命が奏でる、奥深くロマンチックな世界へと皆さんをご案内します。

「お寿司」みたいな小さな音楽家?

マツムシという名前は、その姿が松ぼっくりに似ていることから名付けられたと言われています。でも、生徒のTくんと話していると、「なんだかお寿司みたいじゃないですか?」と面白い意見が。確かに、褐色で少し丸みを帯びた細長い体はシャリ、ちょこんと乗った頭はネタのようにも見えてきて、なんとも愛嬌があります。一見すると地味なコオロギの仲間に見えますが、その小さな体には、日本の秋を彩ってきた大きな魅力が詰まっているのです。

秋の夜に響く「チンチロチン」の秘密

マツムシの最大の魅力は、何と言ってもその美しい鳴き声です。「チンチロチンチロ…」と表現される、金属的で澄み切った音色は、聞いているだけで心が洗われるようです。この音を聞くと、夏の暑さが和らぎ、秋の涼しい風を感じるという方も多いのではないでしょうか。

では、この美しい音は、一体どうやって生まれるのでしょう?

鳴くのはオスだけ!命がけのラブソング

驚くべきことに、この美しい歌声の持ち主はオスだけです。そして、その歌はたった一人の聴き手、つまりメスのためだけに捧げられます。秋の夜長に聞こえるあの音色は、マツムシのオスが自分の存在を知らせ、愛を伝えるための「命がけのラブソング」なのです。オスのマツムシは、左右の羽をヴァイオリンのように巧みにこすり合わせて音を出します。片方の羽にはギザギザの「やすり」が、もう片方の羽には硬い「ピック」のような部分があり、これを震わせることで、あの高く澄んだ音色を生み出しているのです。

マツムシの飼い方と一生の物語

Tくんから、「お世話するときはサクラの葉っぱが好きですよ」と教えてもらいました。マツムシは雑食で、植物の葉や茎、小さな昆虫の死骸などを食べます。飼育下では、新鮮なサクラの葉や、水分補給のための昆虫ゼリーを入れてあげると元気に過ごしてくれるそうです。彼らの短い一生は、まさに季節の移ろいと共にあります。

春~初夏: 土の中で冬を越した卵から、小さな命が孵化します。

夏: 幼虫は何度も脱皮を繰り返して、静かに成長の時を待ちます。

夏の終わり~秋: 成虫になると、オスたちのラブソングの季節が始まります。無事にメスと出会い、交尾を終えたメスは、土の中に産卵管を差し込んで、次の世代へと命をつなぎます。

秋の終わり: 大切な役目を終えた成虫は、約1〜2ヶ月の短い一生を静かに終えます。

毎年聞こえてくる鳴き声は、こうして繰り返される壮大な命のリレーの証なのです。

昔から愛された、日本の秋の象徴

日本人とマツムシの付き合いは古く、平安時代の貴族は虫かごに入れてその音色を楽しみ、江戸時代には庶民の間でも飼育が流行したほど、深く愛されてきました。その鳴き声は、秋の訪れを告げる風物詩として、数多くの文学や俳句にも詠まれています。マツムシは単なる昆虫ではなく、日本の美しい季節感や文化を形作ってきた、大切な隣人だと言えるでしょう。

聞こえますか?自然からの小さなメッセージ

実は、そんなマツムシは環境の変化にとても繊細で、昔に比べてその姿を見ることは難しくなりました。彼らの美しい鳴き声が聞こえる場所は、それだけ豊かな自然が残っているという証拠でもあります。もしこの秋、草むらの近くを歩く機会があれば、少しだけ足を止めて耳を澄ましてみてください。「チンチロチン…」という優しい音色が聞こえてきたら、それはきっと、小さな音楽家が奏でる自然からのメッセージ。そのはかなくも美しいラブソングに、そっと耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

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