レモンの木は最高の理科の先生!青い果実と鳥のフンに化けるイモムシの秘密
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
お庭でレモンを育ててみませんか?スーパーで買うのとは一味違う、採れたての香りに包まれる生活は、想像するだけでワクワクしますよね。実は我が家でも、そんな夢を叶えるべくリスボンレモンを育てています。
しかし、その道のりは、ただ果実が実るのを待つだけではありませんでした。小さなレモンの木は、まるで理科の実験室のように、植物の化学、昆虫の驚くべき生態、そして生命のたくましさを教えてくれる、最高の先生だったのです。
緑色でも準備万端!青いレモンの科学
我が家のリスボンレモンは、2023年の1月に植えてから約2年、今年の秋にようやく初めての実をつけてくれました。収穫は冬(11月〜1月頃)が本番ですが、9月末の今はまだ青々としています。
「この青いレモン、食べられるの?」と思いますよね。答えは、もちろんYESです!
実は、この青い状態のレモンこそ、香りの主成分である「リモネン」などの精油成分が果皮に最も豊富に含まれています。そのため、お菓子作りや料理の香りづけには最適なのです。レモンの葉が緑色なのはご存知の通り「葉緑素(クロロフィル)」のおかげですが、未熟な果実も同じように光合成を行い、栄養を蓄えています。
ただし、果汁はクエン酸がたっぷりで酸味が非常に強く、渋みを感じることも。11月頃になり、気温が下がってくると、クロロフィルが分解されて美しい黄色に変わります。それと同時に、酸味の角が取れて糖分が増し、まろやかで香り高い、おなじみのレモンの味へと変化していくのです。
絶望からの大復活劇と、招かれざる客の正体
実はこのレモンの木、一度すべての葉を失い、枯れ木寸前になったことがあります。原因は、青虫の大量発生でした。もうダメだと諦めかけたのですが、植物の生命力は凄まじく、再び新芽を吹き、見事に復活してくれたのです。
その犯人である青虫の正体、それはおそらくアゲハチョウの幼虫でした。特に、鳥のフンのような白と黒のまだら模様をしていたら、それは若齢幼虫(生まれて間もない幼虫)である可能性が高いです。
これは「擬態(ぎたい)」と呼ばれる、生き物たちの見事な生存戦略。天敵である鳥は、わざわざ自分のフンを食べたりはしません。そこでアゲハの幼虫は、「私は食べ物ではなく、ただのフンですよ」とアピールすることで、捕食されるリスクを下げているのです。なんとも賢い戦略ですよね。
この幼虫は、脱皮を繰り返して大きくなると、今度は鮮やかな緑色に姿を変えます。これは、鳥のフン作戦が通用しない大きさになったため、レモンの葉と同じ色になることで敵の目から隠れる「隠蔽的擬態(いんぺいてきぎたい)」へと戦略を切り替えた証拠です。
アゲハチョウは、ミカン科の植物に卵を産み付ける習性があります。つまり、彼らにとってレモンの木は、幼虫が育つための大切な食料基地なのです。害虫と言ってしまえばそれまでですが、彼らもまた、美しい蝶になるために必死で生きているのですね。
自家製レモンを最高に美味しく食べるには
レモンの収穫は、まさに科学の知識を活かす最高のチャンスです。あなたの好みに合わせて、最高のタイミングを見つけてみましょう。
キリッとした酸味を楽しむなら: 少し早めに収穫し、フレッシュで刺激的な果汁を炭酸水やドレッシングに。果皮の香りも格別です。
まろやかな味を楽しむなら: 完全に黄色くなるまで待ちましょう。酸味が穏やかになり、果汁もたっぷり。はちみつレモンなどに最適です。
長く日持ちさせたいなら: 少し青みが残るうちに収穫し、新聞紙に包んで涼しい場所へ。ゆっくりと追熟し、色の変化を楽しみながら長く味わえます。
自宅で育てたリスボンレモンは、単なる果物ではありません。それは、日々の成長を見守り、時には虫たちと格闘した、あなただけの物語が詰まった特別な宝物です。ぜひ、最高のタイミングで収穫して、その物語ごとかみしめてみてくださいね。
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