水遁の術やシュノーケル呼吸の限界は「60cm」だった!その意外な理由とは?
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
時代劇や漫画で、忍者が水中に身を潜め、水面から一本の管を出して息をひそめる「水遁の術」。あれを見て、「一体どれくらいの深さまで潜れるんだろう?」とワクワクした経験はありませんか?
実は、あの術には科学的な限界があります。
結論から言うと、人間がシュノーケルのような管を使って呼吸できるのは、水面から約50cm〜60cm程度が限界と言われています。意外と浅いと感じるかもしれませんね。テレビ番組の実験や、身近なもので確かめた実験でも、その限界が明らかになっています。
この物理的な限界には、主に2つの理由が隠されています。
1. 肺と水圧の闘い
水の中では、私たちの体には水圧がかかります。この水圧は、水深が深くなるにつれて強くなります。わずか1m潜っただけでも、胸郭はかなりの圧力を受け、肺を膨らませるのが非常に困難になります。
水面から管を通して息を吸おうとすると、肺の中の圧力は水圧に勝たなければなりません。しかし、人間の横隔膜や呼吸筋の力では、水深50cm程度の水圧に逆らって肺を広げるのがやっと。それ以上深くなると、肺が圧迫されてしまい、外の空気を吸い込むことができなくなってしまうのです。
この原理は、U字型に曲げた長い管に水を入れ、片方をくわえて吸い込む実験で簡単に体感できます。
吸い込むことで管の水面を下げようとしても、呼気の力で変えられる水面の高さはせいぜい50cmほど。吐くことはできても、吸うことはできないというこの物理法則が、水遁の術の限界を決めているのです。
2. 呼吸の「死腔」問題
もう一つの理由は、シュノーケルの管が「死腔(しくう)」を増やすことにあります。私たちの呼吸器系には、鼻や気管など、ガス交換が行われない空間があります。これを「死腔」と呼び、普通の呼吸でも約150ml程度の古い空気がそこに残ります。
シュノーケルの管を長くすると、この死腔が大幅に増えてしまいます。息を吸い込むたびに、残っていた二酸化炭素の多い空気を再び吸い込んでしまうため、体内の二酸化炭素濃度が徐々に高まってしまいます。長く潜れば潜るほど、新鮮な酸素を取り込めなくなり、酸欠のリスクが高まるのです。
これらの科学的な事実から、忍者が「水遁の術」で身を隠すには、せいぜい水深60cmくらいの場所が限度だったと考えられます。あの術が成功するためには、水圧と死腔という物理の壁を乗り越える必要があったんですね。
忍者の神秘的な術も、現代の科学でひも解くと、意外な限界が見えてくる。そう考えると、理科はもっと面白く感じられるはずです。
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