立ち入り禁止だった聖域。手つかずの自然「那須平成の森」が理科教材の宝庫だった!
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
みなさんは、長い間地図には載っていても、一般の人が誰も入ることができなかった「秘密の森」が日本にあることをご存知でしょうか?
先日、私は日光国立公園にある「那須平成の森」へ行ってきました。 ここは、まさにその「秘密の森」。かつては皇室の敷地であり、平成23年(2011年)に一般開放されるまで、手つかずの自然が守られてきた場所です。
ゴルフ場や牧場などの開発を逃れ、本当の自然の姿を残したこの森は、私たち理科教員にとっても、自然を愛するすべての人にとっても、宝箱のような場所でした。今回はその魅力と、森に隠された科学の物語を写真とともにご紹介します。

時が止まっていた森、「那須平成の森」
この森が国立公園として開放されたのは、平成23年のこと。それ以前は「那須御用邸」の一部として、昭和天皇がご静養に使われていた場所であり、宮内庁の厳重な管轄下にありました。
一般の人が立ち入ることができなかったため、森は静かに呼吸を続け、独自の生態系を育んできました。その後、御用邸用地のおよそ半分(560ヘクタール、東京ドーム約120個分!)が環境省へ移管され、ようやく私たちはその「聖域」に足を踏み入れることができるようになったのです。

私は今回が初めての訪問でした。平成に入ってから整備されたこともあり、施設はとても近代的で快適です。平日にも関わらず駐車場には警備員の方がおり、森へ入るためには必ず「ビジターセンター」を通る仕組みになっていました。これは、人の出入りを管理し、自然への影響を最小限にするための工夫でもあります。

ビジターセンターの様子。子供といっしょにいきました!散策中はずっと寝ていた…。
ビジターセンターは木材をふんだんに使い、周囲の自然に溶け込むような温かいデザインでした。ここには森の植物や昆虫の展示があり、予習をするのに最適です。ガイドツアーの受付や、カフェスペースもあり、お弁当を広げて休憩することもできました。
天然のダム、フカフカの腐葉土の秘密
ビジターセンターを抜けると、いよいよ森の中へ。 歩いてみてすぐに気がついたのは、この森が「落葉樹(らくようじゅ)」ばかりで構成されていることでした。スギやヒノキのような常緑樹がほとんど見当たりません。ちょうど秋の深まりとともに紅葉が始まり、足元には色とりどりの落ち葉が積もっていました。
運良く13時から開催された無料の「ガイドウォーク(30分)」に参加することができました。ガイドさんによると、これほど広大な範囲で落葉樹だけの森が残っているのは、関東では非常に珍しいそうです。
「ぜひ、道を外れて森の中を歩いてみてください」
ガイドさんに促され、木の根元へ足を踏み入れると、その感触に驚きました。 まるで高級な絨毯の上を歩いているかのように、地面がフカフカしているのです。


ガイドさんがその土を手ですくい上げて見せてくれました。土はホロホロと崩れ、おがくずのような手触りです。匂いを嗅いでみると、カブトムシやクワガタがいる飼育ケースのような、森独特の香りがしました。
これこそが、「腐葉土(ふようど)」です。 何十年、何百年とかけて降り積もった落ち葉が、微生物やダンゴムシ、ミミズなどの分解者によって分解され、栄養たっぷりの土に変わった姿です。
この分厚い腐葉土の層は、スポンジのように水を吸収します。雨が降ってもすぐに川へ流さず、一度森が蓄える。まさに「天然のダム」の役割を果たしているのです。だからこそ、晴れの日が続いても、森からは絶えず水が湧き出し、小さな小川を作り続けています。
森から海へ、命をつなぐミネラルの旅

奥に小川があります。静かに流れる水音が心地よいです。
森で生まれたこの小川の水には、豊富なミネラルが含まれています。 このミネラルはどこから来たのでしょうか?
答えは「落ち葉」です。 雨水が腐葉土を通る際、分解された落ち葉から鉄分などのミネラルが水に溶け出します。この「栄養たっぷりの水」は、やがて近くの川へ流れ込み、最終的には那珂川(なかがわ)へと合流し、海へと注ぎます。ここで壮大な「食物連鎖」のストーリーがつながります。森からのミネラルを含んだ水が、川や海へ届く。
そのミネラルと日光のおかげで、植物プランクトンが爆発的に増える。
それを食べる動物プランクトンが増える。
動物プランクトンを食べる小魚が育つ。
小魚を狙って大きな魚が集まる。
そして、その魚(サケなど)を食べるために、クマや鳥たちが生活できる。
那珂川にサケが戻ってくるのも、森のクマが生きていけるのも、元をたどれば「この森の落ち葉」のおかげなのです。「森は海の恋人」という言葉がありますが、まさにここではその科学的なつながりを目の当たりにすることができます。
理科教員おすすめ!絶対後悔しない場所
実際に森を歩きながらガイドさんの解説を聞くことで、教科書で習う「生態系」や「物質循環」が、目の前の景色とリンクする素晴らしい体験ができました。
平成になって開放されたばかりの新しいフィールドなので、まだ訪れたことがない方も多いはずです。ガイドツアーは予約なしでも当日参加できるものが用意されているのも嬉しいポイントです。
那須へ出かける際は、ぜひこの「那須平成の森」を訪れてみてください。 理科の教員はもちろん、そうでない方も、日本の自然の深さと美しさに感動すること間違いなしです。心からおすすめできるスポットです。
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