投げたボールの行方がわかる!動画コマ送りで発見する、世界を動かす2つのルール
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
投げたボールが描く美しいアーチ、バスケットボールの見事なシュート、そしてゲームのキャラクターが軽やかにジャンプする動き。私たちの周りには、きれいな曲線を描いて飛んでいくものがたくさんありますよね。実は、それらの動きには「放物運動」という共通のルールが隠されています。一見、難しそうな言葉に聞こえるかもしれませんが、その正体は驚くほどシンプルで、私たちの世界を支配する美しい法則の一つなんです。今日は、難しい数式が登場する物理の教科書から少しだけ飛び出して、その秘密を解き明かす「観察」の冒険にご案内します!
教科書の世界と、現実の世界の「カベ」
理科の授業で「放物運動(斜方投射)」を学ぶとき、多くは次のように説明されます。「投げられた物体の運動は、鉛直方向(上下の動き)の『等加速度直線運動』と、水平方向(横の動き)の『等速直線運動』という2つの動きを組み合わせたものです」
言葉で聞いたり、教科書の図を見たりしても、なかなかピンとこないかもしれません。実験をするのが一番ですが、授業時間には限りがあります。資料集の写真を見ても、どこか遠い世界の出来事のように感じてしまう…。生徒たちにとって、教科書に書かれていることと、自分たちの目の前で起きている現象が、うまく結びつかない瞬間があるのです。
物理の面白さは、身の回りの現象の「なぜ?」を解き明かすことにあるはず。そこで、「物理は暗記科目じゃない、すぐそこで起きているリアルな現象なんだ!」と感じてもらえるような教材は作れないかと考えました。
いつもの教室が、科学の実験室に!
そこで始めたのが、生徒たちにとって一番身近な場所、「いつもの教室」で動画を撮影し、それを分析するという方法です。使うのは、授業で見せたことのある、見慣れたぬいぐるみ。これを教室でポーンと投げて、その様子をスマートフォンで撮影します。たったこれだけです。
この映像を生徒たちに見せると、「あ、いつもの教室だ!」と、まず興味を持ってくれます。そして、この動画をコマ送りにして、ぬいぐるみが少しずつ動いていく様子をゆっくりと見せていきます。すると、肉眼では捉えきれなかったぬいぐるみの軌跡が、美しい放物線を描いていることがはっきりと見えてくるのです。
「分けて見る」と、隠されたルールが見えてくる
次に、この映像から5フレームごとに画像を切り出し、重ね合わせてみます。まるで分身の術のように、ぬいぐるみが少しずつ移動していく様子が一枚の画像になりました。
この画像を使えば、魔法のように物理法則が見えてきます。まず、横の動き(水平方向)だけを見てみましょう。ぬいぐるみとぬいぐるみの間隔が、ずっと同じであることに気づくはずです。これは、横方向には「同じ速さで動き続けている(等速直線運動)」ことの証拠です。
次に、縦の動き(鉛直方向)だけを見てみましょう。上っていくときはだんだん動きが遅くなり(間隔が狭くなる)、一番高い点を過ぎて落ちてくるときは、だんだん速くなっている(間隔が広くなる)のがわかります。これは、地球の重力によって常に下向きに一定の力がかかっている「等加速度直線運動」そのものなのです。
このように、複雑に見える放物運動も、「縦」と「横」に分けて見るだけで、実は2つのシンプルな運動が合わさったものだと、直感的に理解することができます。大切なのは、これが「生徒たちがいつも過ごしている教室で、見慣れたぬいぐるみが起こした現象」だという点です。物理法則は、特別な実験室だけでなく、私たちの日常空間のあらゆるところで、いつでも働いている。そのことに気づくきっかけになればと思っています。もしよろしければ、授業で使ったスライドのファイルを置いておきますので、ご自由にお使いください。
パワーポイントファイル(Windows) キーノートファイル(mac)
画像処理もそれほど難しくはありません。ぜひ、みなさんの教室でも試してみて、科学の面白さを生徒たちと一緒に発見してみてください。
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