安全ピン1つで静電気消滅!?あの「バチッ!」を防ぐ驚きのライフハック
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験!
冬の乾燥した季節、ドアノブに手を伸ばした瞬間、「バチッ!」という衝撃に思わず声が出てしまった経験はありませんか?あの鋭い痛みは、誰もが一度は経験したことのある冬の風物詩かもしれません。そんな悩みを解決する驚きの方法がネットで話題になっていました。「セーターの袖口に安全ピンをつけるだけで、静電気を防げる」というのです。
「え、たったそれだけで?」と、にわかには信じがたい話ですよね。しかし、ある科学的な現象が頭をよぎり、「もしかしたら…」という好奇心がむくむくと湧き上がってきました。これはもう、実験してみるしかありません!今回は、この身近なウワサが本当なのか、科学の力で徹底検証してみたいと思います。
「安全ピンが静電気を防ぐ」は本当か?いざ実験!
このウワサを検証するために、秘密兵器「帯電ガン」と「帯電椅子」を用意しました。これらを使って、体にどれくらいの静電気が溜まるのかを数値で見ていきます。
まずは基準となるデータから。何もつけずに帯電椅子に乗り、帯電ガンで体に静電気を溜めてみます。
すると、なんと電圧は20,000V(ボルト)以上に!家庭用のコンセントが100Vですから、とてつもない高電圧ですね。ただ、電流が非常に小さいため感電死することはありませんが、あの「バチッ!」の痛みには十分なエネルギーです。(実験は10月に行ったため、湿度の影響で8秒ほどで自然に放電してしまいました)
次に、帯電した状態で、服の袖口を机につけてみます。これは、普段の生活で何気なく机や壁に触れる動作と同じです。 すると、電圧は12,000Vまでしか上がりません。体に溜まった電気が、服と机を通して少しずつ逃げている(放電している)証拠です。
さあ、いよいよ本番です。袖口に金属製のクリップ(安全ピンの代わり)をつけ、そのクリップが机に触れるようにしてみると…驚きの結果が出ました! なんと、溜まった電圧はわずか9,000V!
さらに面白いことに、電気が抜けていく時間も明らかに早くなりました。これは、「安全ピン(金属)をつけることで、静電気が体に溜まりにくくなり、かつ、溜まってもすぐに逃げていく」ということを示しています。ウワサは本当だったのです!
ためしに、より面積の大きい目玉クリップでやってみると、効果はさらに顕著に現れました。
なぜ安全ピンで?秘密は「コロナ放電」という現象
では、なぜ一本の安全ピンにこれほどの効果があるのでしょうか?袖口につけた安全ピンによって、体に静電気が溜まると、日常の動作で壁や机に触れた際に、安全ピンを通して効率よく放電が行われ、体に高電圧が溜まるのを防いでくれる、というわけです。
昔の知恵にもつながる科学の原理
実は、私がこのウワサを聞いて「できるかもしれない」と思ったのには理由があります。以前、「靴の裏にホチキスの芯を打ち込むと、体に溜まった電気が地面に逃げていく」という実験をしたことがあったからです。これも、金属の芯がアースの役割を果たす、全く同じ原理です。
さらに昔に遡ると、車に「アースベルト」というゴム製のベルトを取り付けて、地面に垂らして走っているのをよく見かけました。これも走行中に車体に溜まる静電気を地面に逃がすためのもので、今回の安全ピンと同じ役割を果たしていたのですね。
一つの小さな安全ピンから、避雷針、そして昔の車の知恵まで。科学の原理は、時や場所を超えて、私たちの生活の様々な場面で活かされているのです。あの忌まわしい「バチッ!」に悩まされている方は、騙されたと思って、セーターの袖口に安全ピンを一つ、試してみてはいかがでしょうか。
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