光の屈折を捕まえろ! 4本の「まち針」が暴く光の道筋(トリック写真を見破ろう!)

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

水に入れたストローが、まるで折れ曲がったように見えたり、プールの底が実際よりも浅く見えたり……。そんな不思議な体験、みなさんもありませんか?これはすべて、光が「屈折」する、つまり光が曲がることで起こる現象です。

でも、「光が曲がる」と言われても、目に見えない光の道筋なんて、なかなかイメージしにくいですよね。教科書や資料集の図だけでは、生徒たちもピンときません。そこで今日は、その目に見えない光の道筋を「捕まえる」、とっておきの実験をご紹介します!

使うのは、理科の実験でおなじみの「ガラスブロック」。ですが、ある「身近な道具」をほんの少し加えるだけで、生徒たちの「なるほど!」が倍増するんです。その秘密兵器は、なんと裁縫箱に入っている「まち針」です!

「え、なんで?」と思った方、素晴らしい! 今日の実験で、なぜ光が曲がるのか、そして、なぜこんな風に頭と首が切り離されたようなトリック写真が撮れるのか、その謎を解き明かしていきましょう。

頭と首が分かれた!プールで体が分かれる驚きのトリック写真!(光の屈折)

(ちなみに、この効果的な実験は同僚のS先生から教えていただき、さらに理解が深まりました。素晴らしい実験です!)

準備するもの

  • ガラスブロック(直方体): 生徒の人数分、またはグループ数分
  • 画用紙(A4サイズ程度): 白いものが光の道筋を見やすいです。
  • まち針: 4本×生徒の人数分、またはグループ数分(予備も多めに)
  • 光源装置: レーザーポインターでも代用可能ですが、光の道筋を線として確認できるものがベストです。
  • 鉛筆、定規
  • (あれば)暗幕または遮光カーテン: 教室を暗くできると光の道筋がはっきりと見えます。

実験手順:光の道筋を「見える化」する

生徒たちが主体的に取り組めるよう、以下の手順で実験を進めましょう。 実験に使うワークシートはこちらからダウンロードできます。

光の屈折ワークシート(PDF)

ワークシート

少し作業が細かいので、先に動画で確認するのもオススメです。

1. まち針で「光の道筋」を追いかけよう

まず、画用紙にガラスブロックを置き、鉛筆でその形をなぞっておきます。 次に、ガラスブロックを一旦よけて、画用紙の適当な位置(黒い点)に、まち針を2本刺します。これが「光源(見たいもの)」の代わりです。

ガラスブロックを元の位置に戻し、ガラスの横から、さっき刺した2本のまち針をのぞき込みます。

ここが最重要ポイントです! この2本のマチ針が、ガラス越しに見て「ぴったり重なって1本に見える」位置まで、目線をずらしていきます。

重なって見えたら、その「視線」の延長線上に、3本目のマチ針を刺します。(手前のガラスの近くに刺してください)

最後に、その視線を保ったまま、4本目のマチ針を、3本目よりもさらに手前に刺します。 これで、目(4本目・3本目)と、ガラス越しの像(2本目・1本目)が一直線に並びました!

2. 道筋をつないで「屈折」を確認!

さあ、ガラスブロックと4本のまち針を、そっと取り除いてください。 画用紙には、針が刺さっていた4つの点が残っていますね。

まず、奥の2点(1本目・2本目)を定規で結びます。これが「光源からガラスに向かう光」です。 次に、手前の2点(3本目・4本目)を結びます。これが「ガラスから目に向かう光」です。 最後に、ガラスの枠の中で、2つの線をつなぎます。

どうですか? 光の道筋が、ガラスに入るときと、出るときで「カクッ」と折れ曲がっていませんか? これが、目に見えない「光の屈折」を、まち針で捕まえた瞬間です!

3. 答え合わせ:光の道筋を照らしてみよう

実験の仕上げです。教室を少し暗くして、光源装置(レーザーなど)を使い、今度はまち針を刺した「逆」のコース(4本目→3本目)に光を通してみましょう。

光は、ガラスを通り抜けたあと、さきほど刺した1本目・2本目の針の穴に向かって進んでいくはずです。 自分が引いた線と、実際の光の道筋が一致したとき、生徒たちからはきっと「おお!本当だ!」という声が上がるはずです。

トリック解明!なぜ光は曲がるのか?

なぜ光は曲がる(屈折する)のでしょうか? それは、光が進む「速さ」が、空気中とガラス(や水中)とで違うからです。

光は空気中よりもガラスの中の方が進むのが遅くなります。 まっすぐ進んでいた光が、斜めからガラスに突入すると、先に入ったほうがブレーキがかかり、後から入ったほうはまだ速いまま…。その「スピード差」によって、進行方向がグイッと曲げられてしまうのです。

ここまでくれば、冒頭のトリック写真の謎も解けますね!

あの「頭と首が分離した」写真も、これと全く同じ原理です。 水槽(ガラスと水)と空気という、光の進むスピードが違う場所を光が通るため、首から出た光が「曲がって」私たちの目に届きます。

しかし、私たちの脳はとても素直なので、光が曲がってきたとは思いません。「光はまっすぐ進むものだ」と信じています。 その結果、光が曲がってきた方向の「延長線上」に、首があるように「勘違い」してしまうのです。

だから、実際にある場所とは「違う場所」に首があるように見えていた、というわけですね。 まち針を使った実験は、この「脳の勘違い」と「光の真の道筋」の両方を解き明かす、素晴らしい実験なんです。

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