1日1万歩の立ち仕事を変えた「魔法の靴」。フィンランド「KARHU」が足裏の圧力を分散する
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
アスファルトやコンクリートの上を毎日歩いていると、夕方には足がパンパンに張ってしまいますよね。 私は地方出身で、子どもの頃は当たり前のように土の上を走り回って育ちました。そのせいか、大人になって一日中硬いコンクリートの上に立ち続ける生活に、どうも体が慣れてくれないようです。
実は、人間の足の構造は、柔らかく適度に反発する「土の上」を歩くように進化してきました。かかとから着地し、足裏全体がしなることで衝撃を吸収する…。この精巧なメカニズムが、硬すぎる「人工の地面」の上ではうまく機能せず、衝撃がそのまま膝や腰、そして筋肉に蓄積してしまうのです。
教師の宿命? 1日1万歩と「足のアーチ」の悲鳴
教員のみなさんは、どんなくつを履いていますか?教師になってからというもの、私は靴選びに本当に苦労してきました。 基本的に教員は立ち仕事です。 特に理科の実験では、生徒の安全を確認するために席をぐるぐると見て回りますし、普通教室と実験室が違うフロアにあることも珍しくありません。気づけば、一日一万歩くらい歩いています。
家から学校への通勤時も、一度も土にふれないため、体は常に硬い地面からの衝撃を受け続けています。はじめはスーツが基本なので、スーツにあう革靴で校内もすごしていました。 しかし、革靴は衝撃吸収性が低く、どうも足にあわなくて、ふくらはぎが毎日パンパンになっていました。重たい靴底が、さらに足に負担をかけていたのかもしれません。
家に帰るとベッドに倒れ込み、まず足を休ませる毎日です。「これは靴のせいだ!」と思い、靴底のゴムが厚いものに変えたり、いろいろ試したのですが、革靴の枠内では限界がありました。
スニーカー、そしてランニングシューズへ
そこで、思い切ってスニーカーを履くことにしました。 すると、驚くほど足の痛みがとれ、前よりも快適にすごすことができるようになり、授業や教材作成に集中できるようになったのです。靴をかえるだけでこんなに違うのか…。 そう思い、次に私が手をだしたのが、「歩行」と「衝撃」の専門家である「ランニングシューズ」です。
ランニングシューズは、走るために「軽く」、そして「衝撃を吸収する」ことに特化して作られています。これなら大丈夫だろうと試してみました。しかし、機能性を追求するあまり、派手な色や奇抜なデザインのものばかりで、教員が職場で履くには少し勇気がいるものばかり…。 しばらくはナイキのシューズを履いていたのですが、履き心地やデザインを含めて、なかなかしっくりきていませんでした。
運命の出会い!フィンランド生まれの「KARHU」
しかし昨年の夏、とうとう「これだ!」というシューズに出会いました。 それが、今日紹介するこちらのシューズです。


「KARHU(カルフ)」というメーカーの靴で、フィンランドに旅行にいったときに駅の近くで購入しました。 フィンランド発のメーカーで、100年以上の歴史を持つ老舗スポーツシューズメーカーだそうです。普通のランニングシューズのような派手さはなく、黒を基調にした落ち着いたデザイン。地味すぎず、熊のロゴマークが少し可愛いデザインで、とても気に入っています。

そして、これが本当にすごい履き心地なんです。 気に入りすぎて、毎日履いていたら半年でぼろぼろになってしまいました。そこで日本で売っているお店はないかと調べていると、渋谷で売っていることを知りました。 いつか行こう!と思っていたのですが、偶然にもアマゾンにあることを知り合いから教えてもらい、早速注文しました。



足が「喜ぶ」科学的理由
このシューズはランニングシューズであり、とにかく「軽い」ことが特徴です。 物理的に、重い靴を持ち上げるエネルギーは、軽い靴より当然大きくなります。この「軽さ」が、1万歩という長距離を歩く上での疲労を軽減してくれます。
そして、最大の秘密は「インソール(中敷き)」にありました。

写真で靴の中を取りましたが、わかりにくいでしょうか?少し左側の土踏まずのところが盛り上がっています。
人間の足裏には「土踏まず(足底アーチ)」という、弓なりの構造があります。 これこそが、人間が進化の過程で手に入れた「天然のサスペンション(バネ)」です。このアーチが着地のたわむことで、地面からの衝撃を見事に吸収しているのです。
しかし、硬い地面を歩き続けて疲労がたまると、このアーチが崩れて(下がって)きてしまいます。アーチが崩れると、衝撃を吸収できなくなり、足裏やふくらはぎ、膝に直接ダメージが伝わってしまうのです。このKARHUのシューズは、インソールの土踏まずの部分が少し盛り上がっていて、崩れがちな足のアーチを理想的な形で下から支えてくれるのです。
さらに、足の裏全体に圧力が分散されるように設計されています。 理科の言葉で言えば、「圧力=力 ÷ 面積」です。同じ体重(力)でも、かかとや指の付け根など、特定の点(小さな面積)で支えれば圧力は高くなり、痛みの原因になります。この靴は、アーチサポートによって足裏全体(大きな面積)で体重を支えるため、圧力が分散され、足が「ジャストフィット」して疲れないのです!
靴は、自分だけの「地面」を選ぶこと
この靴にしてからというもの、あれほど悩まされていた足の痛みが、本当にぱっと消えてしまいました。
コンクリートという硬い「地面」を変えることはできません。 でも、自分と地面の間にある「靴」という名の「第二の地面」は、自分で選ぶことができます。 足の痛みは、集中力やパフォーマンスを大きく低下させます。もし皆さんも「これ!」という靴に出会えていなかったら、ぜひ一度、ご自身の足の「アーチ」や「圧力分散」という視点で、靴を選び直してみてはいかがでしょうか。
今では私はこのカルフのスニーカーを3足持っていて、毎日二足を履き替えて、もう一足は学校で上履きとして利用しています。
みなさんはどんな靴を履いていますか? このKARHU、本当におすすめです。ただし海外のメーカーのものなので、サイズ感が日本と異なる場合があります。一度履いてみてからがいいかなと思います。
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