江戸の知恵が詰まった巨大な分度器!国立科学博物館で出会った『象限儀』の魅力

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

星の「高さ」を測る魔法の分度器

国立科学博物館に展示されていたのは、「阿蘭陀司天台象限図巻(おらんだしてんだいしょうげんずかん)」に描かれたモデルを再現した象限儀です。

象限儀とは、簡単に言えば「円の4分の1(90度)の形をした大きな分度器」のこと。使い方はシンプルで、望遠鏡や照準器を星に合わせることで、その星が地平線からどれくらいの角度にあるか(高度)を精密に記録することができます。

江戸時代、伊能忠敬が日本地図を作る際にも、この象限儀の技術が使われました。星の高度を測ることは、自分が地球のどの位置(緯度)にいるかを知るための、極めて重要なデータだったのです。

教室の風景と宇宙がつながる瞬間

この象限儀を見て、私はある光景を思い出しました。理科の授業で先生が大きな地球儀を取り出し、そこに分度器を当てて「ここが北極で、ここが赤道。星の高度はこう測るんだよ」と説明してくれる、あのシーンです。

教室での説明は、どうしても小さな模型の中での出来事に感じてしまいがちです。しかし、展示されていた象限儀を眺めていると、「かつての人々は、この地球という巨大な球体の上に立ち、本当に巨大な分度器を空に向けていたんだ」という実感が湧き上がってきました。

それは、教科書の中の知識が、実感を伴う「生きた科学」へと変わった瞬間でした。

道具が語る、人類の飽くなき好奇心

今ではスマートフォンのアプリ一つで、星の名前も角度もすぐに分かります。しかし、木や金属で作られた象限儀の目盛りをじっと見つめていると、当時の人々の「この世界の仕組みを正確に知りたい」という熱烈な好奇心が伝わってくるようです。

星の高度を測るというシンプルな行為の積み重ねが、やがて正確な地図を生み、海を渡る航海術を支え、現代の宇宙開発へと繋がっていきました。次に夜空を見上げる時は、ぜひ心の中で大きな分度器を空に当ててみてください。皆さんが立っているその場所が、壮大な宇宙の一部であることを、きっと肌で感じられるはずです。

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