お蕎麦せいろタワーの物理学!倒さずに多く運ぶための運ぶ3つの科学的なコツ

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

皆さん、マンガやテレビで、自転車に乗った人の体の上に高く積み重ねたお蕎麦のセイロを、巧みに操って運ぶ職人さんを見たことはありませんか?「いったい、どこまで積めるんだろう?」そう思ったことはありませんか?実は、この曲芸のような技には、奥深い物理学の知識が隠されています。

今回は、このお蕎麦タワーを崩さずに運ぶための「3つの物理のコツ」について、考えたので紹介します。

お蕎麦タワーの物理学:3つの重要なポイント

1. セイロがずれないようにする

せいろタワーを安定させるためには、まず何よりも「ずれ」を防ぐことが大切です。セイロがずれると、タワー全体の重心が傾き、崩壊の原因になります。

このずれの許容範囲は、あるセイロの上に積まれたすべてのセイロの重心が、下のセイロの「支持基底面」からはみ出さない範囲です。

この支持基底面とは、物体を支えている面積のこと。つまり、積み上げたセイロの重心が、その下のセイロの底面からはみ出さなければ、理論上は倒れません。

【科学的な工夫】

容器の間に滑り止めシートやテープを挟む
→ 摩擦力を増やし、ずれにくくします。

底面が広いセイロを選ぶ
→ 支持基底面が広くなり、タワー全体の安定性が増します。底面が広いほど、重心が多少ずれても耐えられます。

より詳しくは本の積み方で検討したので、こちらをご覧ください。

エ?崩れない!本の世にも奇妙な奇妙な重ね方(落ちそうで落ちない⁉ 本を重ねる物理の秘密)

2. 積み方を工夫して重心を低くする

セイロタワーの重心が高くなると、少しの揺れや傾きで倒れやすくなります。重心を低く保つことで、安定性は格段に向上します。これは、運ぶ人の体の重心(お腹のあたり)と、セイロタワーの重心をできるだけ同じ高さに揃えることにもつながります。

さらに、重心が低いほど、自転車の加速や減速、方向転換の際に働く「慣性力」や「遠心力」による**力のモーメント(回転力)**が小さくなります。その結果、タワーが倒れにくくなり、運ぶ人の負担も軽くなります。

つまり下ほどたくさんのせいろを並べて、上に行くほど数を減らすなどのピラミッド型の積み方をした方が重心が下がって良いですね。

3. 体に近づけて固定する

自転車のタイヤが地面に接する部分(支持基底面)の上に、運ぶ人とセイロタワーを合わせた重心が常にくるように意識しましょう。重心線が常にこの支持基底面の内側を通っていれば、どんなに高く積んでもタワーは倒れません。また、セイロタワーを体に近づけるほど、支えるための腕や腰にかかる負担が減ります。てこの原理と同じで、力が小さくて済むのです。

なお、自転車のタイヤは、細いロードバイクよりも、太いマウンテンバイクなどの方が安定します。

プロの職人技に潜む物理の法則

他にも、お蕎麦タワーを運ぶ際には、様々な物理の法則が関係しています。

慣性の法則

物体は、止まっている状態から急に動き出したり、動いている状態から急に止まったりするのを嫌がります。急発進や急ブレーキを避け、ゆっくりと加減速することで、セイロがずれるのを防ぎます。

遠心力と向心力

カーブを曲がる際、セイロには外側へ向かう遠心力が働きます。体を内側に傾けることで、遠心力とバランスを取る向心力を生み出し、転倒を防ぎます。

力積の時間を長くする(揺れを吸収する)

腕や膝をクッションのように柔らかく使い、路面の凹凸などによる衝撃を吸収します。熟練した職人さんは、まるでセイロが体の一部のように自然にバランスを取ります。

こうした物理の知識は、一見するとお蕎麦屋さんとは無関係に思えるかもしれません。しかし、プロの職人技は、知らず知らずのうちに物理の法則を最大限に活かした、合理的な動きなのです。

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