「バチッ!」の正体、解明します。15万ボルト発生装置「バンデグラフ」の秘密を徹底解剖!

サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。

冬になるとドアノブに触った瞬間に「バチッ!」と痛い思いをしたり、セーターを脱ぐときにパチパチと音がしたりすることがありますよね。これらはすべて、物質が電気をため込む「静電気」のしわざです。今日は、この静電気をあえて作り出し、自在に操る(?)ための、ちょっと怪しげで、でも最高に面白い科学装置をご紹介します。

「バチッ!」を自在に操る? 謎の球体・バンデグラフ

その装置の名は「バンデグラフ」。科学の実験室や博物館で、銀色の球に触れた人の髪が「ブワッ!」と逆立っているのを見たことはありませんか? まさにアレです。このちょっと覚えにくい名前は、実は発明者のロバート・ジェミソン・ヴァン・デ・グラフ博士に由来しています。

面白いのは、これが元々、科学教室のおもちゃとして作られたのではない点です。博士は、原子核に粒子を高速でぶつける「粒子加速器」の一部として、この高電圧発生装置を開発しました。つまり、もともとは原子の世界を探るための、最先端の研究機器だったのです。(興味がある人は「ヴァン・デ・グラフ加速器」で調べてみると、その壮大さがわかりますよ!)

(ちなみに、江戸時代の静電気発生装置「エレキテル」の仕組みについてはこちらにまとめています。)

静電気の基礎知識と「ライデン瓶・エレキテル・百人おどし」の歴史

15万ボルトの世界!

さて、私が個人的に持っているのはナリカ製のバンデグラフです。なんと最大15万ボルトもの電圧を発生させることができます(こっそり家族に内緒で購入したのですが、この大きさ…すぐにバレました)。

amazonでも販売されています

15万ボルトと聞くと「感電したら危ない!」と思うかもしれませんが、静電気の電圧(ボルト)は高くても、流れる電気の量(アンペア)が非常に小さいため、ビリッと感じても大きな危険はありません。(もちろん、心臓の弱い方やペースメーカーの方は注意が必要ですが!)普通、静電気の実験は冬の乾燥した日でないと成功しにくいのですが、この装置は強力なので、湿度が高い日でもバチバチと実験ができます。

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バンデグラフを使うと、髪の毛が逆立ったり、電気をためて放電させたりする実験が可能です。例えば、手でバンデグラフに触れると、体に電気がたまり、指先から放電して「パチッ」となる現象が起こります。この仕組みをうまく利用すると、面白い静電気実験がたくさんできるんです!

意外と単純? バンデグラフの「中身」

なんとなく、マッドサイエンス(怪しい科学)の装置みたいに見えるバンデグラフですが、中身はどうなっているのでしょうか。実はこの球体、パカっと開けることができます。さあ、中を覗いてみましょう…

驚きましたか? そう、中にはベルトコンベアのようなものが入っているだけなんです。私がもっているナリカ製のバンデグラフの仕様をHPで確認してみると…

ゴムベルトのローラーによって発生した静電気をドーム(集電球)に導き、蓄電させて高圧静電気を発生させています。

●発生電圧:最大約15万V
●放電距離(約):最大110mm(湿度40%時)、梅雨時60mm以上(実測値)
●集電球:φ約215mm
●放電球:φ約115mm
●電源:AC100V 50/60Hz
●大きさ:約270×210×620mm(集電球)、約150×130×490mm(放電球)
●重さ:約5.6kg

と書かれています。

バンデグラフの心臓部! 電気を「運ぶ」驚きの仕組み

バンデグラフの原理は、一言でいえば「摩擦で電気を作り、それをベルトで運んで球に蓄積する」というものです。バンデグラフの球をパカッと開けると、中にはゴムベルトと、上下に2つのローラーがありましたね。実は、この2つのローラーの「材質」を変えていることこそが、バンデグラフ最大の秘密なんです。では、スイッチを入れた瞬間から電気が溜まるまでを、ベルトコンベアの動きと一緒に見ていきましょう。

①【下部】こすって、電気を「作る」(マイナスの発生)

まず、ベルトコンベアが動き出すと、ゴムベルトは下部ローラーA(アクリル樹脂製)と強くこすれあいます。物質には、こすり合わせた時に「プラスになりやすい」か「マイナスになりやすい」か、という性質の序列があります。これを「帯電列(たいでんれつ)」と呼びます。

ゴムとアクリル樹脂の場合、アクリル樹脂の方がプラスに、ゴムの方がマイナスになりやすい性質を持っています。つまり、アクリル樹脂からゴムベルトへ、マイナスの電気(電子)が飛び移るのです。 これにより、ゴムベルトはマイナス(-)に帯電します。

②【上昇】運んで、電気を「溜める」(球体へ)

マイナス(-)の電気をたっぷり背負ったゴムベルトは、ベルトコンベアのようにグングン上昇していきます。 そして、上部の球体内部にある金属製の「集電板」に到着します。すると、ベルトが運んできたマイナスの電気(電子)は、金属の集電板にバチバチッと放電するように移っていきます。電子は金属の中を自由に動けるので、瞬く間に球体全体に広がり、蓄積されていきます。

③【上部】こすって、電気を「リセット」(プラスの発生)

さて、電気を渡し終えて「空っぽ」になったゴムベルトは、向きを変えて下に降りていきます。その時、今度は上部ローラーB(塩化ビニール樹脂製)とこすれあいます。ここで再び「帯電列」の出番です! 今度の相手は塩化ビニール樹脂。塩化ビニール樹脂は、ゴムよりも「もっとマイナスになりやすい」性質を持っています。 すると、先ほどとは逆に、ゴムベルトから塩化ビニール樹脂へと、マイナスの電気(電子)が奪われていきます。電子を奪われたゴムベルトは、相対的にプラス(+)の電気を帯びることになります。

④【下降】反対の電気も、運ぶ(支持台へ)

プラス(+)に帯電したゴムベルトは、そのまま下部へと降りていきます。 そして、下部にあるもう一つの集電板に到着すると、今度はプラスの電気をそこへ移します。このプラスの電気は、バンデグラフの「支持台(土台の部分)」へと蓄積されていきます。

⑤【繰り返し】そして高電圧へ…

ベルトはそのまま下部ローラーA(アクリル樹脂)に触れ、再び①の「マイナス(-)を背負う」作業に戻ります。この「①マイナスを運ぶ → ②球に溜める → ③プラスを運ぶ → ④支持台に溜める」というサイクルが、モーターによって高速で繰り返されます。

これにより、上の球体にはマイナス(-)の電気が、下の支持台にはプラス(+)の電気が、どんどん溜まっていくのです。マイナスとプラスが別々の場所に大量に集められることで、両者の間に「電気を使いたい!」という強い力(電圧)が生まれ、15万ボルトもの高電圧になるわけです。

静電気は、ただこするだけでなく、「材質の選び方」と「運ぶ仕組み」を組み合わせることで、こんなにも強力なエネルギーを生み出せるのです。まさに科学の知恵ですね!

よく勘違いされてしまうのですが、コンセントから電子が流れ込んでいるわけではないのですね。意外と仕組みはシンプルです。あくまでもモーターを動かすためにコンセントの力を使っているだけで、電気そのものは「摩擦」で生み出しているのです。

より詳しいしくみについては、こちらにも書かれているので御覧ください

実験!球に溜まるのは+? それとも-?

なお、やはりやってみなければわからない!ということで、この静電気発生装置、上の球は+とーのどちらに帯電しているのかも調べてみました。

使うのは「風船」です。

ティッシュペーパーなどで風船をこすると、風船はマイナスに帯電します

物質には電気の「+」と「-」がありますが、異なる物質をこすり合わせると、マイナスの電気(電子)が移動しやすい性質があります。風船とティッシュでは、電子はティッシュから風船へ移動するので、風船はマイナスに帯電します。

では、このマイナスの風船を、スイッチを入れたバンデグラフに近づけてみましょう。 ぼくが使っているのは、ナリカ製のバンデグラフです。スイッチをいれて、風船をそばにおくと…

手を離すと反発しました。

風船は見事に反発しました! 理科の基本ルール、「同じ種類の電気(-と-、または+と+)はしりぞけあい、違う種類の電気(+と-)は引きあう」を思い出してください。 マイナスの風船がしりぞけられたということは、このバンデグラフの球にもマイナスの電気がたまっていることがわかりますね!

【応用編】電気が「逃げる」? 静電誘導の不思議

ここで面白いのが、バンデグラフのスイッチをOFFにしてから、一度手で球に触れて電気を逃がします(放電させます)。これで球はプラスでもマイナスでもない「中性」な状態(電気が空っぽの状態)になったはずです。では、この「空っぽ」の球に、先ほどのマイナスの風船を近づけるとどうなるでしょう?

なんと、今度は風船がスッと吸い付いてきました! 不思議ですよね。球は空っぽのはずなのに、なぜマイナスの風船を引きつける(=プラスの性質を示す)のでしょうか? これが「静電誘導(せいでんゆうどう)」という、静電気の最大に面白い現象の一つです。

球は「金属」でできています。金属の中には、自由に動き回れるマイナスの電気(自由電子)がたくさんいます。 ここにマイナスの風船が近づくと… 「うわー! マイナスが来たぞー!」と、金属の中の自由電子たちが、風船から一番遠い側(この写真では私の手が触れている側)へ逃げていくのです。

球の反対側にマイナスの電荷が移動(私の体をつたって電子が逃げているかもしれません)

その結果、風船に近い側は、電子がいなくなったことで「プラス」の状態になります。だから、マイナスの風船と引きあうんですね。 これは、下敷きでこすった髪の毛が、電気を帯びていないはずの壁にくっつくのと同じ原理です。

静電気は「なぜ?」の宝庫

ちょっとしたことですが、スイッチがONの時とOFFの時で、風船の動きが「反発」から「引きあう」に変わる。このように、身近な現象がなぜそうなったのか?を考えていくことが、静電気の実験の奥深さであり、科学の面白さそのものですね。

冬に「バチッ!」ときたら、それは電子(マイナスの電気)があなたから何かに飛び移ったか、あるいは何かがらあなたに飛び込んできた証拠。「ああ、今、電子が移動したな」と思いを馳せてみるのも、ちょっと楽しいかもしれません。

静電気発生マシーン(バンデグラフ)を使うと、こんな面白い実験が!!

バンデグラフを使った面白実験も公開しています。この実験は、広瀬すずさん・鈴木亮平さん・やす子さん・チョコレートプラネッツの長田さん・松尾さん等とテレビ番組にて行った実験も含まれます。詳しくはこちらをどうぞ

※ なお、静電気発生装置(バンデグラフ)を用いた実験については、必ず専門家の方の立ち合いのもと行ってください。お気をつけてお試しください。また静電気実験に関するご依頼(実験教室やTV監修・出演等)についてはこちらからお願いします

【特集】やめられなくなる!静電気実験

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